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私の小説が、現実に追いつかれた日

——『AI政府 ガイアサピエンスの夜明け』と2026年のアメリカ

2026年6月、私はニュースを読みながら、自分が書いた小説のプロットをもう一度開いた。
バーニー・サンダース上院議員が「アメリカAIソブリンウェルスファンド法」を提案した。OpenAI、Anthropic、xAIといった主要AI企業の株式50%を政府が取得し、国民に配当を還元する構想だ。
そしてトランプ政権は「トランプ口座」として、全ての新生児に1,000ドルを付与し、株式市場で18歳まで運用するプログラムを進めている。
右からも左からも、同じ問いが浮かび上がっている。
AIが生む富を、誰がどう分配するのか。
私がNOTEに公開したSF小説の核心は、まさにその問いだった。

フィクションと現実が交差するとき
小説『AI政府 ガイアサピエンスの夜明け』では、架空のシミュレーター「ガイアサピエンスツイン」を通じて、人類の文明の変遷を描いた。社会主義の崩壊、資本主義の寡占化と暴走、そして——AIと人間が共創する「扶養主義(Fosterism)」という三番目の文明の誕生。
その物語の第14話に「出生時ソブリン法」という制度が登場する。機械が生み出す独占利益を公共に自動分配し、すべての子供を生まれながらに「国家の株主」とすることで、人間を生存のための不毛な競争から解放する——という構想だ。
トランプ財務省は「トランプ口座は誕生時の1,000ドルの積立が退職時に少なくとも50万ドルに成長すると試算している」と発表した。
数字の話をしているのではない。構造の話をしている。
国家が、AIがもたらす富の分配の「ハブ」になろうとしている。それは私が小説で描いたシーケンスそのものだった。

左右の鏡
ここで注目すべきは、このシンクロニシティが左右両方から同時に起きていることだ。
サンダースは「AIは公共の知識の集積によって訓練された」と主張し、その利益を公衆が共有すべきだと論じている。同じ主張はエリザベス・ウォーレン上院議員も展開しており、ワシントンの左派が主要AI企業のIPOを前に富の分配を求める声を強めている。
一方、注目すべきことに、AnthropicもOpenAIも自らのポリシー文書の中でソブリンウェルスファンドの構想を提唱していた。Anthropicは2025年10月の経済政策文書で政府がAI関連資産のポジションを取るメカニズムを提案し、OpenAIは2026年4月の産業政策ペーパーで全てのアメリカ人が自動的にAI成長の恩恵を受ける「パブリック・ウェルス・ファンド」を提唱した。
企業も、右派も、左派も、同じ方向を向き始めている。それは偶然ではない。
私の小説の言葉を借りれば——「利己は、それ自体では文明を壊さない。だが、利己を支える無名の誠実さを自然資源のように消費し尽くしたとき、市場も、自由も、それを正当化する言葉さえも失われる」。
資本主義が、その破滅を本能的に察知し始めているのかもしれない。

問いは、アルゴリズムが答えない場所にある
しかし、ここで立ち止まらなければならない。
小説の第12話に、ひとつの場面がある。利他投資家と新大統領が、目的を持たない対話を交わす。AIはそのログを解析し、こう報告する。
会話目的:未定義感情分類:不完全意思決定支援:不可結論:本会話は、政策・合理性・感情最適化のいずれにも帰属しない
AIは「失敗した」のではない。正確に、自分の限界を報告した。
教授はそのログを閉じ、学生たちに言う。「AIが理解できなかったのは、欠陥ではありません。人間が、人間であることをやめなかったからです」。
トランプ口座の分配が「出生時ソブリン法」の萌芽であるとしても、サンダース法案が「AIソブリンファンド」の入口であるとしても、それだけでは扶養主義には至らない。
2026年、AIへの投資を理由に合衆国の技術系レイオフはすでに14万2千人を超えた。その一人ひとりの人生を、アルゴリズムは最適化しない。
問われているのは、制度の設計ではない。その制度を動かす人間が、「最適化を拒否する覚悟」を持てるかどうかだ。

三番目の文明の入口
農耕。貨幣。そしてAI。
人類が経験した最初の二つの文明的転換は、いずれも「恐怖からの解放」を約束しながら、新たな恐怖を生み出した。農耕は飢餓を減らしたが、土地をめぐる戦争を生んだ。貨幣は交換を自由にしたが、富の集中という呪縛をもたらした。
AIもまた、同じ問いの前に立っている。
小説の最後に教授は言う。「富に対する恐れがなくなった時に、国家も消えてゆく」。
国家が消えるのではない。国家が、意味を失って溶けていく。恐怖によって維持されてきた「虚構への信頼」が、別の何かに置き換えられていく。
その「別の何か」が何であるかを、私はまだ書ききれていない。
そしておそらく、現実もまだ書ききれていない。
フィクションと現実が、同じ地平で問いを立てている。そのこと自体が、この時代の証言だと思う。


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