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音楽の聴こえる絵本 ー 【きょうはそらにまるいつき / 荒井良二】

 音楽の聴こえてくる文章、あるいは音楽の聴こえてくる絵、というものがある。
 それはたいていの場合、「詩的な」と形容されるものであることが多い。詩的な文章、詩的な絵。 
 
 詩というのは、言葉にできないものを言葉にすることだと思っている。
 ある心持ち、そこに漂う空気、風が光るような一瞬。そういうものを掬いとり、文字にうつしかえる。
 元来言葉にできないものを言葉にしようとするのだから、その多くは捉えどころがなく、道筋も起承転結もない。

 理屈抜きで受け取り手の感情に直接アクセスするのは、本来音楽が得意とすることだ。それを真正面から言葉でやろうとする試みが、詩。だから詩と音楽は相性がいい。
 わたしはそう思っている。

 児童文学のノーベル賞といわれるアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を2005年に日本人で初めて受賞された絵本作家・荒井良二さんの絵本は、どれもとても詩的だ。
 絵本『きょうはそらにまるいつき』にも、それはそれは豊かな音楽が流れている。耳には届かない音楽、でも心の中にやすやすと流れ込む音楽。
 静かなその旋律をたっぷり味わいたくて、1枚1枚、わたしはゆっくりページをめくる。


 この絵本から聴こえる音楽の源泉は、文章と絵の両方だ。
 どちらかひとつだけを取り出してしまうと、その音楽は一瞬でかき消えてしまう。
 そのことに気づいたのは、絵本に書かれた文章をこの記事内に転記したときだった。

 この絵本のもつ音楽性を紹介したくて、わたしは文章(とても詩的な文章だ)をnoteの下書きに抜粋・転記した。
 そのとたん、絵本から溢れでていた豊かな音楽は、たちまち消えてしまった。

 そうか、荒井良二さんの文章と絵は、切り離してはいけないものなんだ。彼の言葉と絵はひとつのもので、どちらが欠けてもこの豊かな世界は損なわれてしまうんだ。

 そのことを思い知り、わたしは驚きと畏敬の念に打たれた。
 まるで魔法みたいだ、と思った。

 絵と切り離されてしまった言葉たちは寄る辺なくパラパラとかなしそうに見え、わたしはすぐに、転記した文章を消した。

 というわけで、『きょうはそらにまるいつき』の豊かな滋味を味わうには実際に絵本を開いてみていただくしかないのだけれど、この絵本から受け取ったものをなんとかわたしの言葉で表してみるのなら、こんなふうだ。

 一日のおわり。それぞれの人生から見上げるまるい月。
 それぞれの人生はひとつひとつ違うもので、だからそのすべてを分かち合うことはできない。
 それでもいまこの瞬間、同じ闇に包まれて同じ月をみる、その幸福、その安らかさ。
 「自分もこの完璧さの一部なのだ」と思える一日のおわりは、それだけで、ご褒美。

 この絵本の中に繰りかえし出てくる「ごほうびのような おつきさま」という言葉はわたしの胸にお守りのようにくっきりと刻まれ、以来、満月を見上げるたびに柔らかく光る。

 形がないからこそ、うっかり失くしてしまうこともないお守り。
 そういうもののひとつひとつが体と心を強くしてくれているのだと、わたしは信じている。


 ※『きょうはそらにまるいつき』は、「満月の光にあまねく包まれる人間や動物たちの暮らしを描いた芸術性の高い作品」として第22回日本絵本賞大賞を受賞しています。
 「芸術性の高い作品」という言葉からは、もしかしたらどこか敷居の高い印象を受けるかたがいらっしゃるかもしれません。
 でもこの絵本は、最初から終わりまで、とてもとても優しい。芸術性を理解するとかしないとか、そういうことをらくらくと超えて、心の奥深くにすとんと届きます。
 ゆるやかで優しく音楽的な文章は、お子さんを膝にのせて一緒に声を出して読むのにも最適だし、大人ひとりでゆっくりとページをめくるのにも最高です。


<この記事を書いたのは>

お読みいただき、ありがとうございました。
十年一刷舎の、さちと申します。
本を読むことと、ものを書くことが好きです。
ここnoteでは、小説やエッセイのほか、読んだ本の感想などを書いています。

たくさんの優れた物語に、生きることを助けてもらってきました。
文章や音楽にはそういう力が備わっていると信じています。
そういうものを、みなさんと一緒に共有できますように。

* * * *

<略歴>
第一回有吉佐和子文学賞入賞。
社会福祉士・保育士・ケアマネージャー。
現在専業主婦として子育て中。


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