なぜ「あの薬局」にだけ在庫が入るのか?――薬局のクライアントを見極め、出荷調整時代を勝ち抜く「真のWin-Win関係」
はじめに:現場で繰り返される「在庫がない」という悲鳴
新型コロナ流行以前の薬剤混在事件に始まり、今や慢性化している薬の出荷調整。薬局現場での在庫管理は難局を極めています。
「在庫がないから」と患者様を他局へ案内せざるを得ないケースも少なくありません。法律上、在庫不足を理由とした調剤拒否は認められておらず、国も調剤報酬でフォローを入れるほどこの状況を問題視しています。
現場の状況は過酷です。
在庫担当者は毎日問屋へ電話しては断られる日々
たまに入荷しても当たり前に足りず、患者様からはクレーム
処方元に変更の電話をしても変更にならないどころか怒られる……
「もう限界です」と頭を抱える部下を、私はこれまで何度も見てきました。
しかし、ふと周りを見渡してみてください。
同じ会社、同じ地域の薬局なのに、なぜか「あの店舗だけ」多く在庫が入っているということはありませんか?
大規模な総合病院前でもないのに、なぜ特定の店舗にだけ薬が入ってくるのか。
その答えは、「薬局にとってのクライアントは誰か」を正しく理解し、卸・メーカーと「正しい関係性」を築けているかどうかにあります。
あなたは「窓口」に電話していませんか?
在庫がない時、あなたの店舗ではどこに電話をかけていますか?
もし、「卸の代表窓口」に電話しているとしたら、その店舗に在庫が入ってくることはまずありません。店舗の連絡先に卸の窓口番号しか登録されていない場合も同様です。
少し身近な例で考えてみてください。
美容室で担当の美容師さんの予約がいっぱいの時に、窓口の代表電話にかけたらどうなるでしょうか。スタッフは予約表を見て「いっぱいなので」とお断りするはずです。
しかし、担当者と仲良くしていて個人で連絡を取り合える仲であればどうでしょうか。
「予約と予約の間や、最後の予約のあとに入れて入れますね」と対応してもらえることがありますよね。
卸の窓口もこれと同じです。画面上を確認し「在庫なし」となっていれば「断る」という仕組みの中で窓口は動いています。
鳴り止まない電話の中で業務負担や効率を考えれば当たり前のことです。そこにあなたが電話しても「ない」と言われるのは、構造上当然のことなのです。
卸・メーカーの苦悩:彼らが命がけで調整している舞台裏
薬の在庫は基本的に月数回、メーカーから問屋(卸)に納品されます。それを担当地域ごとに分け、そこから担当者が実績を見て在庫を店舗ごとに振り分けていきます。
出荷調整などの場合はその数が減るため、与えられた数の中で調整をしていくことになります。
ここで、あなただったらどうするか考えてみてください。
【シチュエーション】
本部から「10,000錠」の割り分けがありました。これを10店舗分で振り分ける必要があります。しかし、全店舗の必要分を満たすのは難しい状況です。
A薬局: 毎月「どうにかしてほしい」と少し強めの依頼が多く、追加発注も定期的に来る。在庫に関して毎日電話が来て、上長まで出てくる始末。
B薬局: 「わかりました」で済んでしまう。
どちらも実績3,000錠の店舗ですが、全体の数の都合上、通常の割り振りでは「2,000錠」しか分けることができないとします。
あなたであればどうしますか?
