桜は静かで、飛行機は大きい|成田空港の丘で過ごした春の午後(2023年3月)
丘に向かう小道で、ふと空を見上げたときでした。
桜の枝の向こうに、ゆっくりと機体が降りてくるのが見えました。
金属の重い音が、春の空気を震わせます。
その下で、桜はほとんど動かずに咲いていました。
この記事では、
成田空港のすぐ近くにある「さくらの山公園」で過ごした、
桜と飛行機の午後について書いています。
遠くに出かけなくても、少しだけ日常の外に出られる場所がある、
そんな時間でした。
— 桜の向こうに着陸する飛行機
2023年3月下旬。
子どもが「空港に行きたい」と言い出したのがきっかけでした。
羽田にするか、成田にするか。
少しだけ迷いました。
そのとき、桜の時期だということを思い出します。
それなら、成田のほうがいいかもしれない。
そうして向かったのが、
さくらの山公園でした。
高速道路を降りて駐車場に着くと、車がゆっくり列を作っていました。
ほぼ満車で、少しだけ待ちます。
花見なのか、飛行機なのか。
おそらく両方の人たちが集まっているようでした。
車を降りて丘へ歩き始めたとき、
桜の枝の隙間から着陸直前の飛行機が見えました。
まだ公園の中に入る前なのに、
もう空港の気配がします。

— 桜は静かで、飛行機は大きい
丘の上に出ると、滑走路の方向がひらけました。
空はよく晴れていて、春らしい暖かさ。
上着を脱いで腰に巻くくらいの陽気です。
桜はほとんど音を立てずに咲いています。
けれどその上を、飛行機が大きな音を響かせて通り過ぎます。
金属の重たい音。
その音のたびに、周囲の子どもたちが空を指します。
大人はカメラを構えています。
花見と空港見学が、同じ場所で起きていました
— 子どもは桜を見ていなかった

うちの子どもは、桜をほとんど見ていませんでした。
ずっと滑走路の方を見ています。
「DHLだ」
「次はJAL」
そう言いながら、次に来る機体を待っています。
私は飛行機に詳しくありません。
なので、「へえ」「そうなんだ」と相槌を打ちながら横に立っていました。
そのうち、子どもは少し離れた場所まで歩いていきます。
でも、慌てて追いかける必要はありませんでした。
少し前なら、ずっと手元に置いていたはずです。
けれどこの日は、少し距離があっても落ち着いて見ていられました。
気づけば、夫婦で桜のほうを見に歩いています。

— 桜の下を京成線が通る
公園の端のほうに行くと、
遠くに線路が見えました。
電車が通り過ぎます。
あとで調べると、
京成電鉄の線路でした。
飛行機、桜、電車。
それぞれは特別なものではないのに、
同じ場所に集まると、少しだけ景色が変わります。
遠くへ旅行しているわけでもないのに、
どこか空港の途中にいるような気分でした。

— 近くにある「少しだけ遠い場所」

子どもは最後まで滑走路を見ていました。
飛行機が来るたびに空を指して、
小さく名前を言います。
桜は、ほとんど見ていなかったと思います。
それでも、この場所は悪くありませんでした。
桜を見たい人と、
飛行機を見たい人が、
同じ丘に立っていられる場所でした。
帰るころには、
夕方の光が少しずつ傾いていました。
空港のほうから、また一つ音が聞こえてきます。
振り返ると、
子どもはまだ滑走路を見ていました。
車に戻る途中で、
子どもがぽつりと、また来たいと言いました。
桜のことではなく、
たぶん、飛行機のことだと思います。
丘の向こうでは、
もう一機、ゆっくり降りてくるところでした。
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