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佐世保・九十九島・浮瀬ダイビング(第六幕 知能派の魚 マダイ)


佐世保・九十九島の浮瀬ポイントも含め、この海域のポイントに潜ると、しばらくしてどこからともなく大きなマダイの群れがあらわれます。
このマダイたち、ダイバーを怖がるどころか、目の前に出てきたり、私たちの周りを子犬のようにまとわり付いてきます。

潜ってしばらくすると、沖の方からマダイたちがやってくる
谷を進むと、先導?してくれます

そして、ガイドさんがガンガゼウニを砕くと、一目散に食べにやってきます。食べっぷりが凄い。
毎回、マダイたちにエスコートされる癒やしの時間でした。

ガイドさんがガンガゼウニを見つけ、指示棒で持ち上げると
いきなり激しい争奪戦
勝者のマダイ、ガンガゼウニを美味しそうにムシャムシャと頬張る。痛くないのかなぁ。

でも、ふと疑問が湧きました。
本来、魚たちは、ダイバーを危険な存在と思ってるはずなのに、なんでこんなにフレンドリーなのでしょう。
そもそも、どうやってダイバーが来たのが分かるのかな?
ダイバーが危険ではないと分かるのかな?
けっこう大きいマダイが、こんな浅場にいるの?

今回は、この謎に迫ります。

魚の王様 マダイの生態

マダイ(真鯛、Red seabream、Pagrus major)は、ニザダイ目タイ科に分類される海水魚で、日本では単に「鯛」といえばほぼマダイです。
日本人とマダイとの付き合いはとても古く、縄文時代の遺跡からも、マダイを含む魚介類を食べていたことが確認されているそうです。

ぷりぷりの白身、淡泊なのにうま味が強く、臭みがほとんどない、「魚の王様」であり、名実ともに日本を代表する食用魚です。
古くは『古事記』『日本書紀』にも登場し、江戸時代には「将軍家御用達」の魚として珍重されました。
現代でも、その鮮やかな赤い体色と「めでたい」の語呂合わせから、お食い初めや結婚式など、人生の節目に欠かせない存在となっています。まさに、日本人のDNAに刻まれた魚と言っても過言ではありません。

北海道以南の日本沿岸から東アジアの海域に分布し、成魚は主に水深30〜200mほどの岩礁域や砂礫・砂泥底に生息します。魚類やエビ・カニなどの甲殻類、イカ、貝類などを食べています。
ただし、一生同じ場所で暮らすわけではありません。幼魚期には比較的浅い沿岸域を利用し、成長とともにより深い場所へ生活圏を広げます。
実はとても長生きで、寿命は15〜20年ほど、最大で1mを超えるものも。

縄文人が食べていた魚を、現代の私たちは祝いの席で食べ、そしてダイバーは海の中で友達になっているわけですね。

大きさ70cmくらい、何歳くらいなのかな

この大きなマダイ、私より九十九島を知っているかもしれません。

マダイの繁殖事情

マダイは群れない魚」というわけではありません。
生活史や季節によって、単独・小集団・群れを使い分けていると考えるのがよさそうです。
若魚は比較的群れをつくりやすく、成長すると行動範囲が広がって単独や小集団で行動することも増えます。

マダイは雌雄異体ですが、外見で雌雄を見分けるのは難しく、例えばダイバーに人気の観賞魚であるアカオビハナダイの雄が見せるような、鮮烈な婚姻色も一般的には知られていません。
産卵期は地域差がありますが、おおむね春〜初夏。この時期、成熟した個体は産卵場に集まり、雌雄がペアになって放卵・放精する「ペア産卵」を行います。
受精卵は海中を漂う浮遊卵で、親による保護はありません。水産研究機関の資料でも、マダイでは夜間産卵と「雌雄1対1の婚姻システム」との関連が論じられています。

ここで、他の魚との比較を整理してみましょう。
アカオビハナダイ:雄が体側に明瞭な赤い帯を持つ婚姻色を示し、ハーレムの中で雌に激しくアピールする。
マダイ:雌雄の外見差が目立たず、繁殖時にはペアで静かに産卵を行う。

このように、マダイは見た目の派手さよりも、確実なペアリングを重視する戦略をとっているようです。

マダイはどうやってダイバーを認知するのか?

