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ギャーっと叫びたくなる、グ劣な戦慄ホラー体験談! 第2話 祝・◯限城編上映記念! オマージュ要素の欠片もない圧倒的オリジナルキャラクター 淡魚郎(たんぎょろう)!

夜の渓流に、男がぽつんと佇んでいた。
その姿は一見ただの夜の散歩者だが、脚元を見れば靴も履かずにふわりと漂っている。
そう、彼は幽霊―――友人に金銭を貸した挙げ句、口論になって殺されるという、悲劇的な末路を迎えた。
当然、そんな唐突な死に納得などできようはずもなく。
妄執に取り憑かれたあとに悪霊となり、悔恨と未練を残したまま人を襲う、現世を彷徨う哀しき存在と成り果てた。

「……チッ、人間はいないか。山奥じゃあ仕方ないが。あの野郎、見つけたら呪殺してやる……!」

犯人は犯行現場に戻るというのが本当ならば、いつか訪れるかもしれない。
渋々と呟いたそのとき、川辺に佇む人影が目に入った。
ついに人間が現れたのか……そう思い近寄るが、すぐに違和感を覚えて脚を止めた。
キャンプの灯りもなく、人気も感じられない。
なのに何故か、そこにに立っている?
夜目が利き始め、闇の中でおぼろげな輪郭が徐々に鮮明になっていく。
猫のようなヒゲ、棒切れのようなもの、風になびく着物……およそ人とは思えぬ姿に

「なんだ、アイツ……おかしいぞ……?」

不安が脳裏をよぎり、男は背を向けて逃げ出した。
距離が開いたかと確認し、振り返ると、彼は瞳を瞬かせた。
―――〝それ〟は追ってきていたのだ。
まだ月日が浅く慣れない幽体は、思うように動かない。
もたついていると、暗黒の世界から異形が生み出される。
赤みがかった頬や下顎にヒゲを生やしたナマズの頭部。
軍人を思わせる白の詰襟。
暖簾や祭りの着物で見かける、清涼感溢れる流水柄が特徴の上着。
そして手にはカチカチに凍った太刀魚―――魚だ、なんでか刀ではない。
だが銀の鱗と氷の粒は月光を反射し、実際に斬れそうなほど妖しい輝きを放っていた。

「うわっ、ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!」

幽霊なのに、本能でそう叫んでしまった。
幽霊が鬱蒼と茂る森へ逃げていくや否や、その異形は絶叫し

「逃げるな、臆病者! 
過ちから逃げるなァ! 
いつだって怪異刈りは、お前らに有利な陸の上で戦ってるんだ! 
乾燥に弱い生身の魚人がだ! 
捌かれた傷は治らない! 
失った臓器が戻ることもない!」

幽霊に背後から、言葉の刃を突き刺した。

逃げる……? 
何を言ってるんだ、あの魚人は……
俺は過ちから逃げてるんじゃない!
お前から逃げてるんだ!
喋る魚頭の怪物なんて気持ち悪いから、すぐにその場から離れたいに決まってるだろ!
太刀魚でチャンバラごっこしてきて、なんか言動もウザいし……!
漫画の熱血主人公気取るんじゃねぇぞ!
その顔面偏差値で!!!
人心掌握の上手い主人公と違って、お前なんか誰も愛さねぇからな!
追い詰められた男は観念し、苛立ち混じりに

「俺は何もしてないだろ。
なんで襲いかかってくる」
「俺の名は淡魚郎! 
怪異を狩る魚人だ!」

名乗りを上げた魚人が太刀魚を振りかぶった瞬間、息を切らした。
急に呼吸困難になった魚人は、ふらふらと川に向かう。
どうやら鰓呼吸しかできないらしく、陸上での活動時間は長くないようだ。
その姿がいたたまれなくなり、幽霊は肩を貸してやった。
水に浸かって落ち着きを取り戻した彼は、幽霊の男が根っからの悪ではないと感じたのか。
少しずつ互いについて言葉を交わし始め、次第に霊の発言に熱がこもって、遠慮なく言いたいことをぶつけた。

