BtoBマーケのKPIを「お問い合わせ数」だけで見るのをやめた話

「今月もお問い合わせ、増えてます。先月比プラス20件です」

受託のWebコンサルをしていた頃、クライアントの定例でそう報告するのが、私の"良い仕事"でした。営業さんには喜ばれます。商談の種が増える話ですから。

でも、同席している経営者の反応は、いつも薄い。あるとき、はっきり言われました。

「で、受注にはどれくらいつながってるの?」

言葉に詰まりました。報告していたのは、営業メールなどのノイズを除いた"正しい"問い合わせ数です。数字は間違っていない。それなのに、経営には届かない。

先に結論を言います。私はこのあと、「問い合わせ数を報告する」こと自体をやめました。代わりに、受注から逆算して"どこからが営業の仕事か"を、経営と握りにいくようにした。そうしたら、ようやく数字が"次の一手"につながり始めました。

なぜそこに行き着いたのか。少し恥ずかしい失敗談と、その裏にあった構造、そして公開されている理論を突き合わせながら、明日からできる最小の一歩まで書きます。

先に結論:「問い合わせ数の報告」をやめて、"どこからが営業の仕事か"を握ることにした

問い合わせ数は、ファネルの"入口の一指標"でしかありません。

追うべきは、受注(ゴール)から逆算した各段階の数字。そして何より、「ここまでがマーケの仕事、ここからが営業の仕事」という線引きを、誰と、どう握るかです。

この線引きさえ握れてしまえば、マーケの報告は「問い合わせが増えました」から「営業に渡せる質のリードを◯件作りました。線の先はお願いします」に変わります。経営との会話が、まるで変わります。

きれいにまとめましたが、ここに至るまでが長かった。順に話します。

「お問い合わせ、増えてます」と報告していた頃

受託のWebコンサルとして、私は毎月、クライアントに問い合わせ数の増加を報告していました。

現場サイド、特に営業さんには本当に喜ばれます。商談の種が増える話なので、当然です。「今月も反響いいですね」なんて言われると、報告している自分も、正直、仕事をした気になっていました。

でも不思議なことに、この声は経営サイドには驚くほど届かない。定例で経営者が同席すると、空気が変わる。うなずきはするけれど、身を乗り出してはこない。あの温度差の正体が、当時の私にはわかっていませんでした。

ノイズは除いていた。それでも経営には響かなかった

誤解のないように言うと、雑な数字を報告していたわけではありません。営業メールやスパムのような明らかなノイズは除外した、"きれいな"コンバージョン数を出していました。数字は正しかったんです。

それでも、経営の反応は変わらない。

理由はシンプルでした。経営が見たいのは商談の数ではなく、受注だからです。商談がいかに獲得できたかは、経営にとっては(言い方は悪いですが)割とどうでもいい。どれぐらい受注できたかがすべて。だから報告のたびに、必ずこう返ってくる。

「その問い合わせの"質"はどうなの?」

そして、もっと厄介な副作用がありました。営業側が「この問い合わせ、見込みないな」と気づき始めるんです。数だけ増えて質が伴わないリードを渡され続けると、問い合わせを処理するモチベーションが静かに、確実に下がっていく。

数字は増えているのに、現場は疲れていく。数字は正しいのに、機能しない。

これが「単一指標の罠」の正体だと、いまなら言えます。冷やかしが混ざるとか、そういう話ではない。問い合わせ数という一つの数字だけでは、誰も意思決定できないという、構造の問題でした。

理論でも同じことが言われている——デマンドウォーターフォール

見方を変えるヒントは、実は昔から公開されていました。

BtoBマーケの世界には、デマンドウォーターフォールという有名なフレームワークがあります。米SiriusDecisions社(現在はForrester傘下)が提唱したもので、リードが受注に至るまでを段階で定義するモデルです。


デマンドウォーターフォールの図

段階はこうです。

Inquiry(問い合わせ)→ MQL(マーケが有望と判断)→ SAL(営業が受け入れ) → SQL(営業が有望と判断)→ Close(受注)

私がこのモデルで一番好きなのは、SAL(Sales Accepted Lead)という段階がわざわざ存在することです。

「営業がそのリードを受け入れたかどうか」を、独立した関門として明示する。しかも、受け入れを拒否するなら理由を残させる。つまりこのモデルは、マーケから営業への受け渡し点があいまいになること、そして営業が黙ってリードを選り好みすることを、"構造で"防いでいるんです。

