一生懸命ストレッチしているのに前屈が深まらない理由
一生懸命ストレッチしているのに
ポーズが深まらない。
そんな悩みを聞くことは多いです。
でも実際には、
一生懸命ストレッチしているから
ポーズが深まらない
ということも少なくありません。
ヨガはストレッチという誤解
ホットヨガの広まりもあって、ヨガはかなり身近な存在になりました。
それでもまだ、
「ヨガ=難しいストレッチ」
というイメージを持っている人は少なくありません。
これはヨガ未経験の人だけでなく、実践者の中にもよく見られます。
もちろん、ヨガの中にはストレッチ的な要素もあります。
けれど、ヨガを「ストレッチ」とだけ捉えると、身体の使い方を少し見誤ってしまうことがあります。
むしろヨガは、
体操のように動きの中で身体を整えたり、
筋トレのように身体を支えたりする側面も強いものです。
今回は、
「ヨガ=ストレッチ」という見方
を、少しだけほどいてみます。
前屈は「後ろを伸ばす動き」ではない
例えば前屈。
前屈というと、
身体の後ろ側、
特に、太ももの裏を伸ばすストレッチ
と思われることが多いかもしれません。
けれど動きとして見ると、
前屈は
身体の前面をたたむ動きです。
お腹や股関節の前側が少し縮む。
すると、
背中や太ももの裏がゆるみ、
「伸びる」という状態が生まれます。
ここで大切なのは、
前をたたむことと、後ろがゆるむこと。
この二つが同時に起きることです。
だから前屈で、
太ももの裏をピンと引っ張ってしまうと、
身体はかえって動きにくくなります。
後ろ側を伸ばすのではなく、
後ろ側が自然に伸びる状態を作る。
その結果、前屈は少しずつ深まります。
科学が示す「柔らかさ」
ここで、少しだけ科学の話を。
ストレッチの効果をまとめたレビュー研究では、
ストレッチ後に関節可動域(ROM)が広がる理由としては、
筋肉や腱の力学的変化だけでなく、
伸ばされる感覚への慣れ(stretch tolerance)の変化が関与する可能性も指摘されています
(Behm et al., 2016)。
論文はこちら
https://doi.org/10.1139/apnm-2015-0235
同じ構造でも、
「不快ではなく感じられる」
それだけで、より深く動けることがあります。
※この研究は主に短期的な変化を扱っており、長期適応とは区別して考える必要があります。
さらに、
レジスタンストレーニング(筋トレ)でも
関節可動域(ROM)が改善することが報告されており、
いくつかのメタ解析では
ストレッチと比較して有意差が検出されない結果も示されています
(Afonso et al., 2021;Alizadeh et al., 2023)。
Afonsoら(2021)
https://www.mdpi.com/2227-9032/9/4/427
Alizadehら(2023)
https://doi.org/10.1007/s40279-022-01804-x
つまり、
柔らかくなる方法は
「伸ばすこと」だけではない。
力を発揮しながら可動域を使うトレーニングでも、関節可動域(ROM)が改善する可能性が研究で報告されています。
柔らかさとは「戻れること」
ここで一つ問いが生まれます。
深くなることと、
動けることは同じでしょうか。
この問いについては、
20年以上にわたりパーソナルでストレッチやヨガを指導してきた経験からの視点として
少しお話ししたいと思います。
柔らかくなるとは、
ただ伸びる範囲が広がることではありません。
その状態から、
いつでも自由に戻れること。
一般に可動域(ROM)は関節が動く範囲として定義されますが、
実際に身体を扱ってきた経験からすると、
単純な可動域の広さだけで柔らかさを考えるのは危険です。
動ける身体が、
柔らかい身体です。
前屈で起きていること
前屈で意識するのは、
単純に太ももの裏の伸び感だけではありません。
お腹をほんの少し引き込む。
重心を踵から土踏まずへ。
脇の下をゆるめる。
固めなくていい。
力まなくていい。
ただ、支える。
身体の重みによって
自然と身体が折れていく。
前屈の中で止まってしまうのではなく、
そこから
いつでも動き出せる状態。
そんな前屈が、
身体にとって自然な前屈です。
使うことと、ゆるむこと。
動くことと、止まること。
一見相反するものが、同時にある状態。
ヨガで「調和」と呼ばれるものも、
もしかすると
こういう感覚なのかもしれません。
支えることで柔らかくなる
柔らかさは、
単なる「ゆるさ」ではありません。
力を抜いた結果ではなく、
力を扱える範囲が広がった結果。
筋トレで可動域が広がるのだとしたら、
それは
「支えられる範囲」が増えた
ということかもしれません。
