贋造

夕暮れの街を歩いていた。
冬の終わりの空気は、妙に薄く、肺の奥まで届く前にどこかへ消えてしまうようだった。
電線の上には、黒い鳥が二、三羽とまっている。けれどその影は、地面の上でどうにも軽すぎて、まるで紙を切り抜いて貼り付けたように見えた。
ふと、ガラス窓に映った街並みを見た。
店の灯りも、人の歩く姿も、みな穏やかに揺れている。
それなのに、どこか色が浅い。
絵の具が乾く前に、誰かが急いで世界を仕上げてしまったみたいに。
なんだかおかしい、と私は思った。
しかし、おかしいのは街の方ではないのかもしれない。
むしろ私の胸の中に、薄い紙のような感覚が一枚、挟まっているのだった。
人々は笑い、話し、肩を寄せて歩いている。
その声は確かに聞こえている。
けれど、その声の重さが、私の耳の中でどうにも定まらない。
まるで遠くの舞台から流れてくる、出来の良い芝居の台詞みたいだ。
私は立ち止まり、しばらく空を見上げた。
空は淡く濁っていて、雲はゆっくりと流れていた。
その雲の輪郭さえも、どこか不器用に描かれている気がした。
ああ、これは贋造ではないだろうか。
この街も、この空も、この夕暮れも。
どこかの誰かが、古い世界を真似て作った、よく出来た贋造。
そう思ったとき、私はふと笑ってしまった。
おかしいではないか。
もしそれが贋造だとしても、人々はそれを本物として生きているのだから。
するとその瞬間、
もっと妙な考えが胸の奥から浮かび上がってきた。
もしかすると、贋造なのは世界ではなく、
私の方ではないのだろうか。
この歩き方、この考え、この寂しさ。
どれもどこかで見覚えのあるものばかりで、
私はただ、それを上手に真似ているだけなのではないか。
誰かの孤独を。
誰かの悲しみを。
誰かの人生を。
そうして私は、夕暮れの街をまた歩き出した。
電線の鳥はまだ同じ場所にとまっていて、
影は相変わらず軽かった。
けれど誰も、それを不思議とは思っていない。
誰も、私のことも疑わない。
私は少し肩をすぼめ、
人々のあいだに紛れ込んだ。
そして思った。
私はきっと、かなり上手に出来た贋造なのだろう。

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