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「hideという天才」なぜ彼はステージで別人になったのか?「場を操る」集団トランスの心理学【爆音クロニクル✖️アーティストメンタル・ハンドブック】

「ライブハウスで上にのし上がっていくバンドと、足踏みしたまま消えていくバンドの違いは何か?」

前回のコラムでも触れたが、その答えは「観客をトランス状態に導けるか導けないか」の一点に尽きる。

そして、観客を熱狂のトランス状態へ引きずり込むための最も手っ取り早く、かつ強力な方法。
それは、「アーティスト自身が真っ先にトランス状態に入ってしまうこと」だ。

演者自身が醸し出す圧倒的な興奮と集中状態に、会場の空気が引っ張られ、観客もまた巻き込まれるように熱狂していく。
この「場を操る力」を持っている者が、ライブハウスのフロアを呑み込み、熱狂を作ることができる。

今回は、僕がこれまで出会ってきた数多のミュージシャンの中で、「この人は集団トランスへと導く圧倒的な天才だ」と10代の頃に衝撃を受けた、ある男の話をしよう。

X(X JAPAN)の、hideちゃんだ。

第1章:18歳のhideが見せた「楽屋とステージのスイッチ」

彼と初めて出会ったのは、お互いにまだ18〜19歳の10代の頃。
彼がXに加入する前、SAVER TIGER(サーベルタイガー)というバンドをやっていた時代だ。

神楽坂エクスプロージョンというライブハウスで、俺がやっていたDEMENTIA(ディメンシア)とサーベルタイガーの2バン(ツーマン)ライブが決まった。

当時、テレビ朝日系列で『親の目・子の目』という教育番組があり、「派手なバンドに群がるティーンエイジャーたちを親はどう見ているか?」というテーマでライブハウス取材が入ることになった。
そこで「なるべく派手なバンドを取材したい」ということで、俺たちとサーベルタイガーに白羽の矢が立ったのだ。

その日、初めて見たhideちゃんのパフォーマンスに、俺は衝撃で目が釘付けになった。

「なんなんだこいつは……! なんでステージの上でこんな風になれるんだ!?」

楽屋にいる時の彼は、本当にごく普通の、気さくなお兄ちゃんだった。
ところが、いざ本番のスイッチが入った瞬間…..
楽屋の彼とは全くの別人へと変貌を遂げていたのだ。

空気感が一変し、全身から凄まじい殺気が立ち上っている。
当時の俺には、彼がなぜそこまで劇的に変われるのか分からず、長年の疑問だった。
だが今ならはっきりその状態を言語化できる。

彼は10代にして、横須賀というアメリカ軍人が屯するライブハウスで磨いた天性のセンスで、完璧な「トランス状態」へ没入する術を身につけていたのだ。

第2章:トランスは伝染する——X JAPANのステージングを変えた男

サーベルタイガーの楽曲は、決してテンポが速いだけの単純な音楽ではなかった。
展開が非常に個性的で、一筋縄ではいかない曲調ばかりだった。
それにもかかわらず、フロア全体をグイグイと強烈に惹きつけ、熱狂させていく。

この「hideのトランス能力」は、後に彼がXに加入したことで、バンド全体へと浸透していったと思っている。

hideちゃんが加入する前のXは、どちらかと言えば荒々しく観客を威圧する「オラオラ系」のスタイルが前面に出ていた。
しかし、彼が加入して以降、Xのライブはただ威圧するのではなく、観客を世界観の中に一気に「引き込む」ステージングへと変化していった。

ここに心理学で言う「ラポール(心の共鳴・同調)」の仕組みが働いている。

会場の空間において、ステージと客席の間に心の周波数が同期する「ラポール」が築かれている時、誰か一人が深いトランス状態に入ると、そのトランス状態は周囲へ一気に感染・伝染していく。

hideちゃんがステージに出た瞬間、真っ先にトランス状態に入る。
すると演奏を通じてメンバー全員の心が同調(同期)し、バンド全体のトランスが爆発的に高まる。
そしてその圧倒的な快感と熱狂が、ステージ下のお客さんへと波及し、狭いライブハウスを狂喜の渦へと変えていったのだ。

