【掌編】FA化 〜直人と絵梨花〜
絵梨花の会社ではフリーアドレス化が進んでいる。事務所は、個人にはコインロッカーくらいの大きさのロッカーしかなくて、デスクはどこに座っても良いシステムになっている。
各デスクには番号が振っていて、自分が座りたい席を出社の前日までにネットで予約することになっている。
絵梨花は、そのネットシステムを管理していて、出社状況を監視する担当者だ。
基本はリモートワークだから社員が100人いても出社用のデスクは30席もあれば充分だ。
営業部の売り上げより、ビルの賃貸料を削減した効果の方が遥かに大きくて、絵梨花の会社は儲かっている。大企業なら自社ビルでさえ売りに出すご時世だから、これも時代の流れだろう。
あら?社員番号⑬番のデスクの隣には、また⑧番の人が予約してるわ。⑧番はこれで10日間続けて⑬番の隣を予約してる。⑬番は確か関内直美さん、新人の女の子ね。
⑧番は、えーっと、同期の直人だわ。
絵梨花は新人の頃、直人とデートしたことを思い出す。
直人は明るくて人当たりが良く、同期の中でも会社の人達に一番先に馴染んでいた。
そんな直人からある日デートに誘われて、その週末にデートに行ったのだった。
映画を見て、居酒屋に行ったあと、バーでカクテルを飲んだ。
「やっぱ、ジェラシックパークって最高だね!」
キラキラと、そして活き活きと話す直人に惚れてしまい、絵梨花はその日、生まれて初めて自分から誘ったのだった。
「今夜は帰りたくないな」
「俺、カントンだから泊まりは無理なんだ」
そうゆうと直人は席を立ち、さっさとお会計を済ませて、一人で駅へと向かっていった。
あの時の言葉は未だに理解不能だけど、直人はその後、直ぐに幼なじみと結婚して、今は小3の長女と小1の双子の男の子がいるはずだ。
同期のみんなから一姫二太朗と、持て囃されていたのを覚えてる。
幸せを絵に描いたような家族なのに、会社で浮気しようとしてるなんて許せない!
絵梨花は怒りが込み上げてきて、自宅の端末からオンラインで直人の端末を呼び出した。
「はい、佐々倉直人ですが...。」
モニターには直人の顔が映り出された。
一度は恋をした相手。直人はあの頃のまま若々しくて、小栗旬のような顔立ちをしている。やっぱり私のタイプだわと場違いなことを、ふと思う。
「こんにちは。同期の春山絵梨花です。
さっそくだけど直人さん、毎日、新人の関内直美さんの隣に席を予約してるでしょ。仕事の関係では無さそうだし、一体どうゆうつもりなの?」
モニター越しの直人はずっと俯いたままだ。
でも、よく見るとスマホを触っているように見える。
「ねえ、聞いてるの?なんとか言いなさいよ!」
「よし、予約完了。家のテーブルは4人掛けでね。五人家族では一人余るからフリーアドレス化してるんだ。
午前中に夕食の席を予約するシステムでね。今日も愛しの長女の隣席をゲットだぜ!
ビジネスもプライベートも常に最適な環境で過ごしたいよね」
「あっそっ、いつも真っ直ぐ帰って、家族で夕食を食べてるのね」
(ぱひゅん)
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