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議場の片隅にて

「選挙と選挙の間が大切」

先日行われた杉並区の区長選挙において、2期目の当選を果たした岸本聡子さんの当選時のコールにあったフレーズだ。まさにそうだと思う。でも、選挙と選挙の間とはなんだろうか。わたしは、それを議会だと捉えている。これは選挙と選挙の間にある、議会、それも地方議会を見つめている傍聴愛好家、あるいは議場の妖怪の3日間の記録。

2026年6月15日(月)

わたしは上田市役所にいた。上田市議会6月定例会一般質問を傍聴するために。朝9時、上田市役所本庁舎。エレベーターで5階に上がる。議会事務局の窓口で傍聴券を受け取る。整理番号3番。一緒に来たパートナーは4番。議場手前にあるホワイエでパートナーに「傍聴来たぜ、いえーい」というはしゃいだ写真を撮ってもらう。その様子を、この春副議長になったS議員に見られ、「傍聴デートだね」と微笑まれた。

議会のあらまし

地方議会は地域にもよるが、だいたい3、6、9、12月に定例会という会議をやっている。選挙があったりすると臨時会というものが開かれることもある。わたしが暮らす長野県上田市は3月に市長と市議会議員の選挙があった。市長選は現職と新人による一騎打ちで新人が当選した。一方、市議会議員は定数(定員)28名に対して、41名が立候補するという激戦だった。結果として現職が17名、元職が1名、新人が10名という構成になった。年代は30代から70代までと幅広く、性別は男性は21名、女性は7名という割合だ。女性議員は選挙前は5名だったので微増である。というわけで、選挙があったので4月に臨時会があり、議長と副議長が決まった。前述の副議長になったS議員は3期目の女性議員だ。

話を一般質問に戻す。一般質問とは、市議会議員が市長や行政職員に市政(市の政治)について、計画の状況だったり、方針だったりを聞く営みだ。わたしは一般質問をライブと呼んでいる。質問テーマという選曲を行い、議場で質問という歌を披露する。そんなフレームで議会を捉え、周りの人々におもしろおかしく話している。推し活的なフレームでの語りによって友人・知人たちが議会に興味を持ってくれたりする。

選挙後初の一般質問は、新しいメンバーになった上田市議会にとってのファーストライブであり、新人議員にとってはデビューライブだった。なのでわたしは、このファーストライブでデビューライブな6月定例会一般質問を3日間全通しようと決めた。朝から晩まで、有給を使って傍聴する。SNSでそう宣言し、実行に移した。

議場と傍聴席

整理番号3番。手元にある傍聴券に振られた番号に嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちになる。ファーストライブでデビューライブなのにまだ3番とは…おかしい、もっと人がいてもいいはずなのに。そんなことを考えながら、ゆるやかで小さなスロープを上がり議場に入る。何度来ても木の香りが心地よい議場である。

傍聴席はおおむね30席程度で、向かい合う議員席と行政の席を真横から見る形で設けられている。さながら劇場にもみえるつくりだ。建て替え前の上田市役所の議場は、議員席の後ろに傍聴席があったので、議員の顔がよく見えなかった。新しい市役所になって、傍聴席が真横になって、議員たちの顔がよくみえるのは嬉しい。ただ傍聴席に対して奥の方にいる人たちの顔がちょっと見えにくいのが玉に瑕だ。最前列左から2番目の席に座る。なぜかはわからないけど、この席が好きだ。

一般質問と会派

一般質問は3日間行われる。初日はまず会派代表質問が行われ、次に個別質問というスケジュールだった。会派というのは、ざっくり言うと考え方が近しい議員たちのグループだ。3人以上集まれば会派を作ることができる。上田市議会には現在、4つの会派と1つの会派に準じる団体というのがある。しばしば会派=政党と思われがちだが、政党もあれば無所属の議員で作られている会派もある。会派代表質問では70分という持ち時間で、各会派の代表たちが市政についてあれやこれや質問する。

