見出し画像

2026年7月後半の核酸医薬業界動向

筋疾患で承認が視野に入り、心血管・代謝領域ではRNAiが臨床アウトカムを競う段階へ

2026年7月後半の核酸医薬業界では、筋疾患を対象とする核酸医薬の承認審査と臨床開発、心血管・代謝疾患におけるRNAi医薬の後期臨床、さらにがん治療用mRNAや二重標的siRNAなど、幅広い領域で重要な進展が相次ぎました。

7月前半には、ASO、siRNA、RNA編集、mRNA、アプタマーなど多様なモダリティで、「後期臨床の前進と選別」が同時に進みました。これに対し7月後半は、承認申請、第3相試験における臨床アウトカム、同一プラットフォームからの継続的な開発候補創出など、核酸医薬の事業化能力を示すニュースが目立ちました。

核酸医薬は、標的遺伝子の発現を制御できるという技術的価値だけでなく、患者にとって意味のある臨床効果を示し、承認を取得し、対象患者を拡大できるかを競う段階へ入っています。

筋標的核酸医薬が承認審査の段階へ

7月後半の最も重要な動きの一つが、Dyne Therapeuticsによるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬zeleciment rostudirsenの米国での承認申請です。

本剤は、エクソン51スキッピングの対象となるDMD患者に対し、筋組織へオリゴヌクレオチドを送達することによって、機能を有する短縮型ジストロフィンの産生を促す治療薬候補です。Dyne独自のFORCEプラットフォームを活用し、筋組織への標的送達とエクソンスキッピングを組み合わせています。

米国FDAは生物製剤認可申請(BLA)を受理し、優先審査に指定しました。PDUFAターゲットアクション日は2027年1月21日に設定されており、Dyneは迅速承認を目指しています。承認された場合、筋標的化技術とエクソンスキッピングを組み合わせた次世代核酸医薬にとって、極めて重要な先例となります。Dyne Therapeuticsの発表

さらにDyneは、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)治療薬候補DYNE-302についても、米国FDAから治験許認可申請(IND)の承認を取得しました。

DYNE-302は、FSHDの病態形成に深く関与するDUX4の発現抑制を目的とする治療薬候補です。成人の歩行可能患者を対象とした第1相試験が開始され、FORCEプラットフォームを用いる同社3番目の臨床プログラムとなります。Dyne Therapeuticsの発表

一つのプラットフォームからDMD、筋強直性ジストロフィー1型、FSHDへと複数の臨床候補を展開できることは、送達技術の汎用性だけでなく、パイプラインを継続的に生み出す事業基盤としての価値を示しています。

Plozasiranが示した「バイオマーカー改善」を超える価値

心血管・代謝領域では、Arrowhead PharmaceuticalsのRNAiパイプラインが大きく前進しました。

重症高トリグリセリド血症(sHTG)患者を対象とするplozasiranの第3相SHASTA-3およびSHASTA-4試験では、主要評価項目であるトリグリセリド値がプラセボ群と比較して有意に低下しました。さらに重要なのは、急性膵炎の発症率についても有意な減少が示されたことです。

トリグリセリド値の低下は薬理作用を示す重要な指標ですが、急性膵炎という患者にとって重大な臨床イベントを減少させたことは、plozasiranの価値を一段引き上げる結果といえます。Arrowheadは年内にも、sHTGへの適応拡大を目的とする米国FDAへの追加承認申請を目指しています。Arrowhead Pharmaceuticalsの発表

核酸医薬の開発では、標的遺伝子や血中バイオマーカーをどの程度抑制できるかが注目されがちです。しかし、今後の後期臨床と市場競争では、入院、合併症、心血管イベント、疾患進行など、患者の予後や医療負担に直結するアウトカムを示せるかが、製品価値を左右します。

Zodasiranの第3相組入れ完了で広がるArrowheadの循環器フランチャイズ

Arrowheadは、ホモ接合体家族性高コレステロール血症(HoFH)を対象とするzodasiranのグローバル第3相YOSEMITE試験についても、患者組入れを完了しました。

