【白馬岳】たどり着いた雲上の温泉
真夜中のドライブ、いざ北アルプスへ
2025年夏、待ちに待った北アルプス・白馬岳(標高2932メートル)登山の日がやってきた。8月13日午前6時ごろ、白馬村の「ローソン信州白馬八方店」近くの臨時駐車場に到着した。東京から長野まで夜通し車を運転した後だったので、少し仮眠。すっかり明るくなってから「白馬八方バスターミナル」に向かい、登山口の猿倉に向かうバスに乗車した。30分ほどバスに揺られて猿倉に到着。準備運動を済ませ、午前8時15分ごろ、登山をスタートした。

小屋泊の装備だが3日分の食料を背負っているためテント泊の装備並みにザックが重い。午前9時20分ごろ、白馬尻テント場に到着。「おつかれさん!ようこそ大雪渓へ」と書かれた石碑が出迎えてくれる。トイレ休憩を済ませ、いよいよ雪渓ゾーンに入っていった。

重荷を背負い、白馬大雪渓を進む
前を歩くハイカーにならってアイゼンを準備。私は6本爪、相棒は10本爪のアイゼンを装着する。雪渓は白い霧に包まれており、全容がわからない。下が見えない分、恐怖心はないが、登る先も見えないので、どこまで登るのか見当がつかないのもなかなかツラい。

途中、外国人とみられる登山者が雪渓上の道を外れて歩いていてひやっとさせられた。雪渓が終了したと思い、一度アイゼンを外したが、すぐに雪渓があらわれ再装着。雪渓歩きのアイゼン着脱の判断は意外と難しい。

大雪渓が終わると急登がまだまだ続く。ザックの重みと慣れない雪渓歩きが重なり、ペースが落ち始める。行動食のお菓子をこまめに摂取してシャリバテをおこさないように気をつける。
山頂目前、気力を回復させた絶景

雪渓を抜けてからはガスが晴れはじめ、白馬の稜線もくっきり見え始める。体力は限界に近づきつつあるが、北アルプスの絶景のおかげで気力を回復。午後3時に白馬岳頂上宿舎に到着した。
最後の力をふりしぼって稜線を歩き、午後3時半ごろ白馬山荘に到着した。この日、白馬岳の山頂まで足をのばすつもりだったが、とてもそんな体力は残っておらず、おとなしくチェックインした。

NZ遠征の予行演習、自炊室での牛丼
今回の山行は年末年始に計画しているニュージーランド登山遠征の予行演習を兼ねてすべて自炊とした。白馬山荘の自炊室は屋内にあり、ストーブも設置されていて快適だ。メスティンで白米を炊き、レトルトの牛丼の具をかけて食べた。
白馬山荘の寝室は相部屋といっても2人ずつの間仕切りがついた半個室。ブラインドカーテンも設置されていて、ほかの宿泊者に気を遣わなくていい。消灯時間ごろに就寝。寝付きはいい方なのだが、夜中、日中に酷使した足の筋肉に痛みを感じ、目を覚ましてしまった。痛み止めを服用して目を閉じると朝まで爆睡した。
濃霧の白馬岳山頂、名誉より実を取る
2日目の8月14日。朝食はお湯を入れれば完成の即席ハヤシライス。朝からヘビー過ぎるかと思っていたがぺろっと平らげることができた。午前6時20分ごろ、メインザックは小屋に置き、アタック用のサブザックだけを背負って白馬山荘を出発。前日に踏めなかった白馬岳のピークをめざす。

前日以上に濃くなった白い霧の中を進む。午前6時40分ごろ、白馬岳山頂に到着。周りは真っ白い霧に包まれて何も見えない。さらに吹き付ける風にすぐ体温を奪われそうになるため、急いで白馬山荘に戻った。荷造りを済ませ、午前7時半ごろ山荘を後にした。
この日はハイカー憧れの白馬三山の稜線歩き・・・・・・の予定だったが、天候の悪さは続く。富山県側から湿り気のある風が常に吹き付け、体力を奪っていく。白馬三山の一つ、杓子岳(標高2812メートル)の手前まで来たが、自分の体力と相談して巻き道を進むことにした。自称ピークハンターの名は廃るが、名を捨てて実を取る。生きて帰ることが何より重要だ。もう一つのピークである白馬鑓ヶ岳(標高2903メートル)は意地でなんとか登り切った。

