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【エッセイのようなお知らせ】今年も県民にはなれませんでしたが、おかやまマラソンは走れます ―抽選発表を忘れて16km走っていた男の話―

まえがき

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
 酔いどれBowzRunner 我流迷走です。

 では、さっそく……

 人生には、「絶対に忘れたらいけんだろ」という日がある。

 試験の日とか。
 結婚記念日とか。
 健康診断の再検査の日とか。

 普通の人なら、数日前からソワソワして、当日は落ち着かない。
 ところが私は違った。

 今年のおかやまマラソンの抽選発表日。
 そう、今日6月16日。
 一般枠の倍率約2.5倍。

 ぜひ当選したいと思っていたにもかかわらず、なぜかその事実を丸ごと忘れ、16km走へ出かけていたのである。

 しかも本人はいたって真面目に走っていた。

 運命の日を忘れた男。
 岡山県民歴20年以上なのに、いまだ県民優先枠には認められない男。
 そして、そのすべてを見抜いていた妻。

 今回はそんな、少々情けなくて、なかなか幸せな一日のお話です。

 煎餅でもかじりながら、気楽にお読みいただけると幸いです。
 ではどうぞ。


人生は、だいたい予定通りにいかない

 人生というものは、不思議なものである。

 絶対に忘れてはいけない日は忘れるくせに、三十年前に言われた嫌な一言は妙に覚えている。

 必死に追いかけたものは逃げていき、もう諦めた頃に向こうからやって来たりする。

 そして、中年になるとさらにややこしい。

 老眼鏡を頭の上に乗せたまま老眼鏡を探し、スマホを持ちながらスマホを探し、ついには運命の日まで忘れる。

 どうやら私も、その領域に片足を突っ込みはじめているらしい。

 そんな話である。

岡山県民歴20年以上、県民認定されず

 2026年6月16日。
 おかやまマラソン2026の一般枠抽選発表日である。

 今年の一般枠の倍率は約2.5倍。なかなかの狭き門だ。

 私は過去5回、おかやまマラソンを走っている。

 2017年落選。
 2018年当選。
 2019年落選。

 その後、コロナ禍による中止を挟み、

 2022年当選。
 2023年当選。
 2024年当選。
 2025年当選。

 そして今回。

 当選。

 なんと5大会連続当選である。

 こうして並べると、なかなかの強運男に見える。しかし、ここで一つ大事なことを言わなければならない。

 私は県民優先枠に一度たりとも当選したことがない。

 ゼロである。
 完全試合である。
 全敗である。

 今回も先月行われた県民優先枠の抽選には、当たり前のように落選した。

 その時、妻が言った。
 「東京に15年もおったから、まだ岡山県民って認められてないんよ」

 おい。

 私は岡山に帰ってきて20年以上経っている。十分だろう。

 桃でも育てれば認めてもらえるのか。
 きび団子を配ればいいのか。
 犬、猿、キジを従えれば当選するのか。

 基準が分からない。

 すると妻。
 「まだ観察期間なんじゃろ」

 長い。
 長すぎる。

 どんな大型契約でもそんな試用期間はない。

 どうやら私は岡山県民としては信用されていないらしい。
 だが不思議なことに、一般枠には強い。

 一般枠界隈ではそこそこ信頼されているようであるが、県民としては認められていない……

 思い当たる節がないわけではない。

 私は高校卒業までの18年間を岡山で過ごしたあと、東京へ出た。ミュージシャンになるつもりだった。

 結果として15年間、東京シティボーイ生活を送ることになる。いや、正確にはシティボーイになり切れないまま15年が過ぎた。

 そして岡山へ帰ってきた。
 ところが帰ってきてしばらくは、自分でも分かるくらい岡山弁がおかしかった。
 東京弁と岡山弁が中途半端に混ざるのである。

 例えば、
 「じゃけん」と言うつもりが、「だからさぁ、じゃけん」みたいになる。
 どっちなんだ。

 東京なのか岡山なのか。自分でも分からない。

 今でもたまに、コテコテの地元民から、「その言い方、ちぃと変じゃなぁ」と指摘されることがある。

 なるほど。そういうことか。

 おかやまマラソン事務局は見抜いていたのかもしれない。
 県民優先枠の担当者が、「うーん……岡山愛は感じるけど、イントネーションが微妙じゃな」と首を傾げている可能性は否定できない。

