ヨガのポーズは身体のチェックシート|「映えヨガ」から少し離れてみる
「ヨガのポーズ」と言われたとき、何を思い浮かべますか?
柔らかい前屈。
大きく開く開脚。
難しいバランスのポーズ。
もちろん、それもヨガのポーズの一側面。
ただ、写真や動画で、見映えのための道具として切り取られがちです。
けれど本来、ヨガのポーズはパフォーマンスというよりも
身体の状態を確かめるためのチェックのような役割を持っています。
たとえば前屈。
もし前屈はとても柔らかいのに、後屈がほとんどできないとしたら、
身体としてはバランスが取れているとは言えません。
また、どの方向にも柔らかくよく動くけど、
アームバランスだと崩れるし、腹筋では起き上がれない。
これだと「柔らかい」というよりは、「弱い」に近いかもしれません。
だからヨガでは、
前屈、後屈、ねじり、立位、逆転、アームバランス。
そして、なにより、シャバ―サナ。
といった、さまざまな方向、さまざまな負荷、
さまざまな在り方のポーズを組み合わせて練習します。
それはポーズを見せるためではなく、
身体がどのような状態にあるのかを確認するためです。
ところがここで、少し不思議なことが起きます。
本来は「確認」のはずのポーズを、
無理をしてクリアしようとしてしまうのです。
これは、こんな状況に少し似ています。
模試の前だけ一夜漬けをする。
体重測定の前だけ食事を抜く。
その場では数字が良くなるかもしれません。
でも、それで本当に実力や体調が変わったわけではありません。
ポーズも同じです。
形だけを無理に深くしても、身体が整うわけではありません。
科学が示す「チェックとしての動き」
この考え方は、運動科学の分野でも見ることができます。
たとえば
Functional Movement Screen(FMS) と呼ばれる評価法があります。
スクワットやランジといった基本動作を観察しながら、
関節の可動性や安定性、動きの質を評価します。
ここで重要なのは、
その動きを「上手くできること」自体が目的ではないという点です。
その動きの中で
どこが固まるのか
どこで代償が起きるのか
どこで動きが止まるのか
そうした特徴を観察することで、
身体の状態を理解するためのツールとして使われます。
ヨガのポーズも、まさにこのような「身体を知るためのチェック」として使うことができます。
ポーズを「成功させるべき課題」として扱うのではなく、
身体の状態を映すチェックとして使う。
そう考えると、ポーズとの付き合い方は少し変わってきます。
科学が示す「一時的な柔らかさ」
柔軟性についても、似たような話があります。
ストレッチ研究では、ストレッチのあとに関節可動域(ROM)が広がる理由として、
筋肉や腱の変化だけでなく、
「伸ばされる感覚に慣れること(stretch tolerance)」も
関係している可能性があります。
これは簡単に言うと、
「伸ばされる感覚に慣れることで、
同じ身体でもより深く動けるようになる」
という現象です。
つまり、
その場で柔らかく見えることと、
身体能力が変わることは必ずしも同じではありません。
だから、スタジオで一生懸命に練習した日は
ポーズに深く入れても、
次の日に戻ってしまうことも普通に起こります。
短時間のストレッチでも可動域が広がることはあります。
しかしそれは、身体そのものが変わったというより、
感覚や神経の働きが一時的に変化した結果である可能性もあります。
例えるなら、
テスト前の一夜漬けのようなものです。
だからこそ、ヨガでは
ポーズを「クリアすること」よりも、
その中で
どこが動くのか
どこが固まるのか
どこに余裕があるのか
を観察することの方が、
身体を整える練習として意味のある時間になることがあります。
ヨガの教えで
「それに相応しい自分になったとき、それは向こうからやってくる」
というものがあります。
そのポーズを無理やりとるのではなく、
そのポーズがとれるレベルの心身の自分になって、
当たり前にポーズがとれるようになること。
こうした教えと科学の重なりは、嬉しく頼もしいですね。
ヨガの目的
ポーズを上手く取ることより、
そのポーズの中で身体の状態を知ること。
ここにヨガの大きなヒントがあります。
そもそもヨガは、
ポーズそのものを完成させるための練習ではありません。
ポーズはむしろ、
身体の状態を映すチェックシートのようなものです。
だからこそ、単なるストレッチとしてだけではなく、
支える力
動きのつながり
身体全体のまとまり
を感じながら動いていきます。
そうしていくと、身体は少しずつまとまり始めます。
そして身体がまとまってくると、
ポーズも自然と安定してきます。
ただし、ここでもう一つ大切なことがあります。
まとまった身体を作ること自体が目的ではないということです。
ヨガの目的は、
身体を整えること。
そして身体が整うと、
呼吸も落ち着き、心も静かになりやすくなります。
だからこそ、ポーズの役割を勘違いしないことが大切です。
ヨガは、
より深いポーズを取ることが目的ではありません。
本来の目的は、
より深い落ち着きを得ること。
ポーズは、そのための道具です。
それは、シークエンスがシャバーサナで終わることからも、
すでに経験している感覚かと思います。
すべてのポーズはシャバーサナの準備ポーズとなり得ます。
それを頭の片隅においておくだけで、
