効率化という「罠」──練習は、完成のためだけか?
練習は効率化するものだと思っていないか?
──練習は「できるようになるため」ではなく、
「気づきが起きる環境づくり」
今月は、
「練習」についての、
よくある誤解を一つずつほどいていきます。
「どうしたら、もっと早くできるようになりますか?」
レッスンをしていると、とてもよく聞かれる質問です。
真面目に練習している人ほど、
この問いを持ちやすいのだと思います。
でも、ここで少しだけ、
立ち止まって考えてみてほしいのです。
練習は、本当に“効率化”することだけが正解なのでしょうか?
🟢 今週の結論
効率の良さよりも、丁寧さの方が大切
効率化は、ときに「上達した気」だけを早める
むしろ「気づきを減らす」ことがある
練習は、
早くできるようになるための作業ではありません。
気づきが起きる「余白」をつくる時間です。
あえて言わせてもらうなら、
個人的には丁寧さの方が、100倍大切だと思っています。
ここで「丁寧って、どれくらい?」と思うかもしれません。
丁寧は、ゆっくりのことではありません。
変化に対応できるだけの余裕があること
その動きを、自分の言葉で説明できること
だから「素早くて丁寧」も、できるんですよ。
近道を探しすぎると、何が起きるか
もちろん、効率が助けになる場面もあります。
ただ、それが“気づきの時間”まで奪ってしまうと、話は別。
効率のこと“だけ”を考え出すと、おかしくなってしまいます。
たとえば、こんなふうに。
家から駅まで。
いつも最短の道だけを、わき目もふらず歩いているとします。
目的地には、たしかに早く着きます。
でも、それだけです。
一本、脇道に入ったらあった
美味しいパン屋さんには気づかない。
いつも通っている道の花壇に、
どんな花が咲いているかも、覚えていないかもしれません。
効率化は、大切です。
でも、効率化しすぎると、
「早く着くこと」だけが目的になってしまう。
立ち止まれば見えたはずのもの。
ゆっくり歩けば、手に入ったかもしれないもの。
それらは、
たいてい急いでいるときに、
見落とされます。
最短を求めたときに練習で起こること
効率を求めすぎると、
人は「結果」ばかりを見るようになります。
・どれだけ反れたか
・どれだけ深く入れたか
・前よりできているか
その瞬間、
身体の中で起きている小さな変化は、
ほとんど聞こえなくなります。
本来、ポーズは
「こうしなさい」と命令されるものではありません。
重さ。
呼吸。
詰まり。
支え。
そうしたものが、
常に何かを伝えてきています。
「”今”のあなたに必要なものはこれだよ」と。
でも、
「早く完成させよう」とすると、
その声は簡単にかき消されてしまいます。
実はこの傾向は、
運動の学習研究でもよく知られています。
少し科学的な話になってしまいますが、
特に2020年以降の運動学習研究では、
正解を急がない練習ほど、長期的な再現性が高いことが繰り返し示されています。
正解に早くたどり着こうとするほど、
身体は“感じる前に終わらせる”モードに入ってしまう。
目先の結果は出やすくなりますが、
そのぶん、途中の情報は拾われにくくなり、
一段高い結果にはつながりづらくなるおそれがあります。
「早く分かる」より「きちんと聴く」
ヨガの練習で大切なのは、
早く分かることではありません。
きちんと聴くことです。
今日はどこが硬いのか。
どこで力を抜きすぎているのか。
どこを急いで通り過ぎているのか。
それに気づくためには、
効率はむしろ邪魔になることがあります。
相手の話を、
早々に分かった気になって
怒られたことはありませんか?
よく聴いてみて、
はじめて気づいた、
という経験はありませんか?
それがパートナーなら、
なおさらかもしれません。
身体との関係も、
よく似ています。
ポーズは、道具ではなく「相方」
ポーズを
「自分を変えるための道具」
のように扱いはじめると、
・支配しようとする
・言うことを聞かせようとする
・思い通りに動かそうとする
そんな関係になりやすくなります。
でも、ポーズは本来、
対話の相手です。
うまくいかない日も、
思ったより静かな日も、
すべて含めて、
今の自分を教えてくれる存在。
ヨガでは「調和」を大切にします。
こうした関係性こそ、まさに「調和」かと思います。
頑張ってねじ伏せることでも、
怠けて放置することでもありません。
ここで少しだけ、運動学習の話をします。
キーワードは「対話」です。
運動学習における対話
相方への態度と同じように、対話すること。
実は、
身体が学習しやすい状態というのも、
この「対話できる関係」に近いと言われています。
運動学習研究では、
正解を急がない練習の方が、長期的な定着が良い
ことが、複数のレビューで示されています。
例えば、
一度で上手くやる練習より、
試行錯誤しながら遠回りする練習の方が、
数週間後の再現性が高いと報告されています。
コントロールしすぎず、
放り投げもしない。
そのあいだに、
気づきが生まれます。
ヨガの実践で感じていたことが、
こうして科学で後押しされると、素直に嬉しいですね。
練習は「できるようになる」ためだけのものではない
練習を続けているのに、
なかなか楽にならないとき。
それは、
練習が足りないからでも、
才能がないからでもありません。
もしかしたら、
急ぎすぎていただけ
かもしれません。
気づきが起きる前に、
次へ進んでいただけかもしれません。
身体は、
準備が整った分だけしか、
情報を渡してくれません。
🌿 今週の小さなワーク
※今日は「うまくやる」ことは目的ではありません。
違和感があっても、止まっても、それ自体が練習です。
「世界一効率的な動きを、あえて丁寧に」
今日は、ワールドグレイテストストレッチを使います。
この動きは、
股関節・体幹・背骨・呼吸を、
短時間で一巡できる、非常に効率のよい練習です。
流れで行えば、30~60秒ほどで終わります。
「動いた感じ」も、しっかり残ります。
だからこそ、今日は──
あえて、効率よくやらないことを試してみてください。