白馬三山の稜線、苦労を和らげた出会い
苦しい霧中の稜線歩きだが、ほっと心がなごむ瞬間も。荒天のなか鳥のさえずりが時折聞こえる。そういえば前日の小屋で別の宿泊者が天候が悪い時の方がライチョウに出会えると言っていたような。すると、目の前に茶色の羽の鳥の姿。ライチョウかと思ったが、体のサイズが小さい。イワヒバリのようだ。近づいても人間を怖がる様子はなく写真を撮影させてもらった。

午前10時45分ごろ、鑓温泉分岐に到着。ここからは尾根を外れ、下りの道となる。少し下るとすっかり霧が晴れ、下界の白馬村まで望めるようになる。天気が悪いのは稜線だけのようだ。
しばらくは安全な道が続くが、途中「この先鎖場事故多発ストックしまって両手をあけて」の看板が登場。スリップに注意しながら慎重に下っていった。

雲上の秘湯、白馬鑓温泉に到着
午前1時ごろ、白馬岳と並んで今回の山行の目的地である「白馬鑓温泉小屋」に到着。この小屋の目玉はなんと言っても標高2100メートルの「雲上の露天風呂」。テント場からは丸見えだが、気にすることもなく、2日間の汗を流した。

白馬鑓温泉小屋はシーズンごとに建設と解体を繰り返す、とても手間がかかる小屋。宿泊部屋は1スペース5人の小間が上下2段に分かれる形になっており、私たちは家族連れ3人組と同じ小間に割り当てられた。
夕食は「尾西食品」のアルファ米にレトルトの親子丼の具をかけて食べた。消灯時間までは食堂のスペースで読書をして過ごす。小屋オリジナルの手ぬぐいは買おうかどうか迷ったが、諦めた。
朝焼けに染まる絶景露天風呂

翌8月15日は午前4時過ぎに起床。日の出を見ようとしていた隣の家族連れが起床したのにつられて目をさました。小屋の外に出ると、目の前の暗闇に妙高山や火打山など新潟の山並みがシルエットとしてうっすらと浮かび上がり、次第に山際がほの明るく染まる。オレンジ色に染まる雲と空のグラデーションは1秒ごとに変化していく。何も考えずに朝焼けを浴びる時間は何ともいえず贅沢なものだ。午前5時すぎに太陽の光が完全に差し込み、露天風呂に向かった。朝焼けを浴びながらの雲上の温泉は極上だった。

3日間の道のり、疲労困憊の最終日
午前7時すぎに白馬鑓温泉小屋を出発。3日目の下りも気は抜けない。雪渓を横切ったり、落石注意の谷を渡ったり。さらに小日向山近くのだめ押しの登りは最終日の疲れた身体には強烈だった。

そして午前10時半すぎ無事、猿倉に帰還。バスは予約していたが、関西出身の女性2人組に声をかけられ、タクシー相乗りで白馬八方バスターミナルに戻ってきた。
温泉とジンギスカン、最高の登頂祝い
午前11時半ごろバスターミナル近くの温泉施設「白馬八方温泉」で汗を流し、午後1時ごろ、国道19号沿いのレストラン「リバーテラス山河 焼肉館」でジンギスカン定食を腹におさめた。

『日本百名山』の著者・深田久弥は白馬岳について「登りに変化があってしかも易しく、道も小屋も整っている」と書いた。決して「易しい」と感じなかったのは自分の修行不足だが、「わが国最高の露天風呂白馬鑓温泉に一浴するのもおもしろかろう」という評価には大いに納得した。
余談だが、下山後に白馬岳が舞台の山岳サスペンス小説『蒼き山嶺』(馳星周著)を読んだ。踏破した道程がありありと浮かんできて、白馬三山を縦走した方は一読の価値ありだ。
(2025年8月13日~15日)
