小説|雪のように儚く(仮)|第5話|先祖が書き残した巻物
こんばんは
fuwamaru-studioです🤗
これまでの話↓
【第5話】
* * *
やがて日が暮れ始めました。
山に囲まれたこの村では、日が沈むと辺りはあっという間に暗くなります。
ましてや、今は雪の季節。
足元も見えない暗闇の中で捜索を続けるのは危険だということで、その日の捜索は中断されることになりました。
「今日は、ここまでにしましょう」
その言葉を聞いた瞬間、
私は何とも言えない気持ちになりました。
鈴はまだ見つかっていない。
こんなに寒いのに。
こんなに雪が降っているのに。
どこにいるのかも分からない妹を残して、捜索をやめなければならない。
仕方がないことだと分かっていても、
「もう少しだけ……」
そう言いたくなりました。
村の人たちが、一人、また一人と山から戻ってきます。
雪の中を歩き続けた長靴には雪がこびりつき、吐く息は白く、みんな疲れ切った顔をしていました。
それでも、
「明日の朝、また探すから」
そう声をかけてくれました。
私はただ、頭を下げることしかできませんでした。
* * *
叔父の家へ戻ると、普段とはまるで違う静けさがありました。
いつもなら、お正月にはもっと賑やかです。
人が集まって、笑い声が聞こえて、
お酒や温かい料理が並んで――。
けれど今は、誰も口を開きません。
簡単な食事が用意されました。
けれど、何を食べたのかほとんど覚えていません。
お腹がすいているはずなのに、食欲なんてありませんでした。
両親も叔父も黙ったまま。
聞こえるのは、食器の触れ合う小さな音くらいです。
静まり返る中、
私の頭からずっと離れなかったのは、
昼間、村の人たちが話していた言葉でした。
「山神さまの祟りじゃないのか……」
「今年は百年に一度の祀りの年じゃねぇだか……」
百年に一度、山神様を祀る年……。
どういう意味なのだろう。
何故、村の人たちはあんなに怯えたのだろう。
食事が終わったあと、
私は思い切ってそのことを尋ねました。
「……昼間、村の皆が話していた、山神様って何……?」
一瞬、部屋の空気が止まったように感じました。
誰もすぐには答えてくれませんでした。
やっぱり、何かある……。
しばらく沈黙が続き、叔父さんが口を開いた。
「この村には昔から伝わる古い言い伝えがあるんだよ」と教えてもらいました。
そういう言うと、
押入れの奥から、なにやら古い巻物のようなものを引っ張り出してきたのです。
古い巻物を見せて頂くことになったのです。
長い年月を経たその巻物は、紙もすっかり色が変わっていました。
高祖母が、古くから棲みついている、この山の主からの言い伝えを、巻物に書き残した大切なものだそうです。
そっと広げると、そこには昔の出来事が記されていました。
私は、その巻物を読み始めました。
* * *
――明治三十五年。
この付近の山々は、古くから村の人たちにとって、慣れ親しんできた庭のような場でした。
季節ごとに山菜や木の実や果物も豊富に実り、キノコを探し、ヤマメや鮎を釣る。
山からたくさんの恵みを頂戴し、
私たちは山の神様に感謝して日々暮らしていました。
その日も特別なことなど何もなく、
いつもと同じように山菜を採っていました。
しばらく山を歩いているうちに、お腹がすいてきました。
ちょうど目の前に、
腰を下ろすのに良さそうな大きな倒木がありました。
そこに腰掛けて一休みすることにしたのです。
持ってきたおむすびを取り出しました。
山の中は静かでした。
風が木々を揺らす音。
夏でも涼しい風が吹き、小鳥のさえずり、遠くから聞こえる沢の音。
いつもと何も変わらない山の風景。
包みを開き、
おむすびを食べようとしたそのときでした。
腰掛けていたはずの倒木が、
ゆっくりと、動いたのです。
つづく
次回【第6話】動く倒木