もうひとつ、マーケと営業の間で「ここまでマーケが頑張る、ここからは営業が頑張る」を口約束ではなく文書で合意するSLAという考え方も広く知られています。MQLの定義は「フィット(相手がターゲットに合っているか)」と「エンゲージメント(買う気配があるか)」の両方で決めるのが原則で、片方だけでは不十分。そして、マーケがMQLと呼んでも営業が動かないなら、その定義のほうが間違っている——とまで言われます。

私が現場で悶えていた問題は、理論の側では、とっくに整理されていたわけです。

参考:SiriusDecisions Demand Waterfall(Forrester公式ブログ・英語)

「誰が」線を引くのか——私が実際にやったこと

ここからが、この記事でいちばん書きたかったことです。

MQLやSQLの線引きが大事。ここまでは理論の通り。では、その線は誰が引くのか。

最初、私は営業側に基準を聞きに行きました。そして学びました。営業に聞くと、自分たちが商談しやすいリードしか持ってこない。悪気はないんです。ただ、自分の成果に直結する基準を自分で決めていいなら、誰だってそうする。

だから私の結論はこうです。線引きのジャッジは、営業単独に委ねてはいけない。経営者か、事業全体を統括している人が行うべき。「ここまでは営業頑張れ、ここまではマーケ頑張れ」と、事業全体を見ている人が線を引く。受注から逆算したときに、これが一番大事な"営み"だと思っています。


セールス部門とマーケ部門とビジネスマネジメント部門

ただし、経営がジャッジするには判断材料が要ります。私はそれを、受注の"実態"に自分で潜り込んで取りに行きました。

まず「受注履歴を見せてください」とお願いする。……基本、出てきません。これはもう、あるあるだと思ってください。逆に言うと、受注履歴がすぐ出てくる会社は、それだけで結構できている会社です。

出てこないなら、現場に行くしかない。私はクライアントの営業さんが実際に商談している場に、同席させてもらいました

もちろん、都合の悪い情報を見せないパターンもあります。なので鵜呑みにはせず、疑いは持ちながら。それでも、商談の場には一次情報しかありません。どんなデータが出て、どんな会話になったか。そこから「お客さんには、こういうニーズとこういう前提があったはずです」と読み解く。

そのうえで、経営・事業統括にこう提案しました。

「商談を見た結果、実態はこうでした。だから、こういう座組にしませんか。ここまでをマーケが持ちます。ここから先は営業にお願いしたい」

一次情報を根拠にすると、この提案は通ります。そして一度線が引ければ、マーケのKPIは「問い合わせ数」ではなく「線のこちら側で、質の合ったリードを何件作れたか」に変わる。デマンドウォーターフォールのSALやSLAが"上位の合意"を前提にしているのは、そういうことだったのかと、あとから腑に落ちました。

明日からできる、最小の一歩

「わかったけど、いきなりKPIツリーだのスコアリングだの作れないよ」と思った方へ。作らなくていいです。最小の一歩は3つだけです。


数値を並べる

STEP1:まず「3つの数字」を横に並べる。 入口(問い合わせ数)・中間(商談化数)・成果(受注数)。この3つを1枚に並べるだけ。それだけで「どこが詰まってるんだっけ?」という会話が始まります。単一指標では、この会話が永遠に始まりません。

STEP2:営業と一緒に、直近の問い合わせを仕分けする。 「これは追うべき」「これは追わなくていい」を一件ずつ。この仕分けの中に、あなたの会社のMQLの"たたき"が眠っています。

STEP3:その基準を、経営・事業責任者に持って行って握る。 できれば商談の場も覗かせてもらう。一次情報を添えて、「この線でいきませんか」と提案する。握れた瞬間から、数字の意味が変わります。

まとめ:数字は"報告"のためではなく、"次の一手"と"合意"のために見る

問い合わせ数の報告で満足していた頃の私は、数字を「報告するもの」だと思っていました。

いまは違います。数字は、次の一手を決めるためのものであり、マーケと営業と経営が同じ景色を見るための合意のツールです。問い合わせ数はその入口の一つでしかなくて、単体では誰の意思決定も動かせない。

もしいま、毎月「問い合わせ、増えてます」と報告して、どこか手応えのなさを感じているなら。まずは3つの数字を横に並べるところから、始めてみてください。

(次回は、この記事で触れたMQL/SQLの「決め方」を、もう一段実務に踏み込んで書く予定です)

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