小説『N氏の庭』(2) ブルーベリー物語② 試練の季節
五月。
レイト・メイ。
N氏の庭は緑であふれていた。熱中しすぎで、熱中症になりやすいN氏の苦手な季節。だから、もっぱらスタッフさんが私たちの世話をする。
ベリーちゃんとマメくんは、日に日に大きくなっている。
「少し青くなった気がしない?」
「まだまだだよ」
二人は毎朝、お互いの姿を見ては笑い合った。

「イテッ!」
久しぶりに庭に出てきた、N氏の悲鳴が聞こえた。
「大丈夫ですか?」スタッフの人が声をかけた。
イラガだった。

近ごろのお母さんベリーの悩みだった。
お母さんベリーは、イラガに服を囓られていた。
N氏は、自分の迂闊さを罵ると同時にイラガの付いた枝葉をむしり取って踏みつけた。
N氏とイラガの闘いには終わりがなく、N氏たちはお母さんベリーを必死で守っていた。
そうしている間に、庭ではイチジクの実が膨らみ、ブドウも房を作り始めている。
誰もが夏を心待ちにしていた。
六月。
ビギニング・オブ・ジューン。
長雨が続いた。
朝から晩まで雨。
太陽はなかなか顔を見せない。
「ジメジメするねえ」
「早くお日さまが見たいな」
ベリーちゃんたちは雨粒に打たれながら耐えた。
病気で弱る仲間も現れた。
落ちていく実を見送るたび、お母さんベリーは静かに枝を揺らした。
「みんな精いっぱい生きたんだよ」
ベリーちゃんは胸が締め付けられた。
六月。
ミッド・オブ・ジューン。
南の海で生まれた台風が近づいてきた。
N氏は空を見上げながら言った。
「これはまずいな」
支柱を確かめ、鳥よけネットをはずし、庭を見回る。
その夜。
風がうなり声を上げた。
ゴォーッ。
枝が大きく揺れる。
「怖いよ!」
マメくんが叫ぶ。
「離れちゃだめ!」
ベリーちゃんも必死だった。
お母さんは全身で子どもたちを守った。
「しっかりつかまるんだよ!」
風と雨は一晩中続いた。
翌朝。
台風は去っていた。
庭には折れた枝や傾いたブルーベリーの木もあった。
落ちた仲間もいた。
ベリーちゃんとマメくんは無事だった。
朝日が差し込む。
二人の体は昨日よりも青く色づいて見えた。
「生き残ったね」
「うん!」
お母さんがうれしそうに枝を揺らした。
試練を乗り越えた実だけが、本当の夏へ進む。
――つづく。
次回、ベリーちゃんには思いがけない運命が待っていた。