 人生、何が評価されるのか分からない。

運命の日を忘れていた男

 とはいえ、私は一般枠には期待していた。

 私にとって、おかやまマラソンは特別な大会なのだ。

 東京マラソンや大阪マラソンほどの規模ではない。しかし、中四国では最大級の都市型マラソンである。

 何より地元だ。
 家から会場へ行ける。
 見慣れた街を走れる。

 普段は車でしか走れない岡山の大通りを、自分の足で走れる。沿道には知人がいるかもしれない。

 やはり走りたい。
 ぜひ走りたい。

 そう思っていた。
 思っていたのだが――

 私は抽選発表日を忘れていた。

 完全に。
 見事に。
 気持ちいいほどに。

 当日の午前中。私は16km走へ出かけていた。
 W杯がはじまり、サッカー好きな私の生活は狂いに狂い、ランニングも休足が増え、ここ3日走れていなかったため、「今日は絶対に走るんだ」と意気込んでいた。

 抽選結果が気になってソワソワするでもなく。
 メールボックスを何度も開くでもなく。
 W杯のことを気にしながら普通に走っていた。

 しかも結構気持ちよく。
 「今日は湿度高いなぁ」などと思いながら。

 運命の日の人間とは思えない。

SNSが思い出させてくれた

 16kmコースの12km地点。自販機で給水休憩を取った。

 水を飲みながら、何気なくスマホを見る。すると、フォローしているランナーさんの投稿が目に入った。

 「今日は運命の日」

 運命の日?
 何だっけ?
 誰かの誕生日?
 世界滅亡の日?
 それとも宝くじ?

