近くて遠かったモンゴルへ
── 両陛下の国賓訪問が意味するもの
序章|「外敵」からパートナーへ──歴史が刻んできた距離
モンゴルという国に、どんなイメージを抱くだろうか。
相撲、草原、遊牧民、ノマド、チンギス・ハーン──
日本人にとって親しみのあるイメージも多いこの国だが、歴史をたどれば決して「近い」存在ではなかった。
13世紀、フビライ・ハーン率いるモンゴル帝国は二度にわたって日本へ侵攻(元寇)。
以後、モンゴルは長らく「外敵」の記憶と結びついて語られてきた。
時は流れ、1945年。
太平洋戦争末期に、モンゴルはソ連とともに日本に宣戦布告し、戦後には数千人の日本人がモンゴル国内に抑留された。
厳しい自然環境の中で苦労した日本人抑留者のなかには、孤児の世話をし、現地の人々と心を通わせた者もいたという。
モンゴルとの関係は、1972年の外交関係樹立以前は「近くて遠い」ものでした。
日本との国交交渉を担った元在モンゴル大使・花田麿公氏は、1965年に外務省職員としてモンゴル入りした当時をこう振り返ります。
「生きて帰れないかもしれない」「拘束されるかもしれない」という覚悟が必要だった。
当時のモンゴル政府は、日本との戦争は終わっていないという立場であり、入国には相応の緊張が伴った。
── 花田麿公元大使(中央大学 小野詩織によるインタビュー、2021年5月6日)
インタビューア:中央大学 小野詩織
実施日:2021 年 5 月 6 日
http://neanet.jp/docs/210506Interview_HANADA.pdf
実際、1970年代初頭の国交樹立に向けた準備段階でモンゴルの小学校を視察した際、児童に日本の印象を尋ねると、「モンゴルの敵」と答えた子どももいたといいます。
戦争とその教育の記憶は、国交が結ばれる直前まで、モンゴルの人々の心に影を落としていたのです。
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第1章|戦争と抑留を越えて──慰霊と和解の旅へ

2025年、天皇皇后両陛下はモンゴルを初めて国賓として訪問される予定です。
そのご訪問は、「象徴天皇」としての役割の核心に深く関わる意味を持ちます。
両陛下は、戦後モンゴルに抑留された日本人の慰霊碑に、静かに花を手向けられることになっています。
この慰霊碑は、国境や時代を超えて人々の記憶と良心を結び直す象徴でもあります。
戦後の抑留生活では、多くの日本人が極寒の草原や強制労働の中で命を落としました。
一方で、現地の人々と心を通わせ、孤児を育てた元兵士たちもいました。
「人道」と「共生」の記憶は、いまも現地に静かに息づいています。
この訪問は、戦争の加害と被害を超えて和解の道を示す行為であり、
両陛下による慰霊の姿勢が、あらためて国際社会に日本の平和主義と誠意を伝えるものとなるでしょう。
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第2章|文化と未来をつなぐ──草原のパートナーシップ
天皇陛下は、過去の記者会見でもモンゴルとの交流について言及されてきました。
皇室とモンゴルの結びつきは、相撲や青少年交流、医療・学術の協力など多方面に及びます。
両陛下の訪問にあたっては、ユネスコ無形文化遺産である「ホーミー(二重唱)」や馬頭琴演奏など、伝統文化の鑑賞も予定されています。
これは単なる儀礼的な文化交流ではなく、「異なる文化を尊重し、ともに未来を築く」という多文化共生の哲学を体現する行為です。
また、日本の支援により建設された小児病院や教育施設を訪れることで、草の根レベルの信頼がいかに育まれてきたかを両陛下ご自身が確認されます。
今回の訪問には、将来的な青年交流の強化や農業・医療分野での協力の拡大も見据えられています。
モンゴルの若者たちにとって、天皇皇后両陛下の訪問は「日本という国の本質的な姿」を知る貴重な機会となるでしょう。
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第3章|戦後和解の象徴として──「抑留者慰霊碑」と皇室外交の歩み
