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面影をさがして。第一章④

「いただきます」
 
 両手を合わせて目を閉じる。
――カメラを向けたのは、
 ほんの一瞬だった。
 
 気づかれてはいないと思う。
 
 祐樹は、誰かと話していて、
 こちらを見ることはなかった。
 
 笑っていた。
 
 私には関係のない顔で。
 
 それを消さなかった。
 
 目を開ける。
 
 今年の春から、
 いりこと昆布で出汁を取ることにした。
 
 湯気の立つお椀に箸を入れた瞬間、
 わかめと豆腐が顔を出した。
 
 焼いた鮭の匂いが、
 まだ台所に残っている。
 
 そのまま、
 何も考えず、
 喉を通る温度を感じ続けた。
 
 味は、あとからついてきた。
 ただ、それだけだった。
 
 寝室に入る時間が、
 一日の中で一番好きだ。
 誰にも邪魔されず、
 祐樹のことを思い出せる。
 
 私は、いつものように、
 ICレコーダーを取り出し、
 イヤホンを耳に差した。
 
 今夜も眠くなるまで
 あの日の祐樹と共に過ごそう。
 そう思い、
 再生ボタンを押した。
 
 私は寝返りを繰り返し、
 やがて深い眠りについていた。
 
 目覚ましが鳴る前に
 いつものように目が覚めた。
 
 頬のあたりが濡れていた。
 
 直前に見た夢が、
 現実にまで染み出していた。
 
 嫌な予感がして、
 起きてすぐ、
 トイレに入った。
 夢の中でも、血を見た気がしていた。

 ショーツが赤く染まっていて、
 生理が来たことを確認した。
 
 来るってわかっていたのに、
 うっかりしていた。
 私は、ショーツを履き替えて、
 ナプキンをつけた。
 
 ため息をつきながら、
 洗面所で
 血液で汚れたショーツを
 手洗いして洗濯機に入れた。
 
 水の色が、ゆっくり薄くなっていった。
 
 仏壇に向かって
「おはよう。
 やらかしちゃいました。
 朝ごはん食べる時間なくなっちゃったわ。
 食欲ないからいいけど……
 行ってくるね」
 
 いつもより、
 少しだけ早く手を合わせた。
  
 ふと思い出し、
 足を止め、
 寝室に駆け上がった。
 
 汚れていたのは
 ショーツだけ?
 
 パジャマやシーツは大丈夫?
 
 そこには、昨日聞いていた
 ICレコーダーが
 出しっぱなしになっていた。
 再生ランプが、まだ赤く光っていた。
 
 音は、もう流れていなかった。
 
「生理の時は
 なんだか調子が狂うよね……」
 
 それを引き出しにしまったあと、
 パジャマとシーツに、
 血液がついていないか
 視線を滑らせた。
 
「セーフ」
 小さくつぶやいた。
 
 身支度を整えて、
 玄関に鍵をかけて家を出た。


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