唐絵のジャパナイズ【根津美術館「将軍家の襖絵」展レポート】
青山の根津美術館へ「将軍家の襖絵」展を見に行ってきました。山口県立美術館から巡回してきた展覧会です。いやー、硬派な良い展覧会でした(なんだ「硬派な展覧会」て)。1ヶ月のみの展覧会なので、気になる人はお早めに。
あ、根津美術館は現在日時予約制です。間違えてふらっと行かないように!
いつも展覧会レポートは、ついつい長文になってしまうので、今回はさくっとまとめます。

久しぶりに来てあらためて感じましたけど、根津美術館は、展示室が広すぎないのがいいですよね。展示品を一点一点味わっても、最後まで集中力が持続できる広さです。
これが東京国立博物館なんかだと、全部を同じ集中力で見ることは最初からあきらめます。緩急つけないと最後までもたないんですよね。
どんな美術館でもよくあることですが、気合いが入っている人ほど、最初のあいさつパネルから熟読しようとして、終盤は惰性で流し見するようになります。会場の入り口付近だけ人が密集している光景は、みなさんもよく目にするのでは?
大きな会場ほど、マラソンのように集中力のペース配分が必要なのです。根津美術館はそういう気遣い無用で、最初からじっくり鑑賞できるのでほっとします。
そんなことはいいとして、展覧会の感想です。
「将軍家の襖絵」というタイトルからは、将軍邸の襖絵が展示されているのかな、と思うかもしれませんが、ちょっと違います。
この将軍とは、室町幕府の足利将軍家のことです。室町時代は文化の洗練化が飛躍的に進んだ時代です。能とか茶の湯とか生け花とか、いまの私たちが日本的な文化だと感じるものが次々と生まれた時代でした。
その文化の中心にいたのが足利将軍です。
三代将軍足利義満が始めた日明貿易によって、唐物とよばれる中国の文物が日本に輸入され、室町文化形成に大きな影響を与えました。文化のヒエラルキーの最上位に唐物が君臨し、将軍邸は唐絵(中国絵画)を含む唐物で飾り立てられました。
掛け軸を飾るだけではなく、邸宅の各部屋の襖も日本の絵師たちが唐絵を参考にした絵を描いています。これが将軍家の襖絵です。
ただし、それらの襖絵はひとつも現存していません。
この展覧会は、その失われた襖絵をしのぶ手がかりとなる屛風を集めて、擬似的に将軍家の襖絵の世界を再現しようという企画です(将軍邸の襖にどのような絵が描かれていたのかは、先行研究によってある程度判明しています)。
一通り展示を見て、日本の異文化受容の器用さにあらためて感心するとともに、異文化受容の際におきる誤解や混同、そんな何やかんやを含めて日本風に変化していく過程が興味深いなぁと感じました。
雪舟による《倣李唐牧牛図》(山口県立美術館蔵)と《倣夏珪山水図》(個人蔵)が展示されていました。
李唐というのは、北宋時代から南宋時代にかけて活躍した画院画家(宮廷画家)です。夏珪は、南宋時代の画院画家です。


李唐と夏珪は別人ですが、雪舟の絵からはその違いが見えません。というか、サインペンで描いたようなポキポキとした明快な線は、雪舟のそれです。


「気」の流れを表現しようとする中国山水画の奥深さは消えて、スカッと明るくわかりやすい絵になっているんですよね。これがいかにも日本的というか、私たちが親しみを感じる絵になっているように感じるから不思議だなぁと。
そんなことを考えさせられる展覧会でした。踏み込むと長くなるので、とりあえずさらっと終わりにします。
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