私であれば、A薬局に3,000錠おろして、B薬局には「1,000錠でいいか」の交渉をします。 また、A薬局からの追加の依頼のために、500錠くらい手元に残しておくかもしれません。
卸やメーカーにとって最も大切なのは、「処方箋を出してもらうこと(自社製品が売れること)」であり、そのためには薬局に在庫がなければなりません。
病院で処方箋が出されている間は、なんとか薬局に在庫をつないで病院での採用を守りたい。しかし在庫は限られている……彼らもこの非常に難しい在庫調整に必死なのです。
自社商品が売れなくなるだけでなく、在庫復旧までに処方元に採用薬を変えられたら「おしまい」だからです。
「本当に出荷停止」でどうしようもない時の協力体制
どんなに手を尽くしても、メーカーの出荷停止などで本当に薬が入らない場面は存在します。その際にも、日頃の連携体制が試されます。
まずは担当者にこう確認してみてください。
「メーカーから病院への状況報告(アナウンス)はすでに行っているか?」
もし、まだ報告がいっていないようであれば、早急に行ってもらうよう促します。
逆に「もう何回も病院へ説明に行っているが厳しい」という状態であれば、今度は薬局側が協力する番です。これは卸・メーカーからのSOSです。
薬局側も協力し、代替薬への変更提案を処方元に行ったり、患者様を通して医師に理解を求めたりと、現状を少しでも理解してもらう努力を共にします。
【注意】ジェネリック(GE)停止時は「情報戦」になる
特に注意が必要なのが、後発品(ジェネリック)が停止した際のアクションです。GEが止まると必然的に先発品へ需要が集中しますが、先発品メーカーは「自社が原因で止まったわけではない」ため、わざわざ病院へ事情説明に行くことはまずありません。
先発品メーカーとしても「一過性の需要増加で採用が外されること」を一番懸念しています。
この場合は、早急に他のGEを集めるか、先発品を確保する動きを迅速に取れるかが勝負の分かれ目になります。
こういった状況下での迅速な情報収集や連携構築も、日頃から信頼関係を構築できているかどうかで勝敗がはっきりと分かれるのです。
「仕事は情報戦」です。
「気を遣う相手」を履き違えてはいけない
責任者であれば一番に考えなければならないのは、「患者」や「医療機関」という真のクライアントに迷惑をかけないことです。
患者や医療機関には「在庫がない」で突っぱねておきながら、卸やメーカーに気を遣う——。
この意識は完全に逆であり、誤っていると私は考えます。
無論、「卸やメーカーを雑に扱う」という話ではありません。私自身、数々の卸やメーカーの方々にお世話になってきており、今でも深くつながっている方はたくさんいます。
大切なのは、「Win-Winの関係性を構築する」ということです。
Win-Winの関係を作る「心理的ハードル」の活用法
このような状況下では、時にうるさく、しつこくお願いすることもあるかもしれません。それは当然、クライアントに迷惑をかけないためです。
しかし、頼むばかりではありません。
卸やメーカーが困っているとき——例えば予算達成のためであったり、勉強会の実施、薬の小売りなどがあるときは、全力で協力する姿勢を見せるのです。相手からのSOSにはしっかり応えます。
また、卸やメーカーの営業担当者は、はるかに薬局の薬剤師より「営業気質」です。依頼されること、そしてそれを達成・全うすることが本来の力を発揮する場所でもあります。
さらに営業気質だからこそ、「返報性の原理」で一度依頼されると、自らも依頼しやすくなります。
このようにコミュニケーションを高めていくと、仕事が非常に回りやすくなります。
「いい関係性を作りたい」と思っているだけで、ただ相手に気を遣っているだけでは、良い関係は作れません。
Win-Winの関係性を構築するためには、必要なときに無理な依頼をし、相手がきついときに助けてあげる。
この心理的ハードルを活用することが非常に重要です。
実は、これこそが**「あの店舗にだけ在庫がある」という現象の答え**なのです。
おわりに:早期の実践が店舗の未来を変える
この「信頼と相互協力をベースにしたコミュニケーション手法」を早期に実践し関係性を築くことができれば、不測の急な出荷調整が発生した際にも、早い段階から柔軟に対応できるようになります。
在庫探しの電話や調整に追われる時間が減ることで、店舗にはゆとり(時間)が生まれます。業務がスムーズに回り始め、患者様の待ち時間も大幅に削減されていきます。
こうした1つ1つの積み重ねによってのみ、店舗の質は確実に向上していくのです。
私自身、この理論を徹底して実践してきたことで、卸や医薬品メーカー、医療機器メーカーの皆様と極めて強い連携体制を構築することができています。
相手にただ気を遣うのではなく、真のクライアント(患者・医療機関)のために知恵と信頼を介して繋がる。
ぜひ、今日からあなたの店舗でも第一歩を踏み出してみてください。
