展覧会企画における学芸員の複眼思考
なんだか硬いタイトルになってしまいました。
「複眼思考」とは複数の視点から物事をとらえる思考法のことです。
学芸員なら、常日頃から頭のどこかで「この先どんな展覧会をやろうかなー」とぼんやり考えているものです。私も先日なんとなく頭の中でアイデアを転がしていたのですが、ふと気づいたこと、というか言語化できたことがあるので、ここにメモしておきます。
学芸員は展覧会を企画する時に、必ず以下の3つの視点から内容を吟味・検討します。
(1)自分の好奇心が動くか
その企画テーマは、純粋に自分が面白いと思えるかどうか。好奇心を刺激するかどうか。
これが何より重要です。
なぜなら、これがすべての原動力になるからです。
展覧会を実現させるまでにはいくつもの壁があり、手間暇がかかり、並々ならぬエネルギーが必要となります。自分が面白いと思えるものでないと、それだけのエネルギーを体の中から引き出すことができません。
また、学芸員自身が好奇心をかき立てられる内容であれば、その熱が必ず展示を通して鑑賞者に伝わります。不思議なものですが。
(2)美術史的な意義があるか否か
展覧会は学芸員の研究成果をお披露目する場でもあります。
博物館法で定められた学芸員の役割の中にも「調査研究」が含まれている通りです。
学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる。
この展覧会を通して、美術史研究にどんなインパクトを与えることができるだろうか。
わずかでも作家研究、作品研究が進展するだろうか。
または美術の新たなグルーピングやカテゴライズを提示することになろうだろうか。
そういった研究者的な視点も必要となります。
(3)一般向けにアピールするか否か
1つめの視点は個人的なもの、2つめの視点はいわば研究者や専門家、同業者を意識したもの、そして3つめの視点は当然ながら展覧会を鑑賞してくれる一般の人たちに向けたものです。
専門家ではない、ちょっと美術に興味がある人、もしくはまったく予備知識のない人、そうした人たちにとってこの展覧会は魅力あるものになるだろうか。
その面白さが伝わるだろうか。そんな風に考えます。
多くの人が見たいと思っている人気作家や人気作品、人気コンテンツ。これらをどう企画の中に組み込むかは、展覧会の集客という結果にも反映されるのでとても大事なポイントではありますが、この3つめの視点を強調すれば展覧会がヒットするかと言えば必ずしもそうならないのが現実です。
その理由を後述します。
(結論)大事なのは3つの配合比
学芸員が企画を考えているとき、無意識でもこの3つの視点を使いながら多面的に思考を深めていきます。
面白いのは、この3つの視点の配合比は学芸員によって違うという点です。
1つめの視点「自分の好奇心が動くか」の割合が極端に強い人は、本人はそれでいいと思っているのでしょうが、鑑賞者を置き去りにした独りよがりの展覧会になってしまう危険性があります。
ただし、この視点が全く無いと熱のこもらない、ただこなしただけの展覧会になるというのは先ほど述べた通りです。
2つめの視点「美術史的な意義があるか否か」が強いタイプの学芸員は、いわゆる学究肌の人ですね。
これも行き過ぎると、やはり一般の人を置いてけぼりにした展覧会になってしまいますが、この視点がないとどこかで企画されたパッケージ展をただ持ってくるだけの貸し会場のような美術館になってしまいます。
3つめの視点「一般向けにアピールするか否か」を強く意識したからといって、展覧会がヒットするとは限らないと先ほど言いましたが、ようするにこれだけだと浅いんですよね。
人が見たいと思うものだけを追い求めることは、大衆迎合と紙一重です。
だから大事なのは、結局のところ配合比なんですよね。
一般の人にどうアピールするかを考えながらも、うまく学芸員自身の情熱を根っこに据えて、そして美術史的にも新しい試みを取り入れることで、今までのどこかで誰かがやった展覧会とは違う、意義のある展覧会が実現できるのです。
そして、案外その方が話題になってお客さんも来てくれたりします。
まぁ、こんな風にめちゃくちゃえらそうに語ってしまいましたが、私も日々この配合比に悩みながら、試行錯誤してやっています。
他の仕事にも応用できる考え方かもと思って、まとめてみました。参考になればうれしいです。
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