ブルーベリーたちが日本人の嗜好を変えた「N氏の庭探訪記」(147)庭仕事は戦いだ
五月の陽射しの下、N氏の庭のブルーベリーが枝いっぱいに実をつけていた。今年は近年にない豊作。まだ青い実ばかりだが、枝は重たげに揺れ、「今年こそ主役だ」と胸を張っているようだ。

「夏休みまで、うまく持ってくれればなあ」
N氏は空を見上げた。孫たちは遠くに住んでいて、帰って来るのは夏休みだけ。その日を待ちながら、N氏は毎朝ブルーベリーを見回っている。
N氏が子どもの頃、夏のご馳走といえばスイカだった。井戸水で冷やした大玉を家族で囲み、種飛ばしを競った昭和の夏。ブルーベリーは北アメリカ生まれ。日本へ本格的に渡来したのは戦後だという。眼にいいということで評判になり、普及したのは20世紀も末。
今の子どもたちは、甘さだけでなく酸味も楽しむ。日本人の味覚も変わった。N氏は今年も実を冷凍保存するつもりだという。最近は凍らせたブルーベリーをヨーグルトに入れる食べ方も人気らしい。時代が変われば、果物との付き合い方も変わる。

その時だった。電線の上から、「ギャア、ギャア」と騒がしい声が降ってきた。見上げると、数匹のムクドリがこちらを見下ろしている。
「おっ、今年は豊作だぞ」
「食べ放題じゃないか。楽しみだな」
そんな相談をしているように見える。
「これはまずい」
N氏は急に慌て始めた。倉庫からネットを引っ張り出し、汗をかきながら木を囲み始める。ブルーベリーたちもざわついている。
「敵襲だ!」
「空から来るぞ!」
だが、葉の裏にはイラガが潜んでいるかもしれない。黄緑色の幼虫がかじっている葉もある。イラガには今までさんざん苦しめられた。N氏は顔をしかめながら、慎重にネットを張っている。
「鳥にも虫にも食わせん」
私はその姿を見ながら、少し微笑ましくなった。遠くの孫たちが夏休みに帰ってきて、小さな籠を持って実を摘む。その姿を見るために、N氏は今日も庭で戦っている。
風が吹くたび、ネットの向こうでブルーベリーたちが揺れていた。
「これで大丈夫。早く孫さんたちに会いたいな」
そんな声が、初夏の庭から聞こえてきた。
