学芸員の愛がためされる。それが出品交渉!
前回、展覧会のための作品借用・作品返却について触れたので、今回はその前段階、「出品交渉」について書きたいと思います。
出品交渉、これもまた学芸員の重要なお仕事です。
1年後の開催に向けて、展覧会を企画したとします。展覧会の企画内容からすると、どうしても外せない作品が、よその美術館にあった場合、担当学芸員はその作品の出品をお願いする必要があります。
相手の美術館が次の3パターンだった場合
(1)面識のある親しい学芸員が所属している。
(2)以前にこちらからも作品を貸したことがある。
(3)知り合いもいなくて、今までコンタクトをとったことがない。
(1)と(2)ならば、出品交渉のハードルがやや低いと言えます。
この仕事は結局のところ信頼関係で成り立っているので、学芸員同士が仕事ぶりや作品の扱いに関して信頼できる間柄であれば、作品を貸してもらえる確率はグンと上がります。
また、作品の貸し借りが必要なのはお互い様なので、先にこちらの所蔵品を相手に貸した実績があれば、そこまでむげにされることはありません。次の時に貸してもらえなくなりますからね。
そう、美術館のパワーバランスは所蔵するコレクションによって決まると言っても過言ではありません。自館のコレクションが貧弱で、作品をあちこちから借りる一方だと、どうしても対等な関係にはなりにくい、というのが現実です。
さて、難しいというか気合いを入れなくてはいけないのが(3)の「知り合いもいなくて、今までコンタクトをとったことがない」美術館に、出品交渉をするケースです。
私、常々思っているのですが、出品交渉とはプロポーズに近いな、と。いや、むしろ結婚相手の親御さんに「娘さんをぼくにください!」というシチュエーションの方が近いな(この言い方が前時代的かどうかは、ここでは議論しません)。
作品は、所蔵している美術館にとって我が子のように大事なものなのです。有名な作家だからとか、高額なものだからとか関係なく、この世に一点しか存在しないものですし、それを後世に伝えていくことが学芸員の本分だからです。我が子を嫁に出すかどうか(帰ってくるけどね)、となるとそう簡単にはいかないのは想像できますよね。
だから、入念な準備が必要となります。
展覧会の企画内容をわかりやすくまとめたペーパーを用意し、その展覧会にどうしてもこの作品が必要とされる理由を説明できるようにしておかなくてはいけません。
それから美術館の施設概要や設備をまとめたもの(ファシリティー・レポートと呼ばれる)も提出できるようにしておきます。
そして、アポをとって、いざプレゼンです!(ちょっとした手土産を持参しつつ)
相手の学芸員さんに、作品への愛を語ります(もちろん比喩ですよ)。いかにその作品が重要なピースとなっているかを説明し、それがないと展覧会が成り立たないことを理解してもらいます。
その作品が、状態が悪くて貸出不可、先に他の館への貸出が決まっている、などの理由があれば、そもそも打診をした最初の時点で断られるので、話し合いを聞いてもらえるということは、交渉の余地があるということです。ですので、きちんと「作品愛」を証明できれば、交渉成立となるパターンが多いです。
さて、逆もまたしかり。こちらの所蔵品を借りたいという話が来ることもあります。
そうなるととたんに気分は「厳格な父親」。ちゃんと大切にしてくれるんだろうか、その愛は偽りか本物か、厳しく見定めなくては!
明らかに数合わせで、うちの作品を借りたいと言っている場合は、残念ながらすぐわかります。ごめんなさい、そういう時は角を立てないような理由を述べますが、お断りします。
もちろん正当な理由があって、作品のコンディションにも問題がなければ、喜んでお貸し出ししますよ。
みなさんが普段楽しんでいる展覧会が開催されるまでには、こうした学芸員の水面下交渉があるのです。貸したり借りたり、なかなか人間くさい仕事です。
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