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誕生月に、自分の土台を見つめる

この記事は、京都在住エッセイスト・ライターの江角悠子さんが主催されているオンラインサロン「‎京都くらしの編集室」の「noteチャレンジ」に参加するため書きました。
4月のテーマは【本】:私という人間を定義した3冊。今の自分の価値観の土台になっている本。2026年度のはじまりに、自分の現在地を確認する。

オンラインサロン「‎京都くらしの編集室noteチャレンジ」

4月は、私が生まれた月だ。
この月に、今の私を作った3冊について書く。


1冊目 「マザーグースのうたがきこえる」


美しくもシュールな絵がちりばめられている

この絵本がいつ、どうやって家に届いたのかは覚えていない。母が買ったのか、都会に住む伯父のプレゼントか、私がねだったのか。いつの間にか本棚にあった。
イギリスの童謡の英文と日本語訳が書かれている。とても綺麗な挿絵がすてきだけれど、子ども向けとは思えない。
美しいお庭を手入れするメリーさんは「へそまがり」。
「とんまな がちょうさん」は乱暴におじいさんを投げ飛ばしている。
家族の誰もイギリスに行ったことはないし、もちろん英語も読めなかった。

へそまがりのメリーさん

私は一人っ子だ。
わけのわからない絵本も、一人で楽しむしかない。
一人遊びには慣れていたが、飽きてくると
「マザーグース」の日本語訳に勝手に節をつけ
ぶいぶい歌っていた。
母は台所で家事をしながら、廊下の奥から聞こえてくる、私の "でたらめ日本語マザーグース" を面白がっていた。
「ひとりで、楽しくゴキゲンにしていたわよ」

当時の母は、知り合いもいない田舎に住むことになり、心細かったはずだ。
畑の中の一軒家。
晩秋には木枯らしが吹きつけ、寒い夜には井戸が凍る。
部落(!)の謎の風習も覚えなきゃならない。
夫は仕事ばっかり。同年代のママ友もいないし、インターネットもない。
結婚していきなり、わけの分からない世界に放り込まれた母。

その母は、今年、亡くなった。
私をこの世界に送り出してくれたひとが、いなくなった。
私が小さいころの話を語ってくれるひとは、もういない。
でも。
若かった母を、子どもだった私が、わけの分からない世界を楽しむ歌で
応援できていたのなら、とても嬉しい。
わけの分からない世界を、そのまま、楽しむことを知った1冊だ。

2冊目 「秘密の花園」

映画を見た後、涙目で購入した文庫本

タイトルは、小さいころから知っていた作品。
幼稚園の先生だった母が、結婚前から集めていた「岩波書店 世界の児童文学 名作セット全26冊」に入っていたからだ。
”花園”という言葉がバラやレースを連想させ、女の子らしいものが苦手だった私は、この作品を読まずにいた。
母は可愛らしく、お洒落で華やかな人だった。私は、どうしたって母みたいには、なれない。

大学生のころ、映画化された作品を見た。自分でも困惑するほど号泣し、書店に立ち寄り、原作の文庫本を買って帰った。

主人公メアリーは、心がパサパサに乾いた、ムスッとして可愛げのない少女。児童文学には珍しいキャラクターだ。
裕福な両親はパーティに忙しく、彼女のことはほったらかし。メアリーは母親を "きれいな奥様" とまるで他人のように遠くから眺めている。
「メアリーは、私だ。」涙がぽろぽろ流れた。

孤児になったメアリーは、イギリスの広大な屋敷に住む、偏屈な伯父に引き取られる。
メイドのマーサの問いに、ドキっとした。
「いったい、あんたは自分が好きなのかね?」
メアリーと私の答えは、一緒だった。
「ちっとも好きじゃない。…でも、そんなこと、考えたこともなかった」
その時の私は、母の期待に応えられない自分が嫌いだったのかもしれない。

広大な敷地の中で一人遊びをしていたメアリーが、荒れ果てた小さな庭を見つける。不幸な事故が原因で10年もの間、閉じられていた花園。
もう、生き返らないかもしれない。でも、もしかしたら…?
土を耕し、雑草を抜き、光をあてて水をやる。
花園は少しずつ再生していき、彼女の心も柔らかさを取り戻していく。

誰の心の中にも、秘密の花園がある。
傷ついて、心を閉ざすことがあっても
優しい言葉や自然に癒され、再生できる。
花園を開く鍵は、自分の中にある。

退職させられたときも、子どもに先立たれたときも、この本を手に取った。
心の傷と再生について教えてくれた、大切な1冊だ。

3冊目 「WASHOKU」


イラストも可愛い、和食ガイドブック

「Enちゃん、ガイドお願いします!
豊洲市場&築地場外市場ツアー」
この春、先輩ガイドのアシスタントを始めた。
慣れるまでは、先輩の後をくっついて歩くのかと思っていた。
「レクチャーあるから大丈夫!一人で頑張って」

先輩のツアーに混ぜていただき、流れを学ぶことができたものの…
やばい。やばすぎる。通訳ガイドの資格は取ったものの、コロナ禍に突入。ガイドデビューしないまま、インバウンド業界で事務職を続けてきた。
英語が、すっかり頭から抜け落ちている…どうしよう。

マグロの部位とネタ

先輩ツアーの帰り道、痛む胃を抱えて銀座の教文館書店に立ち寄った。
可愛いハンディサイズのガイドブックが目に飛び込んできた。
「WASHOKU」…和食!
著者は通訳ガイドの松本美江さん。
ご本人の言葉で、楽しく日本の食について紹介されている。
“えー、マグロ1頭から握り寿司約1万個が作れるんだ!!”
“へー、居酒屋って江戸時代からあるんだ~!!”
面白いなー、食べてみたいなー。
こんな楽しい紹介ができれば、お客さん、喜ぶだろうなあ。

いつの間にか、胃の痛みは消えていた。
私は、外国人の友達に喜んでもらいたくて、ガイド資格を取ったのだった。
どんな気持ちでガイドをしていきたいか、思い出させてくれた1冊だ。



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