2025年7月、天皇・皇后両陛下は、戦後モンゴルに抑留された日本人の慰霊碑に花を手向けられるご予定です。
この慰霊碑は、20世紀の戦争と抑留の歴史を忘れず、命を落とした方々への追悼と和解の祈りをこめた記念碑です。そこには、ただ悲しみの記憶だけでなく、異国の地で人道的支援を行い、モンゴルの子どもたちと心を通わせた日本人抑留者たちの姿も刻まれています。
昭和から平成、そして令和へ──
皇室は、時代を超えて「和解と共生の象徴」として、戦争の記憶と向き合う姿勢を大切にしてきました。天皇陛下は、即位後の記者会見でも、「過去を正しく記憶し、次の世代に伝えることの大切さ」に言及されています。
今回のご訪問は、まさにそのお考えを具現化するものであり、戦後80年という節目を目前に控えた国際的な和解の一歩でもあるのです。
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第4章|現代モンゴルとの友好深化──「第三の隣国」としての戦略的パートナーシップ
近年、モンゴルは「第三の隣国(Third Neighbor)」外交政策を掲げ、中国・ロシア以外の友好国との関係強化を進めています。そのなかでも日本は、民主主義・法の支配・市場経済という価値観を共有する重要なパートナーとして位置づけられており、ODAや教育支援、人的交流など多岐にわたる協力が行われています。
2022年には国交樹立50周年を迎え、経済・文化・防災分野での新たな協定が結ばれました。
そして2025年、両陛下が国賓としてモンゴルを訪問されることは、この友好関係が一層深化した証ともいえる出来事です。
「かつての“敵国”が、最も信頼できるパートナーへ」
この劇的な変化の背景には、長年にわたる政府・民間の努力とともに、「皇室の存在」が果たしてきた役割があります。国際社会において、象徴天皇の訪問は、言葉以上の信頼の表明と受け取られるからです。
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第5章|未来への布石──災害医療・教育・文化をつなぐ架け橋として
モンゴルは、気候変動の影響や医療インフラの課題を抱える国のひとつです。日本はこれまでも、医療機器の提供や防災ノウハウの共有などを通じて支援してきました。
とくに2025年は、日本赤十字社の医療支援活動を背景に、敬宮愛子内親王が世界災害救急医学会(WADEM)でお言葉を述べられた年でもあり、「皇室と医療外交」の可能性が新たに開かれつつあります。
今回の両陛下の訪問は、そうした実務的・人道的交流に象徴的な後押しを与えると同時に、次代に向けた皇室外交の地平を広げることになるでしょう。
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終章|「近くて遠かった国」から、「心の近い国」へ
モンゴルの草原をゆく両陛下の姿は、まぎれもなく、日本とモンゴルの関係史における一つの到達点となるはずです。
13世紀の元寇から始まった「遠き記憶」。
20世紀の戦争と抑留という「痛みの記憶」。
そして21世紀、「信頼と友情」の訪問へ──
それは、皇室という「時間を超えて橋をかける存在」があってこそ可能となった平和の道のりです。
天皇・皇后両陛下のご訪問は、単なる儀礼を超え、「外交」「記憶」「未来」をつなぐ、真に歴史的な瞬間となることでしょう。
参照
花田麿公元在モンゴル大使へのインタビュー
http://neanet.jp/docs/210506Interview_HANADA.pdf
「モンゴル抑留問題は未解決」〜花田麿公元大使に聞く – Jargal Defacto
https://jargaldefacto.com/?p=14392&lang=ja
モンゴル国|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/mongolia/index.html
【ノーカット】「若い世代の交流に期待」 陛下、モンゴル訪問前会見
https://youtu.be/QYHfX9Brr6I?si=_EpxL7ejVJH6rkc1