この日、最初に質問したのは、元市議会議員でもある新市長が議員時代に所属していた会派だった。つまり、苦楽を共にしたであろう議員たちが、今度は議員と市長という立場になり、激論を交わすという展開だった。立場を同じくしていたからこそ、厳しい眼差しを感じる質問が新市長へと次々に投げかけられていた。

傍聴する人を見守る妖怪

70分×4会派という大学の講義のような時間を過ごした後は個別質問。議員一人ひとりが45分間で市政について問う。初日の個別質問は3名。皆新人議員だった。彼らのデビューライブを見守りに、それぞれのご家族やパートナーと思しき方々が傍聴に訪れていた。

その様子を見て、ふと選挙前の3月定例会を思い出した。一般質問の休憩中、議場外のホワイエにいると「実は初めて傍聴するんです」という声が聞こえてきた。話を聞くに、3月で引退される議員のご家族だった。「初めてがラストライブ(最後の一般質問)か……」とちょっとだけ複雑な気持ちになった。もっと議場での姿を見てほしかった気もするし、家族だからこそ見られないというのもあっただろうし、それでも最後の姿を見に駆けつけたということも尊いし……と、勝手に思いを馳せてしまった。そんなこともあり、デビューライブから見守る家族がいるというのは、なんだか嬉しかった。「デビューだけじゃなくて、セカンドライブも、サードライブも見守ってね」と傍聴愛好家の妖怪として心の中で思った。

「デビューライブだし、たくさんの傍聴者でお気に入りの席に座れなかったらどうしよう〜」という不安を抱えながら迎えた一般質問初日。そんな思いは杞憂に終わり、でも、なんだかんだ知り合いが入れ替わり立ち替わり傍聴に来てて嬉しく思った。ちなみにパートナーは午前中のみ傍聴し、わたしだけ朝から晩まで傍聴した。帰ったら美味しい晩御飯と共に待っててくれた。

2026年6月16日(火)

上田市議会6月定例会一般質問2日目。慣れた手つきで受付を済ます。整理番号1番。おめでとう!何気に初めての1番にちょっとだけ小躍りする。今日は新人議員デビューライブの山場といっても過言ではない。前日の3名に続き、7名の新人議員が質問する。今日こそは、「お気に入りの席に座れないくらい傍聴者が来るかも!」と期待に胸膨らませ、議場に足を踏み入れた。

質問と採点と

一般質問を全通するにあたり、試みたことがある。それは「質問レビューを書くこと」だ。議員一人ひとりの質問を聞き、レビューを書く。ただ書くのではおもしろくないから5つの観点から5段階で評価してみようと思った。質問に対して、「テーマ設定」「質問力」「追求力」「実現性」「提案力」の5つの観点で眼差してみる。これまで漠然と聞いていた質問も不思議と違う聞こえになった。

それぞれの観点は独立しているのではなくゆるやかに連動している。テーマ設定がしっかりしていれば、自ずと質問力も高い評価になる。一方で追求力と提案力は、議員あるいはテーマ設定によって、そのどちらかに偏る印象があった。提案が上手い人は深く追求する質問はしなかったし、深く追求する人はあまり提案する感じではなかった。議員には提案型と追求型がいるのかもしれないと仮説を立ててみたりした。ただ、人が人を評価すること、特に数字をつけることの怖さを同時に痛感した。

デビュー、おめでとう

新人議員のデビューライブを見届けた。子育てや福祉といった定番の質問から、道路工事の進捗、野生鳥獣の被害防止策、高齢者の難聴に対する補聴器の補助などさまざまなテーマが質問された。新人らしいフレッシュさがありつつも、時間配分や事前調査、質問力不足など課題は山積だ。

でも、議場という場に立つこと、そこに至る過程を含め、まずは「ブラボー」と思う。初日同様、デビューを見守るご家族やご友人が傍聴に訪れててとてもよかった。新人議員が「市民のための議員」になっていくためには、その仕事をしっかり見つめる市民が必要だと思っている(もちろんベテラン議員に対しても!)。だから、傍聴に来た彼らに「きみたちの眼差しや、フィードバックが大事だぞ!」と傍聴愛好家の妖怪として心の中で思った。口には出さなかった。

