小説|雪のように儚く(仮)|第1話|ちょっとホラーです。
こんばんは。
fuwamaru-studioです🤗
今日から、昔の私が書いた物語を、一話ずつ掲載していきたいと思います。
ずっと心の中に残っていた物語を、
今の私が、もう一度歩き始めます。
タイトルは、まだ仮のものです。
それでは、はじまりです。
【第1話】
* * *
画面いっぱいに、次々とコメントが流れていく。
その中央に映っているのは、
VTuber――Suzune。
いつもと変わらない生配信。
けれど、その日のSuzuneは、いつもより少しだけ口数が少なかった。
しばらく流れていくコメントを眺めたあと、静かに口を開いた。
「今日は、皆さんにお話ししたいことがあります」
コメント欄がざわつき始める。
Suzuneは少し間を置いてから、続けた。
「まず……私の本名は『音』と言います」
これまで明かしたことのない、本当の名前。
「本当の私は、出不精で運動音痴。漫画が大好きな、生粋のオタクです」
少し照れくさそうに笑った。
「そんな私が、今こうしてVTuberとして、皆さんの前で配信をしています」
そして――
Suzuneの表情から、笑顔が消えた。
「私がここにいるのには、ある理由があります」
一度、小さく息を吸う。
「私には、妹がいました」
「名前は――鈴」
しばらくの沈黙。
画面には、今もコメントが流れ続けている。
「これからお話しするのは、私と妹に起きた出来事です」
Suzuneは、まっすぐ画面を見つめた。
「これは、本当にあった怖い話です」
* * *
――2021年、冬。
雪に覆われた山々の間を、一台の車が走っていた。
道路の両側には雪が積もり、その向こうには、白く染まった山々がどこまでも続いている。
助手席に座っているのは、中学三年生の鈴。
十五歳。
春からは、高校へ通うことが決まっていた。
車を運転しているのは、鈴も私も幼い頃から大好きだった叔父。
私たち姉妹は、叔父のことを、
「山の叔父さん」と呼んでいた。
叔父は東北の山村で林業を営み、山菜の採り方や、美味しいキノコの見つけ方、ヤマメの釣り方まで、山のことなら何でも知っています。
熊が頻繁に出没するこの地域では、腕のいいマタギとしても知られ、村の皆から尊敬されているのです。
そして、村営スキー場の経営にも携わっていて、地元で知らない人はいない程の有名人です。
鈴は、そのスキー場で、スノーボードの練習をするため、今シーズンも山の叔父さんの家に泊まります。
鈴は幼い頃からスノーボードを続けていました。
その実力は、オリンピックの日本代表候補として名前が挙がるほどになっていた。
春から始まる高校生活。
その先に待っている、選手としての未来。
鈴には、まだたくさんの時間があるはずだった。
車の窓の向こうを、真っ白な雪景色が流れていく。
大好きな山の叔父さんと過ごす、いつもの冬。
その日も、いつもと変わらない一日になるはずでした。
少なくとも――
そのときの私たちは、そう思っていた。
* * *
一方、私はその年、叔父さんのところへ行くことができなかった。
高校受験を控えていたからだ。
お正月だというのに、机の上には参考書とノート。
例年通りなら、冬休みは、私も鈴と一緒に雪山へ行っているのだ。
……と言っても。
私は鈴とは正反対。
出不精で、運動音痴。
外へ出て身体を動かすより、暖かい部屋で漫画を読んでいるほうが、ずっと幸せだった。
そんな私でも、山の叔父さんに会えないのは少し寂しかった。
家族が眠りについたあとも、私は一人、机に向かっていた。
時計の針は、いつの間にか深夜を回っていた。
家の中はすっかり静まり返り、時計の針の音だけが響いていた。
あと少し。
ここまで終わったら、今日は寝よう。
そう思って、参考書に目を落とした。
そのときだった。
突然――
激しいめまいに襲われた。
「……え?」
心臓が大きく脈を打つ。
ドクン。
ドクン。
息が苦しい。
まるで、危険な薬剤を混ぜ合わせたときに発生する毒ガスを吸い込んでしまったような感覚だった。
胸を押さえた。
息を吸おうとしても、うまく吸えない。
「なに……これ……」
机に手をつこうとした。
けれど、身体に力が入らなかった。
目の前の文字がぼやけていく。
部屋の景色が歪んでいく。
遠くで、何かが聞こえたような気がした。
けれど、それが何なのか確かめるより先に――
目の前が、真っ暗になった。
つづく
次回 第2話「第三の目」
