【本の紹介】石牟礼道子『苦海浄土 わが水俣病』(講談社)
□難度【★★★★☆】
郷土の言葉が飛び交い、また、記録文・報告文なども挿入され、さらに、一読では文の構造をなかなかに掴ませない石牟礼の文体も相俟って、決して、読みやすい文章とは言えない。しかしそこには、「読みやすい、消費されるような文章で描いていいテーマではない」という、強烈なメッセージを読み取ることもできる。
□内容、感想など
暴走する資本主義の象徴とも言える水俣病を主題とした作品。以下の引用の「独占資本のあくなき搾取のひとつの形態」とは、もちろん、人々の尊厳を奪った「近代産業の所業」、つまりは新日本窒素肥料の暴虐を言っている。
独占資本のあくなき搾取のひとつの形態といえば、こと足りてしまうか知れぬが、私の故郷にいまだに立ち迷っている死霊や生霊の言葉を階級の原語と心得ている私は、私のアニミズムとプレアニミズムを調合して、近代への呪術師とならねばならぬ。
〜『苦海浄土 わが水俣病』より〜
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ここに「階級の原語」という表現が選ばれていることの意味は、計り知れないほどに大きいと思う。石牟礼は、水俣病の犠牲者たちの声なき声を、水俣病という固有の文脈から、資本主義によって搾取される階級全体の声を代表するものとして止揚しているのだ。
そうした論理は、「アニミズム」、あるいはアニミズムに先行し、森羅万象に生命の存在を信じる「プレアニミズム」の「呪術師」として、つまりは反近代の象徴として自らを位置づけ、「近代」に対峙する…というその態度において、より先鋭化することになる。なぜならここでの敵は、資本主義という次元すら超えて、「近代」というより包括的な概念へと、敷衍されているのであるから。
しかし石牟礼は、決して、出来事を安直に一般化するような書き手ではない。むしろ、その正反対だ。個別の、それぞれの「原語」すなわち「訳したり、改めたりしないもとの語(『精選版 日本国語大辞典』より)」に耳を傾けて、決して具体性から離れないように細心の注意を払う。そこをありえないほどの集中力と密度で徹底していくのが、石牟礼の筆致の最大の特徴である。
つまり『苦海浄土』は、具体性を具体性のままに描くことを通じて、階級…いや、人類にとっての普遍的なテーマを表現する、そんな作品なのだ。
□こんな人にオススメ
・この社会の未来を生きる、若い世代。
・高校生には難しいかもしれないが、わかるところだけでも読んでほしい。
・本書を読めるレベルの日本語能力をすでに獲得している人たち、全員。
