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【覚悟論3】責任者は現場業務から脱出せよ

現場で誰よりも多くの件数をこなし、誰よりも汗を流している責任者ほど、実は組織を壊している——そう言われたら、あなたは納得できるだろうか。

負のスパイラルの正体
プレイヤー気取りを捨てられない責任者は、次のような負のスパイラルにはまっていく。

責任者が現場業務で1位を目指す
→ 職員が上げるべき「個人実績(評価軸)」を責任者が横取りする
→ 責任者は現場作業(8時間)で手一杯になり、施策が打てない
→ 店舗評価が上がらず、全員の給与・ボーナスが停滞する
→ 「頑張っても報われない」と不満が噴出し、組織が崩壊する。

現場で「業務件数1位」の責任者は、愚の骨頂だ。

責任者は「フリー」であるべき
断言する。店舗責任者は現場業務において「フリー」の状態でなければならない。

時間的余裕のない責任者は、店舗を確実に衰退させる。責任者が「フリー」であることこそが、店舗に新しい発想をもたらし、劇的な業績向上を可能にする絶対条件だ。現場の日常業務の延長線上にない「次の成長施策」を考案・実行できる人間は、店舗内で責任者ただ一人しか存在しないからだ。

「店舗の新しい施策が一向に進まない」「売上が頭打ちになっている」「責任者が常にテンパっており、部下に感情的に当たってしまう」——これらの問題が発生する根本原因は、100%「責任者に時間がないこと」に帰結する。

責任者自らが現場の通常業務を慌ただしく回し、朝から晩まで現場作業に追われて誰よりも多い業務件数をこなしているケースを考える。立ち上げ期等の一時的な介入なら戦略としてアリだが、それを慢性的に続けている責任者は失格だ。

現場に入り続ける責任者は、表面上は「部下の負担を減らすため」と言う。だが本音は「自分が身を削ることで、部下から感謝されたい」という自己満足だ。その先にあるのは、進化のないジリ貧の店舗である。

責任者が現場作業で8時間を使い切るため、本部からの戦略指示は現場で止まり、業務改善や営業活動は放置される。店舗評価は下がり、本部や支店指示のテコ入れが入る。にもかかわらず、当の本人は「自分は一番汗を流して働いている」と悲劇のヒーローを気取るため、反省の機会すら失う。

一般職員と責任者では、課せられている評価軸が根本から異なる。

・一般職員の評価軸:与えられた現場業務を、どれだけ正確かつ迅速にこなしたか(処理能力・件数)
・責任者の評価軸:店舗全体の価値を引き上げ、店舗評価(売上・利益・CS・コンプライアンス)を向上させたか

この決定的な違いを理解せず、部下と同じ土俵で業務件数を競っている責任者は無能と言わざるを得ない。「現場が忙しくてフリーになんてなれない」という反論は思考停止だ。忙しいからフリーになれないのではない。フリーになるための仕組みを作っていないから永久に忙しいのだ。

「暇な時間」こそ未来を買う投資時間
前提として、「今日は忙しくて手が回らなかった」と騒ぐ店舗は、単なる準備不足と時間管理の欠如であるという事実を認識しなければならない。どんな繁忙店であっても、サイクルで見れば必ず業務の波(ピークとボトム)が存在する。「午後の2時間だけ客足が止まる」という時間が必ずある。

二流の店舗は、この「暇な時間(ボトム)」が訪れると作業ペースを落としてダラダラと仕事を引き延ばす。「休める時に休もう」という不生産的な態度をとる。

一方で、優秀な責任者は「暇な時間=将来の時間を買うための投資時間」と定義する。客足が落ち着いている時間に、以下のような「未来への投資」を集中して行う。

・ピーク時のボトルネックを解消するための導線改善やレイアウト変更
・ヒューマンエラーが発生した際の原因追究とマニュアル更新
・自分が不在でも業務が停滞しないクロススキル(多能工化)研修の実施
・新規開拓営業の準備

暇な時間を活用して現場の処理能力を高めておくからこそ、ピーク時にも現場が混乱せず、責任者が戦略業務に没頭できる「フリーの時間」が生まれるのだ。

また、「変形労働時間制」や「フレックスタイム制」が存在するならば、自らの「フリーの時間」を作り出すために戦略的に駆使すべきだ。真面目すぎる責任者は、「自分が現場を抜けて事務作業や外回りをするためにシフトを調整していいのか」と躊躇する。だが、責任者の目的は「現場で8時間作業すること」ではなく「店舗を勝利に導くこと」だ。戦略的な思考時間を確保するためにシフトを調整することは、正当な権利であり義務である。

現場作業に忙殺されて愚痴を言う責任者よりも、制度を駆使して時間を捻出し、売上を2倍にする施策を考えている責任者の方が、会社から高く評価されるのは言うまでもない。

部下の評価を奪っている
現場業務で「業務件数1位」を誇らしげに掲げる責任者が、いかに組織を破壊しているか。責任者が現場に入り込んで圧倒的な件数をこなすと、以下の破滅的シナリオが進行する。

まず、本来一般職員が成果として積み上げるべき業務件数を、スキルの高い責任者が奪い取ってしまう。すると職員は実績を伸ばせず、正当な評価や昇給のチャンスを奪われる。同時に責任者は現場作業で時間を使い果たすため、店舗評価を上げる施策を打てなくなる。