ちなみに朝に抱いた「お気に入りの席に座れないくらい傍聴者が来るかも!」という期待は、現実のものとなった。やはりデビューライブ、普段以上に傍聴席が賑わい、席が埋まる場面があった。わたしは最前列左から2番目の席を手放し、最後列一番右端に座った。これがなかなか心地よかった。新しいお気に入りの席を見つけてしまった。

2026年6月17日(水)

上田市議会6月定例会一般質問3日目。3日目ともなると疲れを感じた。ぼんやりしながら5階に上がり、受付をする。整理番号2番。3日間で1、2、3(順不同)をコンプリートしたのは、謎の喜びがあった。

疲労困憊。夢の世界と現実と、

さすがに3日間、朝から晩まで傍聴するというのは無理があったと思う。加えて3日目の一般質問はベテラン議員たちがそのステージに立った。安定 of 安定。その安心感と安定感の心地よさに、夢の世界と現実を行き来した。最後列一番右端の席で。質問と質問の合間の休憩時間にふらふらとホワイエに出ると、わたしが心密かに「提案力No.1」と呼んでいるT議員が「やぎちゃん、夢の世界にいたでしょう〜」と笑いかけてきた。見られていた。こちらから議員がよく見えるということは、議員席からも傍聴者がよく見えるのだ。

わたしは見ている

今回の全通に限らず、わたしはここ数年、時間さえあれば傍聴に行っている。それゆえ、議員に顔を覚えられるし、SNSでもしばしば発信するので名前も覚えられる。顔馴染みにもなるし、何かあれば相談させてもらうこともある。声をかけてくれる人もいれば、会釈に留まる人もいる。逆にこちらが会釈をしてもスンとしてる人もいるし、わたしのことを透明人間か何かのように振る舞う人もいる。そいういう人を見た時は「(そういう振る舞いも見てるからネ)」と心の中で嫌味っぽくビッグスマイルしてる。

質問してくれて、ありがとう

夢と現実を行き来しながら聞いた3日目の一般質問には、新市長の憲法観を問うものや非核三原則について、あるいは公約にある「稼ぐ」という言葉に釘刺すような質問があった。「それ、聞いてくれてありがとう〜〜〜〜」と思わず胸の前で手を組む質問があったことは素直に嬉しかった。自分の声を代弁してくれるかもしれない議員が議場にいる。それだけで安心できるものがある。そういう質問や議員に出会えるのもまた傍聴の醍醐味だ。

全通を終えて

3日間、朝から晩まで市役所に通い、傍聴する。しかも、レビューを書く。ということをやってみた。レビューは代表質問を行った4名の議員を除く、個別質問をした22名全員について書いてnoteで公開した。点数は公開しなかった。「公開フィードバックなんてやることが妖怪すぎるね」と別の街で市議会議員になった友人に笑われた。妖怪。そう。全通すること、レビューを書くこと。それらは人間の所業ではないと思ったし、人間のやることだと思うと気が狂いそうになる。だから、わたしは妖怪を自称しながら地方議会を見つめている。

でも、本当は人間のままで見つめたほうがいいこともわかってる。だって、議会で話されることは人間の生活に関することだから。福祉、子育て、介護、医療、経済、道路、災害対策、街づくり…。わたしたちがどう暮らしていくか、生きていくか、その問いを議場でたくさんの人々が話し合っているのだ。

選挙と選挙の間に行われている営み、それすなわち議会について、その街で暮らす多くの人々は意識していないように思う。気にしなくてもそれなりに生きていける、あるいは気にする余裕のない人たちもいるだろう。でも、気にした方がいいし、気にしてほしい。

わたしのように3日間全通なんて気の狂ったことはしなくていいから、せめて自分たちの代表となった市長や市議会議員が話す言葉を、語る話題を、人間の眼差しを持って、見つめてほしい。選挙で選んで終わり。ではなく、その後も見つめてほしいと議場の片隅から思う。

補足:市議会議員は公人であり、それぞれの名前を公表してもよいと考えるが、エッセイのテイスト上、イニシャルとした。

#創作大賞2026 #エッセイ部門

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