Zodasiranは、肝臓でANGPTL3の発現を抑制するRNAi治療薬です。HoFHは著しく高いLDLコレステロール値と早期の動脈硬化性心血管疾患を特徴とし、既存治療を使用しても十分な管理が難しい患者が存在します。

YOSEMITE試験の完了は2027年半ばに予定されており、その後のグローバル承認申請が計画されています。Arrowhead Pharmaceuticalsの発表

APOC3を標的とするplozasiranとANGPTL3を標的とするzodasiranが並行して後期開発に進むことで、Arrowheadは単一製品ではなく、RNAiを基盤とした循環器・代謝疾患フランチャイズを形成しつつあります。GalNAc-siRNAが希少疾患で確立した技術から、より広い心血管・代謝疾患市場へ展開する流れが、いよいよ具体化してきました。

Factor XIを巡るsiRNA抗血栓療法の競争が本格化

7月後半には、第XI因子(Factor XI:FXI)を標的とするsiRNA治療薬で、二つの重要な進展がありました。

Argo Biopharmaceuticalは、血栓塞栓症の予防を目的とするBW-41012の第1相試験で、最初の参加者への投与を実施しました。BW-41012はFXI mRNAを標的とするsiRNAであり、中国国家薬品監督管理局(NMPA)からIND承認も取得しています。本剤はArgoにとって8番目の臨床候補であり、同社のRNAi創薬基盤が複数の疾患領域で臨床段階へ展開されていることを示しています。

一方、Suzhou Ribo Life ScienceとRibocure Pharmaceuticalsは、冠動脈疾患患者を対象とするvortosiranの第2a相試験で良好な結果を発表しました。標準治療を受けている患者において良好な忍容性と持続的なFXI活性抑制が確認され、反復投与後に患者でFXI抑制を示した重要な臨床的概念実証となりました。Ribocure Pharmaceuticalsの発表

既存の抗凝固療法では、血栓予防効果と出血リスクのバランスが常に課題となります。FXIは、正常な止血機能への影響を抑えながら血栓形成を制御できる可能性があることから、次世代抗血栓薬の有望な標的として注目されています。

ただし、FXI活性の持続的な抑制が、実際に出血リスクを増加させず、血栓イベントを減少させられるかは、今後の大規模臨床試験で確認する必要があります。BW-41012とvortosiranの進展は、低頻度投与型siRNAを用いた抗血栓療法の開発競争が本格化したことを示しています。

二重標的siRNAが複雑な代謝疾患への新たな選択肢に

韓国のApril Bioは、Qurientから二重標的siRNAをベースとする代謝性疾患治療薬候補のライセンスを取得しました。

本候補は、脂質異常症などの代謝性疾患を対象に、一つのsiRNA候補によって二つの遺伝子発現を同時に抑制する設計です。GalNAc修飾を用いて肝細胞へ送達し、複数の病態経路を一つの治療薬で制御することを目指します。

慢性代謝疾患では、一つの標的を抑制するだけでは十分な治療効果が得られない場合があります。二重標的siRNAは、配列設計、オフターゲット作用、二つの標的間の薬理バランス、製造管理などの課題を伴いますが、単剤で複数経路を制御できれば、併用療法とは異なる新たな製品価値を生み出す可能性があります。

今回のライセンス取得は、抗体医薬を中心としてきたApril BioがRNA創薬へパイプラインを拡大する動きとしても注目されます。GalNAc送達が標準化するなか、今後は「どの遺伝子を抑制するか」に加え、「複数標的をどのように組み合わせるか」が差別化要因になりそうです。

mRNAは個別化とオフザシェルフの両方向でがん治療へ

がん領域では、Modernaが進行性または転移性固形がん患者を対象とするmRNA-4200の第1相試験において、米国で最初の被験者への投与を発表しました。

mRNA-4200はImmaticsとの共同開発品で、複数の患者やがん種に共通して発現する7種類の腫瘍抗原をコードしています。投与後に標的抗原に対するT細胞応答を誘導・増幅し、がん細胞に対する免疫反応を高めることを目的としています。Modernaの発表