 数秒考えて――

 「あっ!」思い出した。
 おかやまマラソンの抽選発表日だ。

 慌てて時計を見る。
 10時45分。
 発表は11時。
 あと15分。
 現在12km地点。

 つまり、あと数キロ走っている間にメールが届く。急に心拍数が上がった。ランニングのせいではない。

 人間、本当に大事なことを思い出すと、身体は正直である。

ネタバレが早すぎる件

 そして15km手前。立ち止まる……
 メールチェック。

 届いていた。
 ローチケから。

 私は震える指で件名を見る。
 すると。

 「当選と参加料お支払いに関するご案内」

 ……。

 分かるやん。
 もう分かるやん。
 中を見る必要ないやん。

 せめて、「抽選結果のお知らせ」とか、「重要なお知らせ」とか。もう少しドラマを作れないものか。

 こちらとしては、深呼吸して、覚悟を決めて、恐る恐る開いて。

 「あああああああ!」

 みたいな展開を期待しているのである。それなのに件名で終了。映画で言うと開始3分で犯人を発表しているようなものだ。

 だが、当選なら許す。

 人間、嬉しい時はだいたいのことを許せる。

妻は全部お見通しだった

 私はその場で妻にLINEした。
 「おかやまマラソン当選したよぉ〜」
 すると即返信。

 お祝いスタンプ。
 お祝いスタンプ。
 お祝いスタンプ。
 お祝いスタンプ。
 お祝いスタンプ。

 どんだけ祝うんだ。
 と思った直後。

 最後に文章が届いた。
 「てか、今日発表って忘れてたでしょ」

 なぜ分かる。
 なぜバレる。

 実は私は昔から、こういうイベントの日になると黙っていられない。

 前日から言う。
 何なら一週間前から言う。
 いや、一ヶ月前から言う。

 「抽選発表なんよね」
 「もうすぐなんよね」
 「倍率高いんよね」
 「どう思う?」
 「当たるかな?」
 「どう思う?」
 「どう思う?」
 「どう思う?」

 うるさい。
 我ながらうるさい。

 だから妻は異変に気づいていたらしい。
 何も言わずに走りに出た時点で、「あ、この人忘れとる」と思ったそうだ。

 長年連れ添うというのは恐ろしい。
 もはや防犯カメラより精度が高い。

 しかも妻からは追撃があった。

 「まぁ良かったな」と来たので、

 「今年も走れる!」と返した。

 すると、

 「うん」
 「でも今夜飲みすぎんなよ」

 と返ってきた。

 なぜだ。
 なぜ当選の喜びより先に、飲酒を警戒する。
 私はそんなに信用がないのか。

 ……あるな。
 これは完全にある。

走る理由

 当選した。
 嬉しかった。
 本当に嬉しかった。

 おかやまマラソンは私にとって特別な大会だ。
 何度も言うが、家から行ける。知った街を走れる。沿道の声援も温かい。

 ランナーになって10年。
 何度走っても、この大会には独特の高揚感がある。

 ただし、良いことばかりではない。

 家から会場へ行ける。これは素晴らしい。
 だが、「行く」には必ず、「帰る」がセットで付いてくる。これが問題だ。

 おかやまマラソンを走ったことがある人なら分かると思う。
 42.195kmを走り終えたあと、着替えをして、会場を歩き、駅まで歩き、電車に乗り、家まで帰る。

 これが地味に辛い。
 いや、地味どころではない。

 私の場合、毎回、「もう一歩も歩けん」という状態で駅へ向かう。
 下手をすると、ゴール後の移動の方が辛いのではないかと思う瞬間すらある。

 しかし不思議なもので、顔だけはニヤニヤしている。

 脚は終わっている。
 腰も終わっている。
 階段なんて見たくもない。
 それなのに口元だけは緩んでいる。

 どうやら人間は、満足すると多少の苦痛には鈍感になるらしい。

 そして何より。

 私はまだ走りたい。
 速くなりたい。
 挑戦したい。
 老いに抵抗したい訳ではない。
 むしろ老いながらも面白がりたい。

 脚は前より疲れる。
 回復も遅い。
 翌日の階段は敵だ。
 だが、それも含めて面白い。

 人生は若さだけでできている訳じゃない。

 老いも。
 失敗も。
 落選も。
 忘れ物も。

 全部まとめて人生の色になる。
 だから私は今年も走る。

 どうせまた途中で、「なんでエントリーしたんじゃろ」と思うのだろう。

 それでも走る。
 そしてゴール後には、「来年も走りたい」と言っているはずだ。

 人間とは学習しない生き物である。

とりあえず、今夜は祝杯だ

 さて、こうして無事、おかやまマラソン2026の出場権を手に入れた。これで2026−2027シーズンの予定も立てられる。

 暑い夏が来る。
 しっかり走らなければならない。
 練習もしなければならない。
 体重管理もしなければならない。
 酒も少し控えた方がいいかもしれない。

 ……かもしれない。

 だが、それは明日から考える。
 今日くらいはいいだろう。

 倍率2.5倍をくぐり抜けたのである。
 一般枠界隈からの信頼も勝ち取ったのである。
 県民優先枠には相変わらず嫌われているが、まあいい。
 それは来年また挑戦しよう。

 兎にも角にも、今夜は祝杯だ。

 ビールか。
 ハイボールか。
 それとも少し良いウイスキーか。

 ちなみに妻からは、「飲みすぎんなよ」と言われている。

 だが。
 それはそれ。
 これはこれ。

 当選祝いという大義名分を手にした中年男ほど手強い生き物はいない。

 岡山県民としては認められていないかもしれない。
 だが今夜くらいは、岡山県民代表くらいの気持ちで乾杯しようと思う。

 そんなことを考えている時間もまた幸せである。

 人生はやっぱり面白い。
 当選する日も。
 落選する日も。
 そして、その日を忘れる日も。

合掌。
そして、Love & Bowz ✌️


今回の教訓

一、本当に大事な日は、意外と忘れる。

一、岡山県民認定には、20年以上では足りない場合がある。


あとがき

 今回の話を書きながら思った。

 人間というのは、案外「ちゃんとしていない自分」の方が記憶に残るのかもしれない。

 県民優先枠に落ち続けることも。
 抽選発表を忘れて走りに出ることも。
 妻に性格を完全に見抜かれていることも。

 本来なら少し恥ずかしい話である。でも、そういう出来事ほど後になって笑い話になる。そして、その笑い話の数だけ人生は少し面白くなる。

 今回のエッセイで共感していただける部分があるとすれば、たぶん「忘れてしまうこと」でも、「走ること」でもなく、自分でも呆れるような失敗を繰り返しながら、それでも毎日を楽しんでしまう人間の性分なのだと思う。

 さて、おかやまマラソン当選ということで、これから暑くて長いトレーニング期間がはじまります。

 ということは当然、その過程でまた何かしらやらかすはずです。

 ネタの神様は、どうやら私を放っておいてはくれないようなので。その時はまた、笑い話としてお届けしたいと思います。


 最後までお読みいただきありがとうございました。「我流迷走」では、「走る(ラン)」にまつわる「エッセイ(風?)」なものお届けしています。次回作へのモチベアップのため、スキ、フォロー、コメントいただけると嬉しいです。Love & Bowz✌️


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