第0章:絶望の学園と、六つの審判者
📘 はじめに(免責事項等)
本作は『ダンガンロンパ』シリーズの世界観をもとにした二次創作小説です。
原作ゲーム・アニメ・小説等の公式作品とは一切関係ありません。
また本作は、読者を「観察者」ではなく、登場人物と同じ目線で物語を追体験する構成となっています。
あなたが目にするのは、彼らが見た風景。彼らが聞いた声。彼らが感じた違和感。
そのすべては、裁きの舞台へ向かう彼ら自身の選択と、あなた自身の「選択」へとつながっていきます。
🔹 プロローグ『ようこそ、「ゲーム」の法廷へ』
1:異常な入学式
ざわめく街の音が、遠ざかっていく。
苗木誠は、希望ヶ峰学園の門を見上げたまま、まるで吸い込まれるようにその敷地に足を踏み入れた。
夢にまで見た、超高校級のエリートが集う場所。
ごく普通の高校生である自分が、この扉を開けていいのか。
──そんな不安と高揚が入り混じった感情を胸に、校舎の扉を押し開ける。
だが、その瞬間、世界が歪んだ。
苗木誠
「……なんだ、この、目眩……?」
視界がぐにゃりと歪み、地面の感触が消える。
ふわりと浮き上がったかと思うと、次の瞬間、苗木の意識は闇の中へと落ちていった。
──目覚めたとき、天井は金属の格子で覆われていた。
苗木誠
「……ここ、どこだ……?」
鋲で補強されたドア。
塞がれた窓。
監視カメラ。
無機質で冷たい部屋の空気は、明らかに「学園生活」のそれではなかった。
ポケットに残された入学案内には、
「午前8時、講堂集合」
とある。
腕時計を見ると、針はすでに9時を回っていた。
苗木誠
「オレ、確かに来たよな……あの校門を……くぐって……」
混乱する思考の中で、苗木は部屋の扉を開ける。
廊下には、彼と同じく状況を把握できていない生徒たちが数名いた。
霧切響子
「あなたも、今目覚めたの?」
苗木誠
「あ、うん。君は……」
霧切響子
「霧切響子。状況を確認してるの。監視カメラが異常な数、ドアには外からのロック……これは明らかに“学園”じゃないわ」
大和田紋土
「チクショウ、誰の仕業だコレは!」
朝日奈葵
「ねぇ、マジで閉じ込められてるの!? 冗談だよね!?」
十神白夜
「騒ぐな。無駄だ。……情報が不足している段階で騒ぎ立てる愚かさに気づけ」
セレス
「まるで、籠の中の鳥……。この“檻”に入れられた私たちが、選ばれた者だというのなら、それもまた皮肉ですわね」
そんな中、場違いな明るさを持った放送が鳴り響いた。
「ピンポンパンポーン♪ 生徒の皆さんは、ただちに講堂までお越しくださいませ〜☆」
おどけた電子音のような声。
その裏に潜む狂気に、まだ誰も気づいていなかった──
2:モノクマの裁き
講堂へ足を踏み入れた苗木は、息をのんだ。
荘厳な内装。
だが、そこに漂う空気は張り詰めていた。
すでに十数人の生徒が集まっている。
皆、困惑の色を隠せない。
誰もが口を開けず、ただ「何か」を待っていた──
そのとき。
舞台上に、唐突に現れた。
それは白と黒の縞模様、左右非対称な色のぬいぐるみのような姿。
一方は無邪気な笑顔、もう一方は邪悪なニヤリとした笑み。
???
「は〜いっ! 皆さん、よくお集まりくださいましたっ☆」
あまりにも場違いなテンションに、教室内が凍りつく。
苗木誠
「えっ……くま?」
モノクマ
「ボクの名前は、モノクマ! この学園の学園長で〜す☆」
誰かが笑うかと思った。
だが誰も笑わない。
それどころか、異様な雰囲気に誰一人として動けなかった。
十神白夜
「ふざけているのか。これは誰の“悪趣味な演出”だ?」
モノクマ
「悪趣味? 誉め言葉ですなぁ〜。じゃあさっそく、本題に入っちゃいましょう!」
その声が高らかに告げる。
「この学園に入学した君たちの卒業条件は──殺人ですッ!!」
一瞬、時が止まった。
朝日奈葵
「は……? なにそれ、意味わかんない……」
モノクマ
「学園内で誰かを殺して、その犯人を当てる学級裁判に勝ったら卒業ぉ〜! うっぷっぷ!」
大和田紋土
「テメェ……ふざけんなよ!」
彼は舞台へ飛び込もうとしたが──
バンッ!!
