あの日 バスの中で!
さて皆さん!
皆さんは 学校や職場や買物に出掛ける時などに
どんな交通手段を利用していますか?
僕は独身の頃に 通勤のため 電車に加えて
路線バスを使っていた時期がありました
そのバスの中で「音」にまつわる 忘れらない
出来事がありましたので 今日は その話を聞いて
頂けないでしょうか?
※ ※ ※
それは僕が入社2年目を迎えたばかりの頃でした
まだ給料が低かった僕は 駅前からバスで片道
30分ほども 掛かる ”終点” のバス亭の側に
安アパートを借りたのです
その日は朝から 酷い雨が 降っていました
会社で課長に指示されて 1時間だけ残業した僕は
帰宅するため 電車から降りた後 駅前のバス亭に
停車してたバスに 乗り込んだんです
すると そのバスの中央付近にある一人用の座席に
とても 上品な和服姿の中年女性が座っていました
膝の上に ハンドバッグと 有名デパートの紙袋を
乗せていたので お買い物帰りといった風情です
僕はその女性の斜め後ろにある 二人掛けの席の
窓側に座りました
乗客が次々と乗り込み 空席がほぼ無くなった頃
バスは 定刻の19時10分に発車しました
女性は デパートの紙袋の中から 手の平に乗る位
のサイズの "茶色い紙製の小袋" を取り出すと …
じっと見詰めています
僕は この上品な女性が 雑貨店で使う様な 粗雑な
小袋を じっと見詰めている光景に 何となくですが
”違和感” を覚えたのです
バスは 交差点で 赤信号 となり停車しました
そして "アイドリングストップ" のため バスの
エンジンが自動的に止まりました
すると …
車内は一瞬にして「静寂」に包まれました!
シ ー ー ー ー ー ー ン
外を走る自動車の走行音と 運転席で 規則正しく
左右に動いてるワイパーの音しか聞こえません
バスの中は 静か過ぎて… 少し 気まずい感じが
漂っていました
丁度 その時です!
あの女性が 例の "茶色い紙製の小袋" の口を
開けたかと思うと いきなり 上下逆様にして…
その中身を バラバラッと デパートの紙袋の
中に 入れてしまいました!
中身が一体 何だったのかまでは 分からなかった
ですが それにしても その入れ方 … と思っている
と …
紙が糊付けされてる箇所を両手の親指と人差指の
指先だけで 探る様にして見つけ出し … そして
ゆっくり … ゆっくり … 剥がし始めたのです!
紙が剥がれる音は とても小さな音でした
最初は何の音か 分からない人が 殆どだったと
思います
でも僕は … 最初から ずーっと見ていたので 何の
音かは 分かってました!
この上品な和服姿の女性が あの有名デパートの
紙袋から取り出した 茶色い紙製の小袋を 一体
どうするつもりなのか と … とても気になって
最初から ずーっと見ていたのですから
やがて 糊付けされてた 茶色い紙が 少しずつ
剥がされる 微かな音が バスの客席の広い空間
に 少しずつ 広がって行きました
チリッ … チリッ … チリッ …
チリッ … チリッ … チリ チリッ …
とても小さな音です
取るに足らない音なんですが
気にする方が どうかしてる様な音なんですが
とにかく 気になって 仕方がないんですよ!
そのうち … 交差点の信号が 青 に変わったようで
バスの運転手は こう言いながら エンジンを掛け
ました
「発車しま~す! お掴まり下さい!」
バスが走っている間だけは エンジン音に掻き消
されて 一時的にチリチリ音が 聞こえなくなります
でも … この女性は エンジンが掛かろうが 掛かる
まいが お構い無しで この煩わしいチリチリ音を
出し続けていたのです
そのため エンジンが停止すると直ぐ … あの音が
聞こえてきました
チリッ … チリッ … チリッ …
チリッ … チリッ … チリ チリッ …
ここまで来ると 車内でこの音が気にならない
なんていう人は 一人も いません!
乗客達は 皆 気になって 気になって …
しかし どうすることも出来なかったのです
この女性は 分かっていたと思いますよ
このチリチリ音が 車内の隅々まで聞こえてる
という事を!
夕方の ドシャ降りの車道は メチャ混みです
交差点も多いので バスは何度も停車します
そしてエンジンが止まれば 静寂に包まれて
あの音が …
そうこうしている内に 彼女は とうとう 小袋
の糊付け部分を 全て剥がし終わって 1枚の
四角くて茶色い紙にしてしまいました
そうなんですよ! 茶色の小袋は 1枚の紙を
折って 糊で貼り付けて 作られていたんです
彼女は その紙を 両手で 大事そうに挟むと …
何度か擦りました
紙の表面の折り目や皺を 少しでも 無くそうと
している様でした
あぁ … やっとあのチリチリ音が止まった!
ホッとしたのは僕だけじゃなかった筈です
やっと終わったか 良かった~!
ところが …
僕 見ちゃったんですよ!
彼女が デパートの紙袋の中から …
次の "茶色い紙製の小袋" を取り出すところを …
そして さっきの小袋と同じ様にして 中身を
デパートの紙袋の中に バラバラッと 勢いよく
入れた後 糊付けされている部分を見つけて
ゆっくり … ゆっくり … 剥がし始めたのです!
えぇ 賭けても良いですが … バスの乗客達は
一人残らず 誰もが 落胆したことは 間違い
ありません!
信号が 青 に変わり エンジンが掛かると
バスはゆっくりと走り出します
すると どうでしょう …
最初の小袋はエンジンが掛かれば チリチリ音
は 聞こえなくなりましたが 今度の2個目は
エンジンが掛かったというのに チリチリ音が
ハッキリと聞こえてきたんです!
チリッ … チリッ … チリッ …
チリッ … チリッ … チリ チリッ …
もう ここまで来ると ちょっとした拷問です!
誰かが犠牲になり 彼女に「チリチリ するのを
止めて下さい!」と言ってくれないだろうか?
でも 単に チリチリするのを止めて下さい!
なんてお願いするのは … 大人げないじゃない
ですか?
第一 止めてもらうための理由は どう説明する
つもりですか?
「そのチリチリ音! 五月蠅いので 止めて
貰っていいですか?」… とでも言うのですか?
別に…彼女 バスの中で大工仕事を始めたって
訳じゃ ありませんよ!
小さな 小さな 音なんですから 気にしなきゃ良い
だけのことじゃないですか? そうでしょ?
… だったら放置するしかないですよね~
でも問題は バスの終点まで まだ 20分もある
ということです!
ここで降りて 次のバスに乗り換えますか?
バスは定期券で乗ってますから 乗り直しても
お金は掛かりません
でも外は雨ですよ しかも 次のバスが来るのは
35分後です! ただし雨天ですから 遅れるかも
知れませんよ
この辺のバス亭には屋根が無いですから 35分も
立っていたら 革靴もズボンも グジョグジョに
なるのは 目に見えています
残業もしたので 早く帰りたいです
あぁこんな日に限ってイヤホン忘れて来たので
お気に入りの「ミスチル」は 聴けないし …
「えっ!3つ目を剥がし始めた!」
チリッ … チリッ … チリ チリッ …
チリッ … チリッ … チリ チリッ …
結局 …
終点の 一つ前のバス停で この女性はバスを
ゆっくり降りて行きました
勿論 他の乗客達は やっと 拷問から 解放
されたと安堵したと思います
あの日以来 長い年月が経ちましたが 今でも
僕は … 雨の日に バスに乗ると あの女性が
乗っているんじゃないだろうか?と
思い出すことがあるのです
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