白蛇の子 | 掌握短編
私は、岩屋の社の白蛇から生まれた。
母親の白蛇は、古より その地の守り神として、この地の民に崇められていた。
白蛇は、千年に一度 孕み、子を産み落とす。
その卵を抱く大海を望む磐座には、燕が運んだ雲がみっしりと敷き詰められていた。
雲の中に浮かぶ卵は、日増しに光を発し、岩屋の割れ目からその光りが漏れ出てしまうほどであった。
民は、その光りを瑞兆と喜び、岩屋の祠の前に供物を積み上げて、口々にこの地の繫栄が約束されたと言いあった。
すると
____この子は、女子ぞ。
と、白蛇が、民に告げた。
民は、一層喜び 祝いの品を捧げねばと躍起になった。
この海には、白蛇と同じく海を守る人魚神がいた。
民は、この地の古からの言い伝えに則り、岬の祠に集いて、神使いと共に祈りの言葉を捧げ、人魚に願った。
「人魚の神様、お願いです。白蛇様の千年の御子にお祝いの品をお授けください」
そして、民は人魚の祠にも沢山の供物を積み上げた。
人魚は、それは めでたいことと喜び、千年前と同じように、海のモノたちに紅珊瑚や真珠などの海の宝物を集めさせて、人魚の鱗を歩揺に使い、光り輝く美しい簪を作らせた。
海より岬の祠にその簪が届くと、その輝きに民は直視することができず、目を細めて感嘆の息を吐くよりほかなかった。
そして、神使いが、恭しく神の葉で簪を包み、岩屋の前へと運ぶと 祈りの言葉を捧げ、その眩いばかりの輝きを放ち続ける人魚の簪を祠に奉納する儀を行った。
白蛇は、大いに喜び、己が光る鱗を脱ぎ、守り返しにと人魚神へ贈った。
「これから また千年 共にこの地を守ろうぞ」
と固く契りを結ぶことを声高に宣言した。
そして、光とともに金の卵より産まれし白蛇の子は、人魚神の祝福を受け、母蛇と共に二柱の白蛇神となり、その地を守った。
そして、時は流れた。
二柱の白蛇神を祀った岩屋に訪れる民は、もういなくなっていた。
祠の周りには鬱蒼と草が生え、枯れたツタが表面を血管のように覆っていた。
岬の人魚神の祠もまた、朽ち果てて風雨に晒されていた。
二神が交わした千年の契りは、余すところ僅かになっていた。
私も、もうすぐ千年の齢を迎えるのだが、この有り様では、子を成すこともかなわぬ。
人魚の唄ももう聞こえぬ。
民は、どこへ行ったのか。
我らはここに居り、この地を守っておるというのに。
____ もう我らが守りは、要らぬということか。
祠の戸が、がたりと静かに音をたてて傾き、そこから 光を放つ人魚の鱗の歩揺の一片がこぼれ……
キ―――ン と、澄んだ音をたてた。
この作品は、短編小説で、片桐みかんさんの・【第59回】3つのお題に空想のひらめきを(お題:”3つのお題(世界むかし話)「白ヘビのお守」「人魚のかんざし」「雲をはこぶつばめ」” )という企画に お邪魔させていただきました。
最後まで、おつき合いいただきありがとうございました。
皆様、良い夜を。
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