【移住と天職】ピラティスとパン教室。HSPの妻が「自分の手と体」を使う仕事に戻った日。
瀬戸内海の穏やかな波の音と、何もしない贅沢な時間。 その「自然のセラピー」は、都会で限界を迎えていたHSP(繊細さん)の妻の心身を、驚くほどのスピードで回復させていきました。
顔から険しさが消え、憑き物が落ちたように穏やかな表情を取り戻した妻。 しかし、彼女の「充電」が100%に達した時、次なる変化が訪れました。
ただ海を眺めていた彼女が、再び力強く動き始めたのです。
■ 「頭」ではなく「五感」を使う
福岡にいた頃の妻は、現代社会のスピードや、PCの画面から溢れる情報といった「デジタルなノイズ」に囲まれ、ひたすら「頭」を消耗させていました。 HSPの人は、あらゆる情報を深く処理してしまうため、脳の疲労度が人一倍激しいのです。
元気を取り戻した妻が向かった先は、パソコンのモニターの前ではありませんでした。 彼女が向かったのは、古民家の「台所」、そして広々とした「畳の部屋」でした。
「パン、焼いてみようかな」
実は、妻はもともと「製パン技術者」の腕を持っています。 久しぶりにエプロンを掛け、粉を計り、生地をこねる。 家中に、イースト菌が発酵する甘い匂いと、小麦が焼ける香ばしい匂いが漂い始めました。
「やっぱり、手で生地に触れていると落ち着く」 粉まみれの手で笑う妻を見て、僕はハッとしました。
HSPの敏感さは、都会のノイズの中では「弱点」になってしまいます。 しかし、パン生地の柔らかさ、小麦の香り、オーブンの温もりといった「心地よい五感の刺激」の中では、その繊細な感覚が**「最大の武器」**に変わるのです。
■ 趣味だったピラティスで教室を開く
妻の動きは、パン作りだけにとどまりませんでした。
「私、ここで教室をやりたい。ピラティスとパン作りの教室」
妻は長年、趣味としてピラティスに親しんできましたが、この向島への移住を機に、本格的に指導者としての資格を取り、自分の教室を開くという決断を下しました。
体を動かし、深い呼吸で自分自身の内側と対話するピラティス。 そして、無心になって生地をこね、五感で味わうパン作り。
どちらも、「自分の手と体」をフルに使う作業です。 頭ばかりを酷使する現代人にとって、それは最強のマインドフルネスであり、HSPの妻自身が「自分を取り戻すため」に必要としていたものでした。
「自分が癒やされたこの感覚を、今度は他の人にも伝えたい」 そう語る彼女の目には、かつての疲労感は微塵もありませんでした。
■ それぞれの「天職」を見つけた古民家
今、我が家の「持て余すほど広かった6LDK」は、最高の形で活用されています。
広い和室と縁側は、海風を感じながら深呼吸ができるピラティススタジオに。 そして台所は、生徒さんと一緒に焼き立てのパンを頬張る、笑顔あふれるパン教室に。
AIプロンプトエンジニアとして、日々パソコンに向かい「論理とデータ(頭)」で仕事をしている僕。 一方で、ピラティスとパン教室を通じ、「五感と身体」で人々と向き合う妻。
「頭」を使う夫と、「体」を使う妻。 それぞれのアプローチは全く異なりますが、この古い家と島の空気が、僕たち夫婦にそれぞれの**「天職」**を教えてくれたような気がします。
今、妻は本当にイキイキとしています。 生徒さんの笑い声と、焼き立てのパンの匂いが満ちる家の中で、僕はパソコンを叩きながら、時々そっとその様子を眺めています。 「移住して、本当に良かったな」と、心からの安堵と共に。
次回、 「【完結】繊細なままで生きていく。妻のためにまとめた「取扱説明書」を本にします」 へ続きます。
(つづく)
