夏 時
「なんで、丞二と海なんか行ったの?」
「え? 海に行きたくなったから。暑かったから」
「なんで、丞二に連絡したの?」
「優しいから。悪いことしないから」
「丞二の前で水着になったの?」
「そりゃなるよ、海だもの」
私がそう言うと、朔は、眉を寄せて唇をぎゅっと結んだ。
私はそっと目線を逸らし、それに気がつかないふりをした。
「丞二と何話したの?」
「別に、海がきれいだねー、とか。暑いねー、とか。ビール美味しいねー。とか」
「それで?」
「海に沈む夕日見て、満足したから帰った」
「それだけ?」
「それだけ」
朔は、眉を寄せたまま不満そうに黙り込んだ。

「ていうか、なんで朔が怒ってるの?」
「怒ってないでしょ。訊いてるだけ」
丞二が、うれしそうに僕に瑞葵と車で海に行ったと話したからだ。
その時、微妙に丞二の口元が緩んだのを僕の目は見逃さなかった。
「あ、そう」
「あ、そう。じゃないよ。なんで僕には、言わないの?」
「えー、思いつかなかった」
僕は『思いつかなかった』という一言に軽くショックを受ける。
多分、顔にもそれが出てる。
「太陽が水平線に吸い付く瞬間。
太陽と海が交わって茜色の光が平たく伸びていくのが見たくなったから、それを見に行っただけじゃない。何ゴタゴタ言ってんの?」
それを見るのは、僕とじゃなかった
_____ということか。
「そんな時間を 朔は、見たいと思ったことある?」
「え ……」
「あのさー、この際言うけど、一番の友達とかって言って、つるんでる丞二君のこと自分の引き立て役みたく侮るような感じ、良くないと思うよー」
____ え?
「そもそも、私が誰と海に行こうが、朔には関係ないよね?」
____ そうなの?
「海に行きたいなら、チーちゃんとか、リエちゃんとかと行ってきたらいいじゃん。朔のことカッコよくて好きって言ってたよ」
僕の頭の中が、壊れたストロボライトのように点滅していた。
____ そうなの?
「もういいかな」
そう言って 彼女は、お金をテーブルの上に置いて 店を出て行った。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
良い夜を。
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