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天音とララのちょこっとごはん<2>(#シロクマ文芸部)

☆彡 毎週発表されるシロクマ文芸部のお題に沿って小説を書いています。

<登場人物>
◆月森 天音(つきもり あまね) 32歳
インテリアコーディネーター。祖母が暮らしていた海辺の古民家をリノベーションし、小さな漁村へ移り住む。人より少しおせっかいだが、人の暮らしや思い出を大切にする優しい性格。
◆ララ
3歳のミニチュアダックスフンドの女の子。人懐っこく無駄吠えもしない天音の愛犬。散歩とごはんが大好きで、町の人たちを自然と笑顔にしてくれる存在。

<前回のあらすじ>
祖母の古民家へ移り住んだインテリアコーディネーター・月森天音。愛犬ララとの散歩中に出会った荒木さんから、施設入居や家を手放すことへの葛藤を聞く。もらったきゅうりでララと夕食を食べながら、天音は祖母や故郷のことに思いを巡らせる。
季節の料理と愛犬ララとの穏やかな日々を織り交ぜながら、海辺の小さな町を舞台に、愛犬ララとともに出会う人々の暮らしと、それぞれの"ごはん"にまつわる物語を描く、心あたたまる連作小説。

 


 熱帯夜が続き、電気代は気になる。それでも、エアコンは24時間つけっぱなしだ。仕事で家を空ける日も、ララが留守番をしている以上、スイッチを切るわけにはいかない。唯一止められるのは、朝夕の散歩に出ている間だけだった。

 朝6時。
 すでに太陽は燦々と照りつけているが、地面はまだそれほど熱くなっていない。短足のミニチュアダックスであるララは、地面からの照り返しをもろに受けてしまう。砂浜を走るのが大好きなのに、真昼の砂は火傷しそうなほど熱く、この時期はとても散歩どころではない。
 だから夏の朝は、いつもより早起きする。朝食も後回しにして、6時には家を出るのが日課だ。

「ララ、おはよう。散歩に行くよ」
 身支度もそこそこに、リードと散歩セットを入れたポーチを手にすると、ララは尻尾をぶんぶん振りながら小走りで駆け寄ってくる。ハーネスをつけ、朝からミーンミーンと賑やかな蝉の声を浴びながら、お散歩のスタートだ。
「今日は浜辺に行ってみようか」
 どうやらララは、簡単な言葉なら理解できるらしい。『ごはん』『おやつ』、そして何より大好きなのが『お散歩』と『浜辺』だ。
『浜辺』という言葉を聞いた瞬間、ララの尻尾はちぎれてしまうのではないかと思うほど激しく左右に振られた。

 玄関を出て海へ続く坂道を下る。ララは一刻も早く浜辺へ行きたいのだろう。ぐいぐいとリードを引っ張るけれど、この坂は意外と急で、勢いよく走ると危ない。私はリードを少し短く持ち直した。
 徒歩で一分もすれば、青く輝く海と水平線が目の前に広がる。今日も波は穏やかに浜辺へ寄せ、朝日に照らされた水面がきらきらと光っていた。

 いつもなら、浜辺には朝早くから釣りを楽しむ人たちの姿がある。だが、今日は様子が違っていた。
 釣り人だけではなく、小学生と思しき子どもたちが十人ほど集まり、何やら楽しそうにはしゃいでいる。
「そうか、もう夏休みか」
 そう思ったものの、それにしてもこんな時間から何をしているのだろう。
 ララと波打ち際を歩きながら、しばらく様子を眺めることにした。
 琴ヶ浜は、白くきめ細かな砂が続く美しい海岸だ。歩くたびにキュッ、キュッと音を奏でる「鳴り砂」で、全国的にも知られている。
 ララもこの浜辺が大好きだ。肉球に伝わるさらさらとした砂の感触が気に入っているのだろうか。流れ着いた海藻や貝殻の匂いを夢中で追いかけ、ときおり「早くおいで」と言いたげにこちらを振り返っては、尻尾を弾ませて駆けていく。
 私も負けじと後を追うものの、日ごろの運動不足ですぐに息が上がってしまう。朝の海風は心地よいのに、真夏の日差しは容赦なく、気づけば額から汗が流れ落ちていた。まだ走り足りないララのためにリードを長く伸ばして自由にさせる。私は近くの流木に腰を下ろし息を整えた。ララは嬉しそうに砂浜を駆け回り、波打ち際まで行っては、またこちらへ戻ってくる。その無邪気な姿を、私は何枚もスマホに収めた。
  