天井から突如、鉄槌のようなアームが伸び、大和田の足元に叩きつけられた。
モノクマ
「警告だけで済ませてあげるのは最初だけだよ〜?」
暴力。
威圧。
支配。
それがぬいぐるみの皮を被って告げられる。
モノクマ
「そして今回からはぁ〜、特別に“学級裁判”に新ルールを追加ぁっ!」
生徒たちが一斉に息を呑む。
モノクマ
「その名も『モノクマ陪審制度』! ボクが作った6体のモノクマ陪審員が、“クロ”か“シロ”かを多数決で判定します!」
苗木誠
「……つまり、俺たちの判断じゃないのか……?」
モノクマ
「安心してよぉ? 陪審員はランダムだけど、きっと“正義感”のあるモノたちばかりだよ! ぷぷっ♪」
霧切響子
「陪審員が裁くというのなら、私たちは何のために“裁判”を……?」
セレス
「まるで、私たちはお人形のようですわね……意思のない、ただの参加者」
狂ったルール。
狂った支配。
だが、何より恐ろしかったのは──
そのルールに従う以外の「選択肢」がなかったということ。
3:沈黙の檻と、目覚める違和感
それから、どれほどの時間が流れただろうか。
講堂を出た苗木たちは、それぞれの個室。
──まるで監房のような「部屋」に戻された。
食料
寝具
トイレ
収納
必要最低限の生活用品は揃っている。
だが窓はなく、ドアは外から施錠される仕組みだ。
完全に「閉じ込めるための設計」だった。
苗木誠
「……これは学園じゃない。どこかの……監獄だ」
彼は、鏡に映る自分の顔を見てそう呟いた。
「希望ヶ峰」に選ばれたことが誇らしかった。
だけど今、その名のもとに自由を奪われ、誰かを「殺せ」と命じられている。
その矛盾が、胸の奥をじわりと焦がしていた。
翌朝。
共用の食堂に集められた面々は、どこかぎこちなく、無理に明るく振る舞おうとする者もいれば、沈黙のまま座る者もいた。
桑田怜恩
「なあ、こんなの、いつまで続くんだよ……マジでよ……」
舞園さやか
「でも……希望を捨てたら、終わりです。前を向かないと……」
大和田紋土
「……とにかく、殺さなきゃ卒業できないってのはマジなんだな。俺は……絶対、そんなもんやらねえけどよ」
霧切響子
「“卒業”って言葉の意味を、私たちはまだ知らない。何か裏があるはずよ」
その時だった。
食堂のモニターに、再び「あの声」が響く。
「ピンポンパンポーン♪ おはようございます、希望ヶ峰の囚人諸君!」
モノクマ
「今日も楽しいゲームライフ、始めましょうね〜♪」
モノクマが画面に現れたその瞬間、部屋の温度が数度下がった気がした。
モノクマ
「ちなみに〜、“誰か”が卒業に向けて動いてくれないと、ボクが“刺激的な罰ゲーム”を考えちゃうからね〜☆」
十神白夜
「脅迫か……ますます、悪趣味な道化だな」
セレス
「いいえ、これは道化ではありませんわ。極めて計算され、意図的な“舞台”ですもの。まるで、劇場型犯罪ですわね」
誰もが心のどこかで「まさか、そんなこと」と思いたかった。
だが──その「まさか」が、ゆっくりと現実味を帯びていく。
苗木誠
(……このままだと、本当に……誰かが、殺すのか?)
その時。
彼の胸に、わずかながら違和感が芽生えた。
「この状況そのものが、誰かの掌の上にある」
──そんな感覚。
しかし、彼はまだ気づいていない。
この空間が、ただの「閉鎖された学園」ではなく、すでに絶望という名の舞台の上であるということに。
4:絶望のゲーム開始
その「出来事」は、静かに、そして確実に近づいていた。
午前8時。
毎朝のルーティンのように、食堂へと足を運ぶ生徒たち。
誰もが表面上は普段通りを装い、笑顔を取り繕っていた。
だが、その空気の中には確かに、「何か」が蠢いていた。
葉隠康比呂
「オ、オレさ、昨夜めっちゃヤバい夢見てさ〜! 学園の中にゾンビが出てきて──」
朝日奈葵
「やめてよ〜そういうの! マジでありそうで怖いんだから!」
不二咲千尋
「あ、あの……皆さん、パソコン室、見ましたか? ネットに繋がってなくて……ちょっと、怖いです……」
十神白夜
「当たり前だ。ここは“閉鎖環境”だ。通信があるほうが不自然だろう」
セレス
「でも、それはつまり……“ここ以外の世界”と切り離されたことを意味しますわね」
そんな中、静かに霧切が苗木の隣に腰を下ろした。
霧切響子
「……あなた、気づいてるわね」
苗木誠
「え?」
霧切響子
「この空間。すべてが、演出されていることに」
彼女の言葉は、苗木の中に沈んでいた違和感を呼び起こした。
霧切響子
「私たちの行動、会話、反応──すべて“観察”されている。監視カメラが、それを物語っている」
