見出し画像

マスメディア主導のブロックバスター展とは

高度経済成長の3大ヒット展について触れましたが、これらの展覧会を実現させた立役者は新聞社でした。

元朝日新聞社の浅野敞一郎氏が著した『戦後美術展略史(一九四五—九〇年)』によれば、ミロのビーナスの特別公開とツタンカーメン展は朝日新聞社、モナ・リザ展は表には名前が出ていないものの、側面から援助したのはフジサンケイグループだったそうです。

新聞社が歴史に残る展覧会を引っ張ってきた、これは紛れもない事実です。
時代が進むにつれてこれにテレビ局も加わり、いわゆるマスメディアが展覧会の企画運営を行うことが日本では当たり前となりました。実はこれ、海外の美術館と比べるとかなり異質なことなのです。
じっくりコレクションを見せるという基本姿勢で展覧会を行ってきた海外の美術館に対し、日本では見世物興行や博覧会というイベントから展覧会へとつながっていったという背景の違いがここに現れているのかもしれません。

いずれにせよ、戦後から美術館とマスメディアの結びつきは強くなりました。
過去の記録を見ると、入館者数でその年のトップ10に入る展覧会が美術館・博物館の単独開催だった例はほとんどありません。それは今現在も変わりません。
例えば1日あたりの入館者数で毎年1〜3位に輝く脅威の展覧会、奈良国立博物館の「正倉院展」は、読売新聞社が特別協力としてずっと支え続けています。

試しに何でもいいので今話題になっている展覧会のチラシやウェブサイトを見てみてください。必ず共催のところに新聞社かテレビ局の名前が入っているはずです。「共催」というと予算は半々ぐらいかと思うかもしれませんが、実態はほぼマスメディア側が費用を負担し、美術館はおんぶに抱っこです。
美術館自体は潤沢な予算がありませんから、集客を見込めるような有名作品を集める大型企画展を単独で開催することはできません。そこでメディアとタッグを組むのです。

良い展覧会をすれば人は来る、と言いたいところですが、現実にはどんな良い展覧会であっても広報をしなければ人は来ません。
マーケティングおよび広報に長けたマスメディアの人間が展覧会運営に加わることで、ヒットが見込めるキャッチーな企画が生まれ(そこから実現に向けては学芸員の出番)、また開幕に向けて段階的に広報活動を行い、人々の期待値を高めていき、開幕直前にもメディアミックスによる大々的な広報をして認知を広げていきます。こうして開幕と同時に多くの人が押しかける展覧会が実現するのです。
このように巨額の予算をかけて大がかりな広告キャンペーンを打ち、それによって圧倒的な集客をする展覧会のことをブロックバスター展と呼びます。

今はYouTubeやSNSが出てきて、新聞広告を打つ、主要駅に巨大ポスターを貼るといった従来の方法以外にも、広報の仕掛け方にバリエーションが増えましたが、そうした新しい打ち手もやはりメディア側が得意とするところなのです。

さて、言うまでも無いことですが、新聞社もテレビ局も企業として営利を追求することが求められます。しかしそもそも展覧会事業で収支がプラスになることは稀です。その意味ではやればやるだけ損失が出ます。
では、なぜマスメディアが巨額の予算を投じて展覧会に関わるのでしょうか。

みなさんは、「メセナ」という言葉を聞いたことがありますか。芸術の庇護を意味するフランス語から来ている言葉で、企業が資金を出して芸術や文化の支援をする活動のことです。
80年代から日本に根付いてきたこのメセナの理念が、マスメディアによる展覧会支援にも現れているのです。もちろん企業ブランディングという側面もあるでしょう。
でも私が知る限りでは、展覧会に関わるマスメディアの人たちはみな文化を支えるという使命感、責任感を持ってやっていることは確かです。

マスメディア、特に新聞社の展覧会担当者は、学芸員と二人三脚で展覧会の実現に向けて動きます。というわけで長年展覧会事業に携わってきたベテランとなると、そこらの学芸員(私を含む)ではとても叶わない知識と経験を持っているということもざらにあります。