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ミスの許されない学芸員の仕事術

はは、大層なタイトルをつけてしまいました。至極当たり前のことしか書かないので、期待せずに読んでください。

仕事術。カッコいい響きです。
働く人なら誰でも「私の仕事術は…」とかドヤ顔で語りたくなる瞬間がありますよね。

私は別に、学芸員が特別なにかすごい仕事術を持っているぜ!と思っているわけではなくて、むしろどんな仕事、どんな職業でも、その道でお金をもらって働いているなら、必ず他の分野の人にも参考になる部分があるはずだと思っています。
だから「学校教員の仕事術」でも「弁当屋の仕事術」でも「タクシー運転手の仕事術」でも、何でもありかなと。あったら聞かせてほしいです、あなたの仕事術は何ですか?

人はミスをする、でも絶対にミスしちゃいけない場面もある

さて、学芸員の仕事の特徴って何かな、と考えて真っ先に思い浮かんだのが、「ミスは絶対に許されない」という独特の緊張感です。

いやいや、ミスしちゃいけないのは私の仕事だって同じだよ、と思った方。たしかにそうだと思います。

ただ、学芸員は調査、展示、撤収、輸送などで常に美術品を取り扱う仕事です。
美術品は当然ながら、この世に一点しかありません。市場価値が高い、低いとは関係なく、美術館に収蔵された世界に一つの作品をきちんと守り伝えていくのが、学芸員の役割です。

ですから、展示中に誤って「てへ、壺割っちゃいました」みたいなことは、許されないわけです。この緊張感は、たぶん味わってみないとわからないと思います。

私が就職してはじめて作品を触ったのは、収蔵庫から展示室へ箱に入った状態の掛軸を運ぶ、ただそれだけだったのですが、「やばい、本物だ。持ってる。いま手に持ってる。うぅぅう」と内心バクバクしたのを懐かしく思い出します。
慣れてきて、平常心で作品を扱えるようにはなりましたが、緊張感は常にありますね。

人間のやることですから、どんなに緊張感をもって慎重に扱っていてもミスすることはあります。と言いたいところですが、やっぱり作品を前にしてミスは許されないのです。言い訳はなしです。

ここからが仕事術っぽい話になるのですが、いかにミスをゼロにするか。
結論から言うと「気をつける」とか「気合いを入れる」とかいう精神論ではなく、システムでミスを未然に防ぐのです。

休憩はきっちりたっぷり

展覧会開幕に向けた仕事のクライマックスは、展示作業です。実際に展示室に作品を配置していく作業ですね。
会場の大きさにもよりますが、短くても丸1、2日かかりきりになりますし、長いと1週間がかりで展示をします。この展示作業、それまで収蔵庫に安置していた作品を、表に出すのですから危険がいっぱいです。

学芸員のほか、展示作業スタッフが、一丸となってわっしょいわっしょい作品を設置します。大きな作品、重い作品を運ぶ力仕事もあるし、針の穴に糸を通すような(比喩ね)繊細な細工作業もあります。肉体も精神も酷使します。

で、担当学芸員の気持ちとしてはなるべくどんどん展示作業をしたいんです。開幕の日はもう決まっていて、それはずらせませんからね。そして展示替えのために美術館を閉じる日数は短ければ短い方がいいわけで、のんびりやっていては間に合わいません。やばいやばい、となります。

しかしその気持ちをぐっと抑えて、展示作業の時は午前、午後にそれぞれきっちり休憩をとります。お昼休みとは別に30分ぐらいがっつり。もうこれは義務です。

人間、集中力が切れると、気合いとか関係なく凡ミスをしますからね。デスクワークでもコーヒーブレイクをすることはあると思いますが、それをもっと意識的にやるイメージです。

複数の目で保険をかける

もう一つ、気をつけているのが、展示作業を一人でやらないことです。

また自分の新人時代の話をしますが、展示している小さな作品を一点、別の作品にとりかえる必要があったんですね。まぁ、言ってしまえば簡単な作業です。

で、上司に「展示室の作品、取り替えてきまーす」と言って行こうとすると、上司は私の先輩学芸員に「じゃ、一緒について行って」と命じました。

こんな簡単なことも一人でやらせてもらえないのか、まだ半人前扱いで信用されてないな、先輩にも手間とらせるし一人でやらせてよ、と内心思ったのですが、そういうことじゃなかったんですよね。

おそらく作業は一人で問題なくできたでしょう。でも「おそらく」だとダメなわけで、一人で作業をすると死角もできる、うっかり何かにぶつかる危険もあります。
それが、もう一人見守ってる人がいるだけで、全然ちがうんですよ。

たぶん大丈夫だろう、という思い込みで仕事をするのではなく、人は基本的にミスをする、という前提で仕事をする。それが学芸員の仕事の流儀といえるかもしれません。

他にも、情報収集術、文章化術など、日頃の仕事に「術」をつければ、何でもそれっぽいことが語れそうな気がしますが、地味だけど「いかにミスを防ぐか」という部分が学芸員の仕事の根幹だと思っているので、今回のような話になりました。

うむ、やっぱり当たり前の話しかできなかった!


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