マダイは地獄耳

スクーバダイビング中は、レギュレーターの排気音、吐き出した気泡、フィンキックによる水流、器材同士の接触音などが発生し、意外と賑やかです。

1988年に石岡らは、マダイの聴覚について研究しました。それによると、マダイは50〜1000Hzの音を聞くことができ、最も感度が高かったのは200Hz付近でした。
200Hzというと、音楽で言えばバスドラムの響きやベースの低音域に近い音です。
水中では、レギュレーターから出る「ボコボコ」という排気音や、ダイバーが岩に接触した際のごく低い振動音がこれに該当します。 また、この研究では、マダイに訓練を施すと音の高さをある程度識別できることも判明しました。

200Hzのような低い周波数の音波は、水中ではエネルギーが減衰しにくく、驚くほど遠くまで伝わります。

つまり、ダイバーが視界に入るずっと前から、マダイたちは「あ、いつもの音が近づいてきたぞ」と気づいている可能性があるのです。

マダイの視覚

マダイは眼が大きく、餌の探索や対象物の識別には視覚を利用しています。野生のマダイは10〜50m程度の沿岸・岩礁域にも生息するため、視界の悪い環境にも適応しています。

プランクトンが多い九十九島の海域は、透明度は必ずしもよくありません。
したがって、遠くの物体を視覚で認識するのは困難なので、接近してから識別しているんでしょう。

聴覚→視覚→学習した記憶でダイバーを認識

九十九島のマダイが、ダイバーが発する音を聞いて、存在を察知するなら、なぜわざわざやって来るのでしょう。
そこには、「ダイバーの音→ガンガゼウニのご褒美」という学習が成立している可能性があるのでは?

ちょうどいい論文を見つけました!

マダイの学習能力に迫る

1.餌場も危険も学習する

2015年、京都大学の高橋・益田らは、マダイの幼魚が「餌のある場所」や「危険な場所」を学習できることを示しました。

さらに、餌場へ向かう仲間や、危険から逃げる仲間の映像を見るだけで行動が変化することも報告されています。

つまりマダイは、自分の経験だけでなく、仲間の行動からも学べる可能性があるのです。


2.釣り具を見分ける

2021年の研究では、さらに驚くことに、マダイはわずか1〜2回釣られただけで、釣り具を避けるようになりました。

オキアミだけなら食べるのに、釣り糸の付いたオキアミは避ける。一方で、釣り具の近くにある人工飼料は普通に食べます。

つまり、「餌が怖い」のではなく、釣り具そのものを識別している可能性が示されました。
ガイドさんの指示棒だって分かってるのかも。


3.餌をくれるダイバーを見分ける?

2025年には、地中海に生息するタイ科魚類を対象にした非常に興味深い研究が発表されました。
野生の魚は、「特定の装備をしたダイバー」が餌をくれることを学習し、なんと別のダイバーと見分けられるようになったのです。
実験では、2人のダイバーの装備(ウェットスーツやフィンの色など)を全く同じにすると、魚たちの識別能力は低下しました。
このことから、魚たちはダイビング器材の色や形、あるいはシルエットといった視覚情報を重要な手掛かりにして、個別の人間を区別していることが示唆されました。

これだけ賢いと、釣るのも大変だ

4.九十九島のマダイたち

九十九島のマダイも、特定のガイドさんの周りに真っ先に集まり、ときどき私のようなゲストダイバーの方へも様子を伺いに近づいてきます。
彼らは、ガイドさんが持つ「指示棒」を視覚的に認識しているだけでなく、ウェットスーツの色や器材の構成から、「この人はいつもの給餌者だ」「この人は新しいお客さんだ」と見分けているのかもしれません。
もしかすると、私たちのフィンキックの癖や、吐き出す泡のリズムさえも、彼らにとっては個体識別の材料になっているのではないでしょうか。


私の方が、じっと見られてるような気がする・・・

答えはまだ完全にはわかりません。
しかし、この最新の研究を知ると、あの大きなマダイがレンズ越しにこちらをじっと見つめていた理由が、単なる偶然ではなく、深い観察の結果だったように思えてなりません。

おわりに

ダイビング中、このマダイはしばらく私の前から離れませんでした。

私は「近くで写真を撮らせてくれる魚」だと思っていました。

でも、研究を読んだ今では少し考えが変わりました。

観察していたのは、本当に私だけだったのでしょうか。

K Takahashi et al; Can red sea bream Pagrus major learn about feeding and avoidance through the observation of conspecific behavior in video playback? Fisheries Science 81-4 July 2015; 679-685

K Takahashi,et al; Angling gear avoidance learning in juvenile red sea bream: evidence from individual-based experiments. J Exp Biol 15 February 2021; 224 (4)

H Ishioka et al; The Hearing Ability of the Red Sea Bream Pagrus major. Nippon Suisan Gakkaishi 54(6), 947-951 (1988)

https://www.theguardian.com/environment/2025/feb/19/wild-fish-can-tell-humans-apart-when-they-dress-differently-study-finds?

引用文献

次回は…

ある一日のダイビング経験を、6回に分けてじっくり文章にしてみました。
いかがでしたか?

次回は場面が変わって、7月に潜った長崎のダイビングです。
アオリイカの産卵現場から中継します。お楽しみに。

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