「というかお前、鰓呼吸しかできない魚人だろ?
陸に上がったら呼吸できずに、日に焼かれて死ぬんだろ?
太陽に弱いってそれ、某鬼斬り漫画の鬼の弱点じゃん! 
それにおまえの顔、淡水魚のアカザそっくりじゃん!
アカザって敵のヤツと同名じゃん!
しかもこの魚って夜行性だし。
おまえ、やっぱり人類の敵で俺ら側の存在だろ! 
同類の化物の分際で幽霊に説教するな!」
「……悪かったよ」

謝罪をしてもらい、すっかり打ち解けて、日が水平線の先から顔を出した頃。
遠くから子供の悲鳴が響いた。
子供の元へと駆けつけると、赤膚の鬼がその巨体で歩く度に大地を揺らし、棍棒を振り上げている。

「間に合え!!!」

淡魚郎の太刀魚は、その鬼の攻撃を受け止めた。
だが攻撃の衝撃で、容易く後ろに吹き飛ばされる。
どうにかして隙を作らねば……淡魚郎は再び鬼に近づいた。
大振りの動作ならば、いくらでもやりようがある。
まずは一撃をいなして……そう考えた淡魚郎は、鬼の暴を極めた一閃に向けて待機した。
剣道の竹刀による一発程度では済まない重量と、無数の棘を具(そな)えた棍棒をキィンと弾き、直撃しなかったのに安堵する。
だが次の瞬間、無防備な体を薙ぎ払うように大木の幹の如き左腕で、鬼は淡魚郎を殴り飛ばす。
地面に転がった淡魚郎は地面に突き刺した太刀魚を支えに立ち上がるも、呼吸が浅くなる。
膝をついてしまい、心まで屈しかけたその瞬間

「がんばえ〜」
「負けるな、淡魚郎!」
「やっちゃえ〜」
「俺には何もできん。助けてやってくれ」

純粋なキッズと幽霊の声援が響いた。
それを耳にした淡魚郎が立ち上がると、どこからともなく熱を伴った光が彼の胸元に届く。

「がんばえ〜、淡魚郎! 
僕、鬼の首が爆ぜ飛ぶ瞬間が見たいんだよぉ。
だから、がんばえ〜」
「淡魚郎、妖なんかに負けるな!
俺は怪物共の臓物がまろびでて、苦悶に歪んだ顔が大好きなんだ!
淡魚郎なら、きっとできる!」
「オイラにできるのは熱が苦手な淡魚郎に虫眼鏡の集光点を当てて、あえてピンチを演出するくらいだ。
ほら〜、こんなのでやられちゃ駄目だよ〜! 
淡魚郎が倒されないのに、オイラ5000円も賭けたんだから〜!」
「ヤベェな、このクソガキども……
淡魚郎、負けんなよ! 
こいつらや俺のためじゃなく、自分のためにな!」

あまりにも無垢な悪意と殺意に満ちた応援。
古代に生まれたならば確実にコロッセオで年365日、野次を飛ばす観客だったであろう、真性の邪悪。
自らを悪とは考えない、最狂にして最凶の悪。
しかし彼らは子供、助けなければヒーローの名が廃る。
そんな折に皆さんご存知大人気アニメ

〝怪殺の太刀〟

の勝利確定激アツOPソングが、彼を鼓舞するかのように流れ始めた。


挿入歌 紅いレンゲ 作詞 ?がらくた

弱くなれる進化を知った 俺を置いて進め
泥だらけの川には住めない 脆い体
陸で震える時は酸素が欲しいよ それだけだ
夜の水底で蟲睨んでも
先立つ仲間を偲べるのは自分自身だけ それだけだ

弱くなれる進化を知った 俺を置いて進め

どうしろって!
(水温)25度以上も 河川改修も
皆のために弱くなれるなら
ありがとう 神様よ
世界に淘汰をされて生きる意味を知った
紅いレンゲよ うんちゃらかんちゃら 未来をマシにして


曖昧な記憶を頼りに長々と、技の名を呟いた。
すると太刀魚の周囲に、螺旋を描くように回転する清らかな水流が迸っていく。
鬼の弱点である首、もしくは虎柄のパンツに狙いを定め

「淡水ノ鰓呼吸・一ノ型……
え〜っと、うーんと、あれ、なんだったっけ……あ、思い出した! 
スーパーハイパーウルトラ斬り!」

刹那、鬼の首が吹き飛ぶと、魔なる者の遺骸はほどなく塵と化した。
一部始終を眺めていた怪殺キッズのあるものは狂乱し、またあるものは悲痛に嘆き、配当金を配り始めた。
力を使い果たしたのか淡魚郎は木の幹に座り

