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あなたにはサードプレイスと呼べる場所がありますか?

ちょっと美術館から離れた質問をします(最後はちゃんと戻ってきます)。

あなたにはサードプレイスと呼べる場所がありますか。

ご存じの方も多いでしょうが、サードプレイスとは社会学から生まれた言葉で、家庭(ファーストプレイス)でもない、職場(セカンドプレイス)でもない環境を指します。

昭和の頃にそんな問いかけをされたら(当時は「サードプレイス」という言葉がそもそもありませんが)、多くのビジネスマンは答えに窮したことでしょう。「え?仕事と家庭の他に何が要るのさ?」と。
当時の一般的なビジネスマンにとっては仕事の比重が非常に大きく、残りのわずかな時間は家庭に振り分けるため、それ以外の選択肢が入る余地などありませんでした。と知った風な口を聞いていますが、私とてその時代は体験しておりません。ただ就職した頃に、職場で定年間近のおじさん達からそうした昔話をよく聞かされました。

しかし、平成、令和と来て状況は変わりました。仕事はホワイト化が進み、企業戦士なんて過去の言葉となり、ワークライフバランスが重視される時代が到来しています。
そこで注目されるようになったのが、サードプレイスです。

日本にこの言葉を戦略的に根付かせたのは、スターバックスコーヒー(以下スタバ)でしょう。
1996年に銀座に日本第1号店をオープンしたスタバは、2000年代に急速に店舗を増やしていきました。スタバが提唱した概念こそがサードプレイスです。
ファーストフードのようなパッと食べてパッと出るような店でもなく、たばこ臭い喫茶店とも違う、ゆったりとしたソファがあり、のんびりと長居できるスタバはとても新鮮でした。大学生になって隣町にできたスタバに初めて行った時の「なんだ、この居心地のいい空間は?」という驚きは忘れられません(喫煙スペースがそもそも無いというのも好印象でした)。まぁ、今は店舗拡大が進みすぎて、ファーストフード店風のスタバも多くなってきましたが。
単にコーヒーを飲む場所ではなく、自然と人々が集まってある種のコミュニティとしての価値に着目したスタバが、それを端的に表現したのが「サードプレイス」という言葉でした。

サードプレイスの定義は、端的に言うと「社会的な立場から解放されたリラックス状態で、人との交流を楽しむことができるコミュニティ」です。
人間は社会的な生き物だとよく言われます。つまり、人は誰かとつながっていないと不安を感じる本能を持っているのです。
とは言え、仕事でどれだけ多くの人で出会っても、それらはすべて上司、同僚、得意先など社会的な関係性が固定され、こちらもその関係性を踏まえた上でどこかしら緊張感をもって接する必要があります。それと家庭の往復だけではさすがにストレスが溜まりますよね。

私は大人になってからスイミングスクールに通っていた時期があります。ずっと泳げないことがコンプレックスだったので、それを乗り越えようと一念発起したのです。
スポーツジムが早朝に主催しているスクールがあり、通勤前にそこでレッスンを受けてから職場に行くということを1年間ぐらい続けました。冬なんか真っ暗な時間に眠い目をこすりながら家を出て、がっつり泳いで、その後に仕事をするのはなかなかハードでしたが、案外これが良い気分転換になりました。

当時の私は、職場の人間関係でストレスを抱えていたのですが、かと言って家でそんな愚痴を言っても仕方が無いし、1人で鬱々としていました。
そのスイミングスクールで出会った年齢も立場も全く違う人たちとは、お互いに仕事の話なんか1回もしませんでした。「おはようございまーす。調子どうですかー」みたいなやり取りをして、同じ泳力のグループに分かれてタイムを競い合って、「おつかれさまー」と言って各自の職場へ向かっていく。それだけの関係でしたが、スイミングという共通項で切磋琢磨する時間は今思えばとても救いになりました。私にとってはそのスイミングスクールがサードプレイスだったのです。おそらくみなさんも、それぞれ自分なりのサードプレイスがあることでしょう。

さて、ここでようやく美術館に話を戻します。
サードプレイスの場所としてよく挙げられるのが、習い事の施設、スポーツジム、そして行きつけのカフェや居酒屋などですが、では美術館はこのようなサードプレイスとしての役割を果たすことはできるでしょうか。

長くなってしまったので、私の考えはまた次回