結果、毎日汗だくになって働いているにもかかわらず、店舗全体の評価は低迷したまま。ボーナスや昇給の原資が増えることはない。職員から「なぜ給料が上がらないのか」と不満が爆発する。責任者は自らの戦略ミスを隠すため「上が決めることだから仕方ない」と責任転嫁を行い、組織は完全に崩壊する。

責任者が部下の評価軸(現場実績)を奪うことは、部下の成長機会を奪うと同時に、店舗全体の未来を殺す罪深い行為なのだ。

若手の不満から逃げるな
責任者が現場作業から身を引き、事務所での戦略業務や外部営業にシフトし始めた時、現場からは必ず不満が上がる。「店長はなんで現場に入らないでパソコンばかりいじっているのか」「忙しいのに手伝ってくれない」——。

ここで多くの無能な責任者は恐怖を感じ、再び現場作業へと後戻りする。だが、不満が出るのは構造上当たり前だ。責任者は絶対に逃げてはならず、説明責任を果たさなければならない。

ここで重要になるのが、ベテラン職員と若手職員が持つ「経験(ものさし)の長さの違い」への理解だ。

・ベテラン職員(ものさしが長い):業界や組織の構造を理解しているため、正面から「店舗評価を上げるための役割分担」を説明すれば納得・協力しやすい
・若手職員(ものさしが短い):目の前の現場業務が自分の仕事のすべて。責任者の役割が見えないため、不満が裏で溜まりやすい。丁寧な教育が必要

ベテラン職員に対しては、「〇〇さんの高い業務処理能力があるからこそ、私は売上を立てる営業活動に専念できる。現場の指揮は〇〇さんに任せたい」と、役割の違いと信頼を明確に伝えることで強力な味方に変えられる。

本当に注意すべきは、若手職員(特に仕事ができると言われる職員)だ。彼らは経験(ものさし)が短いため、「自分ができる現場業務=最高の仕事」という価値観の中にいる。狭い視野の中にいるため、責任者が事務所で施策を練っていても「遊んでいる」と勘違いしやすい。

このギャップを放置すると、若手は直接不満を言わないままストレスを溜め込み、突然の退職や不吉な噂の拡散という形で爆発する。だからこそ、早期に役割の違いを叩き込まなければならない。

「君たちが目の前のお客様に集中して素晴らしい成果を出してくれていることに心から感謝している。しかし、私の仕事は『店舗全体の評価を引き上げ、結果として君たちの給料や環境を良くすること』だ。目指すゴールは同じだが担っている役割が違う。だから私は現場を君たちに任せ、別の戦場で戦っている」

この教育を徹底し、彼らの「ものさし」を拡張してあげることこそが、責任者の果たすべき説明責任だ。

【実例】部下に実績を譲って後継者を育てた話
部下と現場実績を競う愚かさを捨て、部下に実績を譲って成長させた実践例がある。以前紹介した、崩壊状態から立て直したあの大型店舗(月処方6,000枚以上・従業員20名)には、「店長に負けたくない」という強い対抗心を持った優秀な若手職員(Aさん)がいた。私は彼の負けん気の強さと潜在能力を見抜き、あえて「商品販売の実績を意図的にコントロールする」という育成戦略を仕掛けた。

あらかじめ断っておきますが、これは「店長に負けたくない」という強い対抗心を持った優秀な若手職員(Aさん)だからこそ機能した計画です。部下の価値観やタイプによって、育成戦略やアプローチは柔軟に変えるべきである、という前提を忘れないでください。

目的はひとつ。「彼に圧倒的な実績を上げさせ、自信を持たせた上で、そのセクションのトップとして店舗の数字を背負わせること」だ。

第1フェーズ「デッドヒートの演出」——私とAさんで店舗売上の8割を占める状態を作る。Aさんが数字を伸ばしてきたら、あえて少しだけ抜き返す。Aさんの「勝ちたい」というモチベーションを最大まで煽る。

第2フェーズ「意図的な敗北とノウハウの伝授」——翌月、意図的にペースを落とし、Aさんに1位を譲る。彼が勝利に浸っているタイミングで、販売ロジックやマーケティング手法をすべて伝授する。「再現性のあるスキル」と「確固たる自信」が定着する。

第3フェーズ「完全撤退とリーダー権限の譲渡」——Aさんがノウハウをマスターした瞬間、私はそのセクションの現場から完全に撤退する。生まれたフリーな時間で、私は新たな店舗成長施策の立案に没頭する。

現場を残されたAさんはどうなったか。私が抜けた穴を埋めるため、彼は猛烈な責任感を発揮し始めた。自分一人では限界があると気づいた彼は、自ら後輩スタッフを集めて指導を行い、チーム全体で目標を達成してみせたのだ。彼はプレイヤーから「リーダー」へと脱皮した。昇進した彼は現在、一拠点の店舗責任者として活躍している。

もし私が「店長の威厳」を守るために彼と実績を競い続け、常に1位を獲り続けていたらどうなっていたか。彼の対抗心は折れていたかもしれない。「どうせ店長がやるからいいや」と甘えが生じ、彼の成長も、私のフリーな時間も、店舗の飛躍もすべて潰れていたはずだ。

「やらないこと」は放棄ではない。戦略的に引き、部下に成果を勝ち取らせるための高度な攻めなのだ。

まとめ
部下と現場実績を競う愚かなプライドを捨てろ。評価軸を部下に譲り、生まれた「フリーの時間」を使って、店舗全体の未来を創る真の仕事に向き合え。

次回は、店舗に潜む「裏の支配者」——非公式な権力をどう見抜き、どう解体するかを解説する。

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