本当のごちそうを教えてくれた人
スーパーの魚売り場で、誰もが通り過ぎてしまうパックがあります。
でも私には、それが「本当のごちそう」に見えます。
安くて、棄てられてしまうかもしれない部位。
でも、そこには命の端っこまで詰まっていて、心を温めてくれる旨味がある…
今日は、その記憶について書いてみました。
「本当のごちそうを教えてくれた人」の話です。
私には、幼い頃から食べ続けてきた「ソウルフード」があります。
スーパーに行くとつい目がいってしまう。
学生時代、冷蔵庫にはいつも鍋ごと入っていた。
人生のそばに、いつもそれがありました。
それは——魚の「アラ」。
刺身や切り身にするために魚をおろしたあとに残る、頭やカマ、中骨、ヒレなどの部位です。
スーパーではパック詰めされて、夕方まで売れ残っていることも多いです。
大きな目玉がギロリと見ていたりして、少しグロテスクに見えるかもしれません。
でも私にとっては、何にも代えられない、かけがえのないごちそうであり、究極の、そして至高の食材です。
脂ののった腹骨の部分の身、カマ、頬肉、唇、軟骨、皮、そして目玉。
聞いただけだと確かにグロテスクな感じがするかもしれません。
スーパーで見かけても、無条件で通り過ぎてしまうかもしれません。
しかしこれらにはどれも旨味が凝縮されていて、部位によっては、トロに匹敵するくらい…あるいはそれ以上に美味しいと自分は思っています。
このことは、漫画『美味しんぼ』で主人公の山岡さんが「グロテスクな物ほど旨い、これは原則ですよ」と言ってることからも、私だけの独りよがりというわけでもなく、ある程度の信ぴょう性はあるのではないか…と思います。
そんなアラを、私は3歳の頃から食べていた記憶があります。
母親がいつも鮭のアラを買ってきて、甘じょっぱく煮てくれて、その中でも一番美味しいところをいつも私に食べさせてくれました。
鮭のアラだけではなく、マグロのアラとして売られている、骨が少なく筋のある部分をフライにしてくれた「マグロカツ」。
ブリのアラの出汁のうまみが大根に染みた「ぶり大根」。
どれも、安価で手に入るのに、驚くほど美味しい料理でした。
魚は骨が多くて子どもには苦手なはずなのに、私はそれを「好きなもの」として食べていました。
骨だけ残してきれいに食べることができるようになったのも、そんな母の料理のおかげです。
「命あるものをいただくのだから、食べられるところはすべていただく」——そんな価値観も、自然と身につきました。
大学生になる前から、「自炊できるようになったら、毎日でも良いからアラを煮て食べよう」と思っていた記憶さえあります。
それほど、アラは私の一部になっていました。

でも、それは単に「安くて美味しい」からではありません。
アラは、本来棄てられてもおかしくない部位。
でも、実は脂がのっていて、コラーゲンなど栄養価も高く、旨味が深い。
高級な部位に負けないどころか、それ以上の価値があると私は思っています。
そして、このことは、私の人生観にもつながっています。
高級な食材や華やかな料理は、確かに人を感動させてくれる。
でも、スーパーで安く売られているアラの方が、私にはずっと輝いて見えます。
見かけではわからない、本当の価値。
表面的な華やかさではなく、内側にある光り輝くもの。
映画で言えば、名脇役がいるからこそ、物語が引き立つように。
人生も、そういうものなのかもしれないと。
母が食べさせてくれたものは、安くて、もしかしたら人によっては棄てられてしまうようなものだったかもしれません。
でも、どんな高級な料理よりも、本当に美味しくて、栄養があって、輝いていました。
見かけではわからない、その奥にあるもの。
それは、母が立つ台所で、湯気の向こうに見えていた気がします。
母は、何よりも美味しくて、素晴らしいものを、私に食べさせてくれていた…
そう思うのです。
アラは、人生において、私に大切なことを教えてくれた存在でした。
表面だけの華やかさや豊かさに惑わされることなく、どんな状況でも心の中の輝く光を失わずに、生きていていくこと——
たった数百円のパックの中に、そのすべてが詰まっていると。
母の料理を思い出します。
いつも、少しでも安くて美味しいものを買うために、何件もスーパーをはしごして、何キロも歩いて買い物をしてくれたこと。
いつでも「無添加な食材を」と考えてくれていたこと。
アラの煮物、野菜たっぷりの味噌汁、味見しないのに絶妙な煮物、普通とちょっと違うトマトやかぼちゃが入ったカレー…他にもたくさん。
そして、どんな日でも早起きして作ってくれた栄養満点のお弁当。
今日は、そんな母の命日です。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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