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チームで仕事を分担するときの抽象・具体のグラデーション[学芸員の仕事論]

美術館で学芸員として働く私の、仕事を分担する時の考え方についての話です。

突然ですが、仕事の内容には、抽象から具体へ幾重にもグラデーションがあります。抽象的な仕事でも、細かく分けていけば、最後は膨大な単純労働の集積になるということです。

さて、組織の仕事は当然ながら一人ではできません。自分がメインとなって進める仕事でも、一緒に働く人たちに仕事を分配していく必要があります。
人に仕事を渡す時、この抽象度をどの程度にとどめるか、というのがお互いがスムーズに仕事を進めるために、とても重要だと私は思っています。
逆に言えば、仕事を割り振られる側は、どれだけ抽象度の高い課題をこなせるかで、評価が分かれます。

なんていうこの説明自体が抽象的なので、美術館らしく展覧会の図録制作を例にして説明します。

まず最初の段階
「図録をつくる」これは最も抽象的な課題です。

では次の段階
これを構成内容で考えると「巻頭テキストを書く」「作品解説を書く」「図版ページをつくる」「巻末に載せる作家年表をつくる」「参考文献ページをつくる」などに分かれます。

さらに次の段階
「作家年表をつくる」という作業は、「関連資料をあつめる」「関連資料を読み込む」「読み込んだ内容の中から必要な箇所をピックアップする」「作家や関係者から聞き取りをする」「必要な項目を時系列に整理する」「データを整えて資料と照らし合わせて間違いがないか確認する」「チーム内で確認してもらい、修正があれば反映する」「入稿用データに整える」などの作業に分けることができます。

そして最終段階
その中の一番目「関連資料をあつめる」は、「ネット上で探す」「美術館内の資料を探す」「図書館で探す」などに分かれます。

こんな感じで、段階的に仕事を細分化してみましたが、ではどの段階で仕事を他人に割り振ることができるでしょう。
例えば、相手が入りたての新人学芸員だったり、パートやアルバイトの作業補助者だったりしたら、なるべく細分化した後の具体的な作業を指示しなくてはいけません。
いきなり「じゃ年表部分をまかせるわ」と言っても、相手はとまどうだけですよね。
「まず、うちの美術館の資料室からこの作家に関する本を探して集めてくれる?」ぐらいまで具体化して指示してあげれば、相手もすぐに動いてくれるでしょう。

ただ、仕事の切り分け・具体化・細分化は結構頭を使います。仕事の全体像を把握した上で、ひとつひとつにどんな工程が必要なのか解像度の高い見取り図が見えていないといけないからです。
さらに作業を切り分けているので、指示しなければいけない回数が多くなります。「これやって」「終わりました」「じゃ次」「終わりました」「じゃ次」という具合に…。
なので、ついつい具体化しきっていない抽象度の高い指示をしてしまいたくなります。「じゃ年表部分をまかせるわ」と言いたくなる気持ちはよくわかるのです。

では次に、仕事を渡される側に話を移すと、やや抽象的な指示が飛んできた場合にそれを具体化・細分化して考えることができる人、これが俗に言う「仕事ができる人」「理解がはやい人」でしょう
「じゃ年表部分をまかせるわ」という雑な指示が飛んできても、「年表をつくるとなると、資料集めから始める必要があるな。あそことあそこで探せば見つかるかな。それで分からない部分は○○さんに聞いてみることにしよう」というように、自分なりに作業を分解するということです。
仕事の流れを上流(抽象)→下流(具体)でとらえた場合に、本来ひとつ上のポジションにいる人がやるべき抽象度の高い仕事をこなせれば、次回からはさらに上流の仕事が任されるようになります。

と、ここまで書いて気づいたのですが、結局一番大事なのは仕事を渡す相手、渡される相手へのちょっとした思いやりなのでしょうね。
仕事を渡す側は「ここまで具体化してあげないとわかりにくいよな」と相手のことを思い、仕事を渡される側は「この作業はたぶん(仕事の全体像の中の)この部分だな。じゃ次はこれをやっておこう」と一つ上の工程を推測して、仕事を振る相手の負担を軽くすることを考える。
それができれば美しいチームワークができるんだろうな、と思います。

ま、理想論ですけどね。


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