「大丈夫か!? ……」

幽霊の男が駆け寄るとヒュン!
彼が何かが風を切る音を耳にしたと同時に―――霊に目掛けて飛んできた札が命中し、霧散して消えていく。

「せっかく分かり合えたのに……誰だ!」

怒り混じりに叫び、闇に目を凝らすと、般若の面をつけて流水柄の着物を羽織る、白姿髪の中年男が立っていた。

「まださっきの鬼との傷も残ってる……勝てるのか?! 
俺に……
踏ん張れ、淡魚郎! 踏ん張れ! 
俺は今まで生き残ってきた! 
俺はやれるヤツだ!」

敵意を感じた淡魚郎は自らを奮い立たせるが、彼とは対照的に

「なんと禍々しい怪異だ。
着物きて喋る魚人とかキモすぎて、マジウケるんですけど。
とりま撮っとこ」

老爺はスマホを取り出し、カメラを向ける。
なんとも緊張感に欠けた態度に、呆気に取られた魚人はその場に立ち尽くす。
彼が困惑する中、その老爺は続けて

「オニョニョニョ、ペルペルペルペ? 
ウンニョ、ウンニョ、ウンニョロゲ? 
ポミポミ、プゥ? 
ポミポミ、プゥ? 
さぁ、私の言葉を復唱なさい。魚人よ」

と意味不明な言葉を放った。
何がしたいのかわからないものの、言われた通りに

「オニョニョニョ、ペルペルペルペ? 
ウンニョ、ウンニョ、ウンニョロゲ? 
ポミポミ、プゥ? 
ポミポミ、プゥ? 
なぁ、この言葉にいったい何の意味が……」
「奇妙極まる言葉で民を誑かす、面妖な怪物よ。
我が術で成敗いたすッ! 
死に晒せェィ!!! 
オリャァァァ!!!」

般若面の男は袖から太刀魚を取り出す。
驚愕した淡魚郎は目を見開き、咄嗟の不意打ちを理解した。
だが脳がそれを処理できても、体は追いつかない。
突っ立ったまま攻撃をモロに喰らい、血を噴き出した魚人。
しかし幸いにも急所には当たらず、淡魚郎はその致命の一撃を耐え抜いた。

「……俺は絶滅危惧II類だから耐えられた。
軽度懸念だったら耐えられなかった」

淡魚郎の台詞を耳にした般若面の男はトドメを刺す気なのか、太刀魚を片手に迫る。
なんとか反撃したかった。
けれど視界が歪んで全身から力という力が抜けていき、太刀魚を持つこともままならない。
明けの暁光が紅の身体を焦がし、じきに干からびて生は潰える。
霞んだ瞳でも影が近寄るのがわかり、靴の音は死の宣告を告げる鐘の音のように頭の中を反響する。
終わりを覚悟していたものの、老爺はいつまでたっても追撃はせず、淡魚郎を見下ろすだけだ。

「私が誰かわからないか? 淡魚郎よ」

先ほどとは一変し、温かな声音で淡魚郎に語りかける。
それを耳にした彼は

「え、もしかして白子炊(しろこだき)さんですか?
仮面がいつもと違うんで、わかりませんでした。
お久しぶりです!」
「久々に実戦形式で力を試してみたが……腕がなまっておるようだな。待て、今すぐ治療を……」

和解の雰囲気も束の間、森の中には不相応なエンジン音。
何事かと思い、そちらに目を遣ると、F1カーを連想する猛スピードの警察車が突っ込んできたではないか!

「淡魚郎!」

機転をきかせ、白子炊が襟を掴ぶと、2人は空を舞う。
急停車した車の中から突如現れた警察のコンビが開口一番

「おじいさ〜ん、種の保存法って知ってます?
その喋る魚の化物キモすぎてマジうけるんすけど、絶滅危惧種を捕まえたり、殺すのって犯罪なんですよねぇ」
「パパも暇じゃないからおじいちゃん、さっさとムショまでついてきて、早く寝てもらえる?
あ〜、忙しい、忙しい!」

こうして手錠をかけられた淡魚郎の師匠・白子炊は連行されてしまう。
彼がシャバに戻るのは、いつになるのか。
淡魚郎の冒険と受難の日々は、まだまだ続くのだった。


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