 しばらくすると、どこからともなくラジオ体操の音楽が流れてきた。
 先ほど集まっていた子どもたちは、引率の大人に促され、一斉に体を動かし始める。
「懐かしい……」
思わず声が漏れた。
 私も夏休みになると祖母の家で過ごし、この浜辺で毎朝ラジオ体操をしていた。
 共働きだった両親は、長い夏休みの間、私を祖母に預けていた。
 同じ理由で、従弟たちも次々と祖母の家へやって来る。多い時は5~6人にもなって、両親と離れていてもちっとも寂しくなかった。夏休みが始まると、お盆の頃まで祖母の家で暮らす。それが、私たちにとって当たり前の夏だった。
 朝になれば浜辺でラジオ体操をし、帰れば祖母が朝ごはんを用意して待っていてくれた。
 その負担は決して小さくなかったはずなのに、祖母はいつも朗らかに笑っていた。
 朝ごはんは決まって白玉団子だった。祖母は畑で採れた瓜を切り分けてくれ、それを従弟たちと競うように手を伸ばして頬張った。
 そんな懐かしい記憶をたどっていたせいか、不意にお腹が空いてきた。
 家には白玉粉と絹豆腐があったはずだ。
「そうだ。帰ったら白玉団子を作ろうね」
 ララに話しかけると、小首をかしげて私を見上げる。
「ララは白玉団子は食べられないけど、もらったスイカを一緒に食べようね」
「ワン!」
 返事をするように尻尾を振るララを見て、思わず笑みがこぼれた。
 

<豆腐白玉団子>
【材料】
絹豆腐……150g
白玉粉……130g
きな粉……適量
砂糖……適量
塩……少々

【作り方】
① ボウルに絹豆腐と白玉粉を入れ、耳たぶくらいの柔らかさになるまでよくこねる。
② 生地を一口大に丸め、沸騰した湯に入れて茹でる。白玉が浮き上がってきたら、さらに約3分茹でる。
③ 茹で上がったらざるに上げ、冷水に浸す。
④ きな粉に砂糖と少量の塩を混ぜ、白玉にたっぷりまぶして出来上がり。


 まずはララの朝ごはん。いつものカリカリに鰹節をひとつまみ振りかける。それだけで、ララは待ちきれないように尻尾を振り、私の足元をくるくると回る。
 お隣の曽田さんからいただいた黄色いスイカは、種を丁寧に取り除いてサイコロ状に切り、小皿に盛る。ララには食後のお楽しみだ。

 そして私の朝食。
 出来上がった豆腐白玉団子に、たっぷりと黄な粉をまぶす。
 子どもの頃は従弟たちと競うように頬張っていたけれど、今は競う相手もいない。祖母との思い出を懐かしみながら、一つずつゆっくりと口へ運ぶ。
 ふと、荒木さんからいただいたきゅうりで作った辛子漬けがあることを思い出した。冷蔵庫から取り出し、白玉団子の合間に一切れ口へ運ぶ。甘いきな粉団子のあとに、鼻にツンと抜ける辛子の風味。思いがけない組み合わせなのに、それが妙に美味しかった。
 ララはごはんを食べてお腹いっぱいになったのか、ソファで気持ちよさそうに寝息を立て始めた。
 私はもう少しだけ、豆腐白玉団子を味わいながら、祖母との夏の日々に思いを巡らせていた。



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