Sきっぷが教えてくれた「予定どおりじゃない旅」の価値
2026年3月、JR北海道の自由席往復割引きっぷ「Sきっぷ」が廃止されました。
ニュースを見たとき、真っ先に浮かんだのは残念という気持ちでした。
同時に、特急列車の全席指定化が進み、北海道の鉄道旅も少しずつ姿を変えていることを実感しました。
私にとってSきっぷは、単なる割引きっぷではありません。
予定どおりにいかなくなった旅を、もう一度前へ進めてくれる存在でした。
🎫名寄駅で見つけた、もう一つの選択肢
2024年7月、子どもと宗谷岬を目指して北海道を旅していました。
ところが、宗谷本線の運転見合わせによって予定は大きく崩れます。
その後、旭川駅からの宗谷本線は昼前に運転を再開し、再開後最初の普通列車で名寄駅へ向かいました。
当時利用していた「北海道&東日本パス」は、ごく例外的に特急列車への振替乗車が認められる場合があると聞いていました。
もしかしたら今回も利用できるかもしれない。
そんな期待を抱きながら、名寄駅の窓口で駅員さんに尋ねました。
「今日は振替乗車の扱いはありません。」
その答えを聞いた瞬間、やはりそうかという気持ちと、この先どうしようという不安が入り混じりました。
それでも諦めきれず、
「特急列車を利用するとしたら、お得なきっぷはありませんか?」
と続けて尋ねました。
すると駅員さんは時刻を確認しながら、こう教えてくださいました。
「Sきっぷという、自由席往復割引になるきっぷがあって、旭川駅と稚内駅の区間で発売されています。名寄駅から乗る場合でも、旭川駅から稚内駅までの往復で購入した方が、通常料金よりお得になりますよ。」
その一言で、旅の景色が変わりました。
宗谷岬までは難しいかもしれない。
でも、子どもにとって初めての稚内駅には行ける。
旅は終わっていなかった。
そう思えた瞬間でした。
私がその説明を聞いている横で、子どもの表情も少しずつ明るくなっていったことを、今でもよく覚えています。
Sきっぷのおかげで、親子で稚内駅まで足を延ばすことができました。
目的地は少し変わってしまいましたが、旅そのものを続けられたことは、私たちにとって大きな意味がありました。




🎫普通列車の旅を支えてくれた存在
翌年の旅でも、Sきっぷには助けられました。
普通列車を乗り継ぎながら宗谷岬を目指す途中、札幌駅から旭川駅までは、Sきっぷを使って移動しました。
普通列車だけでは時間が足りない。
途中で遅れが生じて、普通列車だけでは目的地に辿り着けない。
そんなとき、必要な区間だけ特急を利用して旅全体を組み立てられる。
私にとってSきっぷは、そんな「旅の調整役」でもありました。
私が普通列車の旅を好きなのは、一駅ずつ景色や駅の雰囲気、乗り降りする人たちが少しずつ変わっていく様子を感じられるからです。
窓の外を眺めながら何もしない時間。
そんな余白も、旅の楽しみの一つだと思っています。
だからこそ、普通列車だけでは届かない部分をそっと支えてくれるSきっぷは、旅のリズムを崩さずに済む大切な存在でした。


🎫失われたのは、割引だけではない
これからは、特急列車を利用するには事前予約が基本になります。
もちろん、それは快適さや利便性を高めるための流れなのでしょう。
一方で、北海道の鉄道旅は天候や自然条件の影響を受けやすく、予定どおりにいかないことも少なくありません。
そんなとき、その場で旅を組み立て直せる自由は、これまでより少し小さくなるのではないか。
そんな不安も感じています。
次に子どもと北海道を旅するときは、これまで以上に旅程や予約のタイミングを考えることになるでしょう。
それでも私は、普通列車の旅を続けたいと思っています。
一駅ずつ景色が変わり、車窓を眺めながら過ごす時間は、効率では測れない旅の魅力だからです。

🎫旅を続ける方法は、きっと残っていく
予定どおりにいかなかったからこそ出会えた景色があります。
予定どおりにいかなかったからこそ受けた親切があります。
名寄駅で駅員さんが、一緒に旅を続ける方法を考えてくださったことも、その一つでした。
失われたものには、なくなって初めて気づく価値があります。
Sきっぷは、私にとってそんな一枚のきっぷでした。
Sきっぷはなくなりました。
けれど、あの日名寄駅で教えてもらった「旅を続ける方法」は、これからも私たち親子の旅の中で生き続けるのだと思います。

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