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学芸員のただ一つの特殊能力、それは危機察知能力

どんな仕事も、その仕事に応じた能力というものがあると思います。

例えば、看護師や救急隊員が救命方法をマスターしていて、いざという時にさっと人助けができる、とか、Uber Eatsの配達人が道路事情にめっちゃ詳しい、とか、塾の講師が問題をかみ砕いてわかりやすく説明できる、とか、まぁ何でもいいんですけど、やはり一つの道のプロフェッショナルとなれば、何かしら特化した能力を身につけるものです。

じゃ、学芸員は何ができるんだろ、と考えてみたのですが

んー

ぽくぽくぽく

あれ?思いつかない…

壁にかかった額のわずかな傾きに一瞬で気がつく能力?

いや、たしかにありますけど(ホテルの部屋とかで気になってムズムズするという)、さすがに地味すぎる…。

何でも鑑定団みたいに、美術品の真贋を瞬時に見抜く能力?

うーん、自信なし!「ちょっと怪しいかも…」ぐらいまでしか分かりません。

いやいや、さすがに何かあるはずだろ、と考えた結果、ひとつだけありました。

それが、危機察知能力!

美術作品を扱うということは、世界に一点しか存在しないモノを触るということです。この意味はめちゃめちゃ重いです。

特に、数百年の時を経て今に伝わっている古美術を扱う時の緊張感は、半端じゃありません(新しいモノなら気楽なのかと言われたら、もちろん違うと言いたいですが、やはり時間の重みというものは確実にあります)。

美術館の展示作業は、作品を移動して、梱包を解いて、陳列する作業ですが、一日終わるとぐったりします。それは肉体的な疲れというより、緊張の糸を張り詰めていたことによる精神的な疲れです。

そう、美術品を抱えて歩く時、学芸員の危機察知センサーはフル稼働するのです。

歩く導線上に、つまづくもの、引っかかるものはないか。

あの扉が急に開く可能性はないか。

あの死角から人が出てくる可能性はないか。

作品を一時的に置く場所は確保しているか。

突然地震がきても倒れないようになっているか。

常に先を予見するように脳がフルスピードで計算するのです。そりゃ疲れるわ。

私、もともとぼーっとしてる人間だったのですが、この危機察知能力だけは学芸員という仕事をしたからこそ磨かれたと実感しています。

この能力、子供が生まれてから家でも発揮するようになりました。

床にタオルがあれば、踏んですべって転ぶ姿が浮かんできます。

ストッパーがかかっていないドアを見ると、突然閉まって指をはさむ姿が眼に浮かびます。

お散歩にでかけても、やばいそこで転ぶ!とか、その曲がり角は危険!とか、危機察知センサーがビンビンに発動します。

学芸員病ですね。

もうちょっと格好いい、人に誇れる能力があったらよかったですが、まぁ子供が小さいうちは、これはこれで役に立つのでよしとしましょう。


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