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つなぐ海 二章 牧村家④

視界に入る家屋は、本当にぽつんぽつんと点在するだけだった。

後ろを振り返ると、瓦屋根の日本家屋に、
「牧村」と書かれた表札がかかっている。

辺り一面には草花が咲き、野原のような景色がどこまでも続いていた。

少しモヤがかかっているようにも見える。

渚が思い描いていたような、“道らしい道”は、どこにもなかった。

五分ほど歩いた頃だった。
見覚えのある顔が、視界に入った。


「お父さん!!」

信じられない気持ちのまま、父の姿形をした“何か”へ駆け寄った。

「渚? なんでこんなとこいるんだ? お母さんは元気か?」

渚は恐る恐る、父の腕に触れる。

――あ、触れる……。

父は去年、肺炎を起こし、そのまま還らぬ人になっていた。

優菜ちゃんが見ていることも忘れて、二人は抱き合って泣いた。

優菜ちゃんは、ふっと笑うと、後ろを向いてしゃがみ込んだ。

こうなると、しばらく二人の世界になってしまうことを、優菜ちゃんは知っていた。

スズは、そんな優菜ちゃんのまわりを走り回っていた。

「お母さん、お父さんが居なくなってから、しばらく抜け殻みたいだったよ」

「そうか。悪いことをしたな」
父は、寂しそうに笑った。

「でも最近は、少し元気になってきてさ。この前も、お友達と旅行に行ってたよ」

近所のおばちゃん達とのバス旅行を思い浮かべていた。

「お母さん、いい人ができたわけじゃないよな?」

父が、急に心配そうな顔になる。

――あの世でヤキモチ焼いてる。
渚は思わず可笑しくなった。

けれど同時に、“あの世で修羅場になる夫婦”の存在を想像してしまい、ぶるっと肩を震わせる。

――あの世で修羅場とか、怖っ。

そう思った瞬間、
優菜ちゃんがクスッと笑った。

「あるよー。そういうの、割としょっちゅう」

「えっ?」

渚は目を瞬かせた。

「……私、口に出してないよね?」

優菜ちゃんが、少し得意げに笑う。

「うん。私、こっちに来てから、人の心の声が聞こえるようになったの」

「えぇっ……」
言葉にならないまま、パニックみたいな感情が頭の中で交錯する。

「大丈夫だよ。渚さんが悪い人じゃないことは、私が保証するから」
優菜ちゃんは、にこっと微笑んだ。

――なんだか微妙だ……。

安心していいのか、わからない。
そして、やっぱり少し怖い。

「わかるよ。でも、本当にそれが嫌なら、生まれ変わって、ここからいなくなるしかないよ」
優菜ちゃんは、どこか寂しそうに言った。

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