うちマネ小話♯35
『ピクニックはデートに入りますか?』
唯衣:「なぁ梨名」
梨名:「んー?」
都内のカフェ。
窓際の席。
卒業しても相変わらずな同期とのランチ。
仕事の話。
メンバーの話。
最近の話。
他愛もない会話が続いていた。
その流れで。
梨名:「そうや」
梨名:「今度○○さん誘うねん」
唯衣:「へぇ?」
梨名:「ピクニック」
唯衣:「……ええなぁ」
ぽろり。
あまりにも自然に出た言葉だった。
だから。
一番驚いたのは梨名だった。
梨名:「……は?」
唯衣:「ん?」
梨名:「今なんて?」
唯衣:「え?」
梨名:「ええなぁって言った?」
唯衣:「言ったけど」
梨名:「唯衣が?」
唯衣:「うん」
梨名が固まる。
本当に固まる。
まるで信じられないものを見る顔だった。
梨名:「熱ある?」
唯衣:「失礼やな」
梨名:「いやだって」
梨名:「前の唯衣やったら絶対誤魔化してたやん」
梨名:「『別に羨ましくないし』とか」
梨名:「『好きにしたらええやん』とか」
唯衣:「……」
梨名:「図星やろ」
唯衣:「うるさい」
耳が熱い。
分かっている。
昔ならそうしていた。
絶対に認めなかった。
でも。
今は少し違う。
唯衣:「羨ましいもんは羨ましいねん」
小さく呟く。
梨名が目を丸くした。
梨名:「うわぁ」
唯衣:「なんやねん」
梨名:「恋する女や」
唯衣:「殴るぞ」
梨名:「怖っ」
言いながら。
梨名はどこか嬉しそうだった。
長い付き合いだ。
だから分かる。
唯衣が少し変わったことに。
ようやく前へ進み始めたことに。
梨名:「まぁ」
梨名:「うちはデートも出来るけどな?」
唯衣:「は?」
梨名:「ピクニックやし」
梨名:「実質デートやん」
唯衣:「……」
梨名:「ええやろー」
にやにやしている。
腹立つ。
めちゃくちゃ腹立つ。
唯衣:「ふん」
梨名:「負け惜しみ?」
唯衣:「ちゃうし」
梨名:「じゃあ何」
唯衣:「うちは」
唯衣は少しだけ胸を張った。
唯衣:「今度ハグしてもらうからな」
梨名:「は?」
唯衣:「ハグ」
梨名:「なんで?」
唯衣:「知らん」
梨名:「知らんのかい」
唯衣:「でもする」
梨名:「強引すぎるやろ」
梨名が吹き出す。
唯衣も少し笑った。
我ながら意味が分からない。
でも。
負けた気はしなかった。
梨名:「いやいや」
梨名:「ピクニックの方が上やろ」
唯衣:「ハグの方が上や」
梨名:「なんでやねん」
唯衣:「近いし」
梨名:「理論ガバガバやぞ」
けらけら笑う梨名へ。
唯衣は少しだけ頬を膨らませる。
そして。
珍しく。
本当に珍しく。
隠さなかった。
唯衣:「だって」
唯衣:「うちの方が○○さんのこと」
唯衣:「大大大好きやから」
言った瞬間。
自分で照れる。
顔が熱い。
恥ずかしい。
でも。
もう誤魔化さなかった。
梨名は数秒固まったあと。
ふっと笑う。
梨名:「そっか」
唯衣:「なんや」
梨名:「いや」
梨名:「良かったなって」
唯衣:「何が」
梨名:「唯衣」
梨名:「ちゃんと前向けてるやん」
その言葉に。
唯衣は少しだけ目を瞬かせた。
前なら。
否定していたかもしれない。
でも今は。
不思議と素直に受け入れられた。
好きだ。
ちゃんと好きだ。
苦しいし。
恥ずかしいし。
嫉妬もする。
それでも。
この気持ちを隠しているだけじゃなくなった。
叶えたいと思えるようになった。
それが少し嬉しかった。
梨名:「まぁ負けへんけどな」
唯衣:「うちも負けへん」
梨名:「ピクニックやぞ?」
唯衣:「ハグやぞ?」
梨名:「だからなんでハグやねん!」
店内に笑い声が響く。
同期らしい。
いつも通りのやり取り。
でも。
武元唯衣の表情だけは少し違った。
恋を認めた少女の顔だった。
恥ずかしくて。
照れくさくて。
それでもどこか晴れやかで。
未来を見ている顔だった。