無理やりポーズをとらなくてすむようになりますよ。
身体が整い、支えが安定してくると、
少し難しいポーズも自然と取れるようになります。
そしてその身体であれば、
呼吸も乱れにくく、身体も崩れにくい。
結果として、
より落ち着いた状態に入りやすくなります。
ポーズが深くなることはゴールではありません。
それはただ、
身体が整ってきているサインです。
ヨガでは、このサインを確かめるために、
身体のズレに気づくために、
さまざまなポーズを練習します。
だから、できないことは発見という成果であって、
恥じることでも、焦ることでもないんですよ。
今週のワーク:シャバーサナとダウンドッグの観察練習
では、この「ポーズ=チェック」という感覚を、
実際に身体で確かめてみましょう。

1️⃣ ダウンドッグで自分の状態を観察
足の重さや呼吸の感じを、静かに観察します。
2️⃣ シャバーサナ
一度完全に力を抜きます。これもただの観察です。
ここから、力まずに力をいれるという、一見したら矛盾する動きをします。
その相反する二つの性質の調和こそがヨガの真骨頂ですね。
3️⃣ 膝を抱える
手で膝をギュウギュウ持ってくるのは✕。
仙骨周りがふわっとした感覚を保ったまま、
腰骨の内側を仙骨に引き込むように行いましょう。
4️⃣ シャバーサナ
②よりも身体がリラックスしているか観察します。
5️⃣ ベルトワーク
③と同じ感覚で行います。
もも裏の硬さのせいで
感覚を保つのが難しくなるのは〇。
感覚が保てないと
そこで思考停止してしまうのが✕。
6️⃣ シャバーサナ
④よりもさらに静かになっているか観察します。
7️⃣ ダウンドッグに戻る
①よりも足が軽いダウンドッグになっているか確認します。
📺 今週のYouTube(実践編)
上記のワークやnoteの内容をYouTubeで実践しています。
👉ヨガのポーズの本当の役割|ポーズは目的ではない理由|ヨガの誤解②
https://youtu.be/nsmWqVNbT2U
目次
00:00|ヨガのポーズの役割の誤解
00:43|ポーズは身体のチェック
02:53|【ワーク】シャバーサナとダウンドッグ
07:47|まとめ
さいごに
ポーズはゴールではなく、
身体の状態を映すチェックシートのようなもの。
ポーズを「クリアすべき課題」だと思ってしまうと、この役割を見失ってしまいます。
けれどポーズの意味が見えてくると、
ヨガの練習は少し変わります。
ポーズを追いかけるのではなく、
整っていく身体を観察する練習になるからです。
上手く整わないとしても、
その過程を観察することが練習です。
その時間は、自分と身体を知る大切な時間です。
あなたがヨガのために使った時間のすべては、
きちんとあなたの中で育っていますよ。
毎週金曜日は、こんな視点で身体とヨガについての記事を書いています。
参考文献
Cook, G., Burton, L., & Hoogenboom, B. (2006).
Pre-participation screening: The use of fundamental movements as an assessment of function.
North American Journal of Sports Physical Therapy, 1(2), 62–72.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21522216/
— Functional Movement Screen(FMS)の概念を紹介した論文。スクワットやランジなどの基本動作を、身体機能を評価するスクリーニングとして使用する考え方を整理。
Magnusson, S. P., Simonsen, E. B., Aagaard, P., et al. (1996).
A mechanism for altered flexibility in human skeletal muscle.
Journal of Physiology, 497(1), 291–298.
https://doi.org/10.1113/jphysiol.1996.sp021768
— ストレッチ後の柔軟性増加が、筋腱構造の変化だけでなく stretch tolerance(伸張感覚の変化) と関連する可能性を示した研究。
Behm, D. G., Alizadeh, S., Daneshjoo, A., Hajizadeh Anvar, S., Graham, A., Zahiri, A., Goudini, R., Edwards, C., Carleton, R., Scharf, K., & Konrad, A. (2023).
Acute effects of various stretching techniques on range of motion: A systematic review with meta-analysis.
Sports Medicine – Open.
https://doi.org/10.1186/s40798-023-00652-x
PMID: 37962709
— 様々なストレッチ方法の急性効果を統合したメタ分析。1回のストレッチでも関節可動域(ROM)が小さく増加する可能性が示され、ストレッチ方法・強度・性別などによる大きな差は確認されなかった。