Hi-STANDARDのメンバーが昔、ライブ中の最高の瞬間を「ピクつく」と表現していたが、あれもまさに同じことだ。
雑念を捨て、ステージ上で一体化し、その「ピクつく感覚」でフロア全体を巻き込んでいく。

これこそが、ロックにおける「集団トランス」の正体なのだ。

第3章:「内側(インターナル)」と「外側(エクスターナル)」のトランス

実は、トランス状態には大きく分けて2つのベクトルが存在する。

  1. インターナル・トランス(内向的トランス): 意識が自分の内側へ内側へと深く入っていく状態。
    自分のプレイや世界観だけに没頭するタイプ。
    内観や瞑想、自己の内部対話、記憶へのアクセスなどの状態がそうだ。

  2. エクスターナル・トランス(外向的トランス): 意識が自分の外側へとどんどん拡大していく状態。
    周りの空気や空間全体へと自分の意識を広げ、場を丸ごと呑み込んでいくタイプ。

人気が出て大きな会場を揺らせるアーティストは、この「エクスターナル・トランス」の使い方に長けている。
自分の意識を客席の後ろの席までビヨーンと伸ばし、会場全体を手繰り寄せるように巻き込んでいくのだ。

フェスなどの巨大イベントでも同じことが言える。
「フェスに出れば売れる」と思っている若手バンドは多いが、実際にフェスに出ても上にいけないバンドは山ほどいる。
なぜなら、彼らは目の前のお客さんを集団トランスに巻き込めず、周りで見ている人たちに「フロアが熱狂している光景」を見せることができないからだ。

演奏技術がずば抜けて上手いプレイヤーが、自分の演奏に没入(インターナル・トランス)している姿を見て観客が引き込まれるケースもある。
だが、一番確実に「カリスマ性」を生み出すのは、自分自身がトランスに入り、そのエネルギーで相手を外側へと巻き込んでいく技術なのだ。

トランスの法則は、プレゼンも恋愛も同じである

この「信頼関係(ラポール)を築き、自らトランスに入って相手を巻き込む」というプロセスは、音楽だけの話ではない。

ビジネスのプレゼン、大学での講義、あるいは「恋愛」においても、全く同じ心理メカニズムが働いている。

例えば、誰かにプレゼンや講演をする時。
まず相手が安心して心を許せる「信頼関係(ラポール)」の雰囲気を作る。

その上で、自分自身がそのテーマに心から熱中してトランス状態に入り、その高揚したエネルギーを相手に伝染させる。そうすると、話の内容以上に相手は引き込まれ、「この人の話は面白い!」と感じるようになるのだ。

恋愛も全く同じだ。
「相手を好きになって夢中になる」というのは、心理学的に見れば一種のトランス状態である。

恋愛で失敗する人の多くは、相手との間に十分なラポール(安心感や信頼関係)が築かれていない段階で、自分の恋愛感情(下心やトランス)を相手にぶつけてしまう。
だから相手は警戒し、引いてしまうのだ。

まずは相手が「この人といると安心できる」という状態をじっくり作る。
そして十分な土壌が整ったところで、初めて自分の情熱を解放する。

相手を熱狂させたいなら、まずは自分が熱狂すること。
そしてその前に、相手としっかり「心を通わせる土壌」を作ること。

18歳にしてそれを地で行き、ライブハウスの空気を一瞬で変えていたhideちゃんは、やはり根っからの表現者であり、集団トランス誘導の天才だったのだと今でも思う。
おそらく本人は、観客を巻き込むという技術を、経験値として感覚的に身につけていたのだと思う。


関連動画 Youtube「爆音クロニクル⚡︎hideに学ぶ熱狂の作り方」

https://youtu.be/kXK_IyOQAzE


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