やり方


ワールドグレイテストストレッチを、1往復だけ行います。
左右を入れ替えて、合計2回です。
すべてを完璧にやろうとしなくて大丈夫です。
考えすぎずに、流れに乗ってやればいい。
むしろ、全部やらないくらいでちょうどいい。
順番にやるだけでも十分「やった感」が得られます。
今日のルール(1つだけ)
次の中から、1つだけ選びます。
肘を床に近づけるところ
胸を回すところ
つい呼吸が止まりそうになる瞬間
動きの移行時に崩れそうになるところ
選んだポイントを、ただただ丁寧に行ってください
「意識を変えると動きも変わる」ことを実感することが、今日の練習です。
見てほしいこと
速さや深さではなく、
次のようなことに注意を向けてみてください。
どこで急ぎたくなったか
なぜ、そこで早く終わらせたくなったか
何を「分かったつもり」で通り過ぎたか
もし余裕があれば、
そのときの呼吸や、身体の反応も、少しだけ覚えておいてください。
終わったあとに
形が整っていなくても、問題ありません。
今日は「うまくやる」日ではないからです。
気づいたことを、短くでいいので書いてみてください。
今日、私はどこを効率化しようとしたか
それは、安心のためだったか
それとも、早く終わらせたかっただけか
正解はありません。
これは、身体に
「探索してもいい」
「立ち止まってもいい」
と伝えるための練習です。
少しだけ補足
太陽礼拝も、同じ構造を持っています。
流せば気持ちいい。
でも、丁寧にやると、情報が多すぎて終わらない。
練習とは、
効率を高めることではなく、気づきを増やすこと。
そして、丁寧にやり続けるうちに、その丁寧さが当たり前になり、
考えなくてもできるようになること。
その感覚を、今日は
ひとつの動きの中で、確かめてみてください。
📺 今週のYouTube
この記事の内容を、実際の動きで確かめたい方へ。
👉【世界一効率的な練習が教えてくれる“落とし穴”】練習は効率よりも丁寧さ|練習の誤解①
https://youtu.be/1TKlPlsJvnI
目次
00:00|オープニング
00:13|「効率的な練習」の”落とし穴”について
02:11|世界一効率的な練習方法「ワールドグレイテストストレッチ」
04:12|ワールドグレイテストストレッチを丁寧にやってみよう
06:51|まとめ
おわりに
練習は、
効率よく進めるためのものではありません。
気づきが起きるために、
あえて立ち止まる時間です。
この1週間は、
「早くうまくやろう」とする自分に、
少しだけブレーキをかけてみてください。
それだけで、
練習の手触りは、
きっと変わります。
変わるのは、上達の速さではなく、
練習との関係そのものかもしれません。
ヨガの実践と日常とのつながりを、より知りたいと思った方へ。
日曜|日常と身体をつなぐnote
練習で増えた“気づき”が、日常でどう現れるか。
火曜|身体と心を問い直すnote
「深まったつもり」を疑い直す、思考の整理。
金曜|身体を整える実践note(YouTube連動)
今回のような練習記事を中心にまとめています。
📚 参考文献
以下は興味のある人に向けての参考にだけ。
読み飛ばしても、本文の理解には問題ないので大丈夫ですよ。
Behm, D. G., et al. (2023).
Mechanisms underlying stretching-induced increases in range of motion.
Journal of Sport and Health Science, 12(2), 195–206.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2095254623000571
→ 「無理に深く完成させる」より、
安全に探索することで可動域が広がる理由を整理した総説。
→ 伸びの正体は「柔軟性」だけでなく、
身体が安心して許可を出す過程にあることを示している。
Orth, D., et al. (2024).
Exploration, variability and learning in motor skill acquisition.
Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 156, 105457.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S030645222400575X
→最速で正解を求めるだけでなく、 試行錯誤や探索を許す練習が、
身体の適応力や再現性を育てることを示したレビュー。
→ 「遠回りに見える時間」が、
結果的に“動ける身体”をつくることの科学的背景。
Jennifer Todd & Jane E. Aspell (2022).
Mindfulness, Interoception, and the Body.
Brain Sciences, 12(6), 696.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9220884/
→ 身体感覚に気づくとは何かを、
主観的体験の側から丁寧に整理した総説。
→ 「感じる」「聴く」という言葉が、
単なる感覚論ではないことを支える土台。
Thomas Pinna & Darren J. Edwards (2020).
Interoceptive awareness, emotion regulation, and well-being: A systematic review.
Frontiers in Psychology, 11, 1792.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2020.01792/full
→ 身体の内側に気づく力(内受容感覚)と、
感情調整・安定性との関係を整理した系統的レビュー。
→ 「きちんと聴く練習」が、
心の回復力や落ち着きと関連していることが多く報告されている