個々の患者の腫瘍変異に合わせて抗原を選択する個別化がんワクチンとは異なり、mRNA-4200は複数患者に共通する抗原を組み合わせたオフザシェルフ型の治療薬候補です。

個別化治療は高い精密性を期待できる一方、患者ごとの解析、製造、品質試験、供給に時間とコストを要します。共通抗原型は、対象患者の選別精度や免疫反応の個人差という課題を伴いますが、製造期間の短縮、供給の標準化、対象患者の拡大という利点があります。

今後のがんmRNA領域では、個別化型とオフザシェルフ型のどちらか一方に収れんするのではなく、がん種、抗原の性質、治療ライン、併用薬によって両者を使い分ける方向へ進むと考えられます。

韓国では国産mRNAワクチンの臨床開発が第2相へ

感染症領域では、GC Biopharmaが新型コロナウイルスmRNAワクチン候補GC4006Aについて、第2相試験の実施に向けたINDを韓国食品医薬品安全処(MFDS)へ提出しました。

本プログラムは、韓国疾病管理庁(KDCA)が主導するパンデミック対策事業の一環として進められています。第1相試験の結果を踏まえ、健常者を対象に安全性と免疫原性を評価する計画です。

新型コロナウイルスワクチン市場は、緊急需要を中心とした段階から、変異株への迅速な対応、安定供給、製造コスト、接種政策を含む持続可能な事業モデルを競う段階へ移っています。一方、各国にとってmRNAワクチンの国内開発・製造能力は、次のパンデミックに備える安全保障上の基盤でもあります。

GC4006Aの開発は、一つの新型コロナウイルスワクチン候補というだけでなく、韓国国内におけるmRNA設計、製造、臨床開発、規制対応を一体化した基盤整備として捉える必要があります。

7月後半の総括:核酸医薬は「実装競争」から「成果競争」へ

2026年7月後半の動向を俯瞰すると、核酸医薬業界の競争がさらに具体的な成果を問う段階へ移行していることが分かります。

第一に、筋疾患ではzeleciment rostudirsenのBLA受理により、標的送達型核酸医薬が承認審査の段階に入りました。さらにDYNE-302の臨床入りは、同一プラットフォームから複数の筋疾患治療薬を生み出すモデルの拡張性を示しています。

第二に、心血管・代謝疾患では、plozasiranが脂質値の改善だけでなく急性膵炎の減少を示し、核酸医薬が患者にとって意味のある臨床アウトカムを競う段階へ進みました。Zodasiranの第3相試験組入れ完了やFXI標的siRNAの進展も、RNAiが希少疾患から大規模な慢性疾患市場へ展開する流れを裏付けています。

第三に、二重標的siRNAや共有腫瘍抗原型mRNAは、核酸医薬の設計思想そのものを拡張しています。一分子で複数の病態経路を制御する設計や、複数患者に共通して使用できるオフザシェルフ型がん治療は、臨床効果と事業性を両立させるための新たな試みです。

これまで核酸医薬では、「標的に届くか」「遺伝子発現を制御できるか」が中心的な課題でした。しかし今後は、それに加えて「臨床イベントを減らせるか」「承認と市場拡大につなげられるか」「一つの技術から複数の製品を生み出せるか」が企業価値を左右します。

7月後半は、核酸医薬が「実装できる技術」であることを示す段階から、具体的な治療成果と事業成果を競う段階へ移り始めた半月だったといえるでしょう。


「核酸医薬業界動向」データベースのご案内

核酸医薬に関する国内外のニュース、研究開発、臨床試験、承認・申請、提携、ライセンス、製造、知財などの情報をExcelに整理・データベース化し、月2回、有料で配信しています。

ご講読をご希望の方には、収録項目、配信方法、料金などの詳細をご案内します。下記メールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ先:
iwao.nozawa@nra-s.com

いいなと思ったら応援しよう!