ヨガも同じです。
ただ伸ばすだけでもなく、
ただ耐えるだけでもなく、
動きの中で
支えを、ゆるめる余裕を育てていく時間。
今週のワーク:伸ばさないで前屈を柔らかくする
では、今回のnoteの内容を、身体で実感してみましょう。
前屈の前に、少しだけ準備します。
① 腹筋の引き込み

四つんばいになります。
軸足の膝の下にヨガブロックを置くと、やりやすいです。
片脚の内ももを、
仙骨のほうへ軽く引き寄せます。
そのまま10秒キープ×3セット。
片側が終わったら前屈をして、
左右の違いを観察してみてください。
内ももを引き寄せた方の足がたたみやすいのを感じられますよ。
② ハムストリングスの出力を目覚めさせる

うつぶせになります。
片脚の膝を曲げ、
反対の足の指で軽く押さえます。
踵で指を押し返すように
太ももの裏に力を入れます。
この時、膝裏をお尻に引き込むように力を入れると、
上手に太ももの裏に刺激が入ります。
10秒キープ。
そのあと、太ももの裏を使うように意識しながら
数回膝を曲げ伸ばしします。
終わったら、もう一度前屈してみてください。
伸ばしていないのに、
太ももの裏が軽くなったのを感じられます。
📺 今週のYouTube(実践編)
上記のワークやnoteの内容をYouTubeで実践しています。
👉【前屈はストレッチじゃない】柔らかくなる身体の使い方|ヨガの誤解①
https://youtu.be/XGyLjimBSbY
目次
00:00|前屈は単なるストレッチではない
02:16|ワーク① 腹筋の引き込み
04:24|ワーク② ハムストリングスを目覚めさせる
06:03|ワーク③ ストレッチではない前屈を体験
07:42|まとめ
さいごに
伸ばすことが悪いわけではありません。
でも、
伸ばす=柔らかくなる
とは限らない。
ヨガのポーズの目的は、
本来、整えること。
全体がまとまっていて、
心地よく力強くて、
いつでも動ける状態。
その状態をつくろうとしていると、
不思議と身体は
勝手に柔らかくなっていきます。
楽しんでヨガをしていれば、
結局それが一番効果的ですよ。
別のnote記事とも比べてみてください。
日曜|日常と身体をつなぐnote
練習で増えた“気づき”が、日常でどう現れるか。
火曜|身体と心を問い直すnote
「深まったつもり」を疑い直す、思考の整理。
金曜|身体を整える実践note(YouTube連動)
今回のような練習記事を中心にまとめています。
参考文献
Behm, D. G., Blazevich, A. J., Kay, A. D., & McHugh, M. (2016).
Acute effects of muscle stretching on physical performance, range of motion, and injury incidence in healthy active individuals: A systematic review.
Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism, 41(1), 1–11.
https://doi.org/10.1139/apnm-2015-0235
— ストレッチの急性効果(可動域増加・一時的な出力低下など)をまとめたレビュー。Afonso, J., Ramirez-Campillo, R., Moscão, J., et al. (2021).
Strength training versus stretching for improving range of motion: A systematic review and meta-analysis.
Healthcare (Basel).
https://www.mdpi.com/2227-9032/9/4/427
— 筋トレ(strength training)とストレッチを比較し、どちらも可動域改善に寄与するというメタ解析。Alizadeh, S., Daneshjoo, A., Zahiri, A., et al. (2023).
Resistance Training Induces Improvements in Range of Motion: A Systematic Review and Meta-Analysis.
Sports Medicine, 53, 707–722 (2023).
https://doi.org/10.1007/s40279-022-01804-x
— 外的負荷を伴うレジスタンストレーニング(筋トレ)は関節可動域を改善し、ストレッチと同程度の効果が得られることを示した大規模メタ解析。
