あの日、開けなかった一本のサッポロクラシック
旅先では、普段はしないことをしてみたくなるものです。
お酒がほとんど飲めない私も、その一人です。
「せっかくここまで来たのだから。」
そんな気持ちで、その土地のお酒を手に取ることが何度かありました。
けれど、私には二度と繰り返したくない後悔があります。
🍶旅の途中にできた空白
約10年前、妻と越後湯沢駅まで出かけたことがありました。
駅構内の「ぽんしゅ館」で日本酒を少し試飲し、その余韻のままJR上越線に乗って水上駅へ向かいました。
普段ほとんど飲まない私には、それだけでも十分だったのでしょう。
気が付くと眠っていました。
目を覚ましたとき、列車はもう水上駅の手前でした。
どこから眠っていたのかは覚えていません。
でも、旅の途中にぽっかりと空白ができてしまったような感覚だけは、今でも覚えています。
景色も、列車が走る音も、その時間にしか見られなかった車窓も、私の記憶には残っていません。
私は、お酒に負けたことではなく、旅の時間を失ってしまったことを後悔しました。

🍷同じ後悔を繰り返してしまった
それから十年以上が過ぎました。
2022年12月、子どもと秋田を目指す乗り継ぎ旅の途中、村上駅でワインを買いました。
村上から酒田まで、日本海を眺めながら少しだけ楽しもうと思ったのです。
ところが、また眠ってしまいました。
目が覚めたときに感じたのは、「またやってしまった」という気持ちでした。
旅の時間は、目的地へ向かうためだけの時間ではありません。
車窓を眺めたり、家族と何気ない話をしたり、ぼんやり景色を見たり。
そうした時間も含めて、旅だったのだと改めて気づかされました。
私は二度目の後悔で、そのことをようやく自分の中に刻んだのだと思います。

🍺あの一本を開けなかった理由
2025年12月、宗谷岬への旅を終え、苫小牧からフェリーで帰る日でした。
船内で飲もうと思い、サッポロクラシックを一本買いました。
フェリーで飲むビールは、きっとおいしいだろう。
そんなことを考えていました。
でも、缶を手にした瞬間、これまでの二度の後悔が頭に浮かびました。
「また眠ってしまったら、この時間は戻ってこない。」
そう思うと、飲む気持ちは自然と消えていました。
結局、そのビールを開けることはありませんでした。
お酒を我慢したというよりも、旅の時間を選びたかったのです。
船の揺れや窓の外の景色、ゆっくり流れる時間。
そのどれもが、私にとっては飲み物より大切な旅の一部になっていました。

📝旅が教えてくれたこと
旅は目的地へ着いた瞬間に始まり、終わるものではありません。
列車に揺られる時間も、フェリーで海を眺める時間も、何もしない時間も、すべて旅です。
だから私は、あの日飲まなかった一本のビールを少しも後悔していません。
むしろ、二度失った時間があったからこそ、三度目は旅を選ぶことができました。
これからも旅先で、その土地のお酒に心が動くことはあるかもしれません。
それでも私はきっと、一度立ち止まって考えるでしょう。
「この一杯と、この時間。今の私が持ち帰りたいのは、どちらだろう。」
そんな問いを持てるようになったことも、旅が私に残してくれたものの一つなのだと思います。
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