苗木誠
「……でも、それって、誰が……」
その問いの答えを、次の“事件”が先回りする形でねじ伏せた。
突如、食堂の扉が乱暴に開かれた。
舞園さやか
「み、みんなっ! 大変、早く来て!!!」
顔面蒼白の彼女の声に、全員が立ち上がる。
案内された先、廊下を進んだその先に──それは、あった。
教室の中。
血の匂い。
倒れた一つの人影。
髪は明るく、特徴的なツインテール。
制服は血で染まり、完全に動かなくなっている。
苗木誠
「……え……江ノ島さん……?」
再び流れる、館内放送。
「ピンポンパンポーン♪ 死体が発見されましたので、死体発見アナウンスを行います☆」
「さぁさぁ、皆さんお待ちかね〜! はじめての“学級裁判”のお時間ですよ〜!!」
絶望のゲーム。
その第一幕が、今まさに開かれようとしていた──
5:仮面の女王と、その死
倒れていた少女。
──江ノ島盾子。
講堂で最初に自己紹介した時、彼女は強烈な個性を放っていた。
長いツインテール。
派手なネイル。
毒舌と媚態が混ざったような態度。
「超高校級のギャル」という肩書きに、誰もが納得する存在だった。
だが──
今、教室の床に横たわっている彼女は、もう何も語らない。
血で染まった制服と、動かぬまぶた。
命が、そこから消えてしまったという事実だけが、無言のままその場にあった。
桑田怜恩
「……嘘、だろ……?」
大和田紋土
「おい、誰がやった……テメェか!? いや、オマエか!?」
朝日奈葵
「ちょっと、やめてよ……っ! そんなの、誰にも分かるわけないでしょ!」
霧切響子
「……落ち着いて。感情だけで責めても、何も解決しないわ」
彼女はすでに、死体の周囲を静かに調べ始めていた。
その手には、またあのビニール手袋。
セレス
「……まさか、本当に……“殺人”が起きるなんて」
誰もが、どこかで疑っていた。
だがその疑念が、目の前で現実のものとして叩きつけられた今──
疑うべき相手は、同じ空間にいる「全員」へと変わっていく。
「ピンポンパンポーン♪ えっとー、じゃあ学級裁判の準備をしま〜す☆」
突如、スピーカーから響く声に、場の空気が一変する。
「犯人──つまり“クロ”を見つけ出して、見事に当てることができれば、クロだけが“おしおき”! でも間違えたら、“クロ”以外全員がおしおきターイム☆」
苗木誠
「……こんなのおかしい。……どうして、こんなことに……」
霧切響子
「……“始まった”のよ、苗木くん。これはもう、“選ばせるゲーム”なんかじゃない。最初から、“仕組まれてた裁き”」
十神白夜
「冷静になれ。今は感情で動くな。……まずは情報だ。この死体が、本当に“江ノ島盾子”かどうかも含めてな」
その言葉に、全員が一瞬、動きを止めた。
セレス
「……あら。それは、どういう意味ですの?」
十神白夜
「文字通りの意味だ。“見た目”に騙されるな。……このゲームが、“見せかけ”の情報で操作されているならば──“偽装”の可能性もあるということだ」
──そして、その推測は、数日後に静かに確信へと変わる。
「江ノ島盾子」とされた死体は、実際には「江ノ島」ではなかった。
真の彼女は、事件を仕組んだ黒幕としてまだ学園のどこかに潜み、その場に倒れていたのは、正体を隠された「戦刃むくろ」。
全員が「江ノ島盾子が死んだ」と信じ込まされたまま、学級裁判という名の“儀式”は、その幕を上げる。
モノクマ
「さーてさて! この中にいる犯人を、皆さんで見つけましょー☆
でもぉ〜? 今回はちょっと違いますよぉ〜?」
「この“学級裁判”、判決を決めるのは……“モノクマ陪審員”の6体でぇ〜す!」
壇上にずらりと現れる、6体のモノクマ。
赤い目を光らせるそれらは、まるで「心」を持っているかのように、それぞれ異なる挙動を見せた。
霧切響子
「……やっぱり、裁くのは……私たちじゃないのね」
苗木誠
「じゃあ……俺たちは……何のために話し合うんだ……?」
モノクマ
「ぷぷっ♪ それはもちろん、みんなで楽しむためだよ! “誰が殺したか”、じゃなくて、“誰が信じられるか”っていう、すっごく人間くさいお遊戯☆」
この「裁判」が、果たして真実を暴くためのものなのか──
それとも、「真実さえも操作された絶望の茶番劇」なのか。
苗木たちは、まだ何も知らない。
だがこの瞬間から、全ては「モノクマに都合よく作られた正義」の中で進んでいく。
そして、「6人目の陪審員」
──すなわち、読者であるあなたにも。
この「狂った法廷」の行方が、問われることになる。
