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つなぐ海 一章 海

~あらすじ~
能登半島で介護職として働く、三十歳の結城渚
彼女は前年の能登半島地震で、父を災害関連死で亡くしていた。ある日、海辺で不思議な渦に飲み込まれた渚は、“あの世”へ迷い込む。そこで出会ったのは、東日本大震災の津波で流された親子だった。
渚は、亡き父や友人との再会を果たしながら、能登半島豪雨で命を落とした少女と女性を繋ぐ役割を担うことになる。
“誰かを知ろうとすること”が、魂を結びつける世界。介護の現場で多くの別れを見つめてきた渚は、死者たちとの交流を通して、「生きて帰る意味」と向き合っていく。
今と未来、この世とあの世を繋ぐ、再生と祈りの物語。大切な人を失った者たちへ贈る、鎮魂と希望のストーリー。


海面を眺めていた。

水平線の近くが、うっすら茶色く濁っている。
その手前。規則的な波の流れの中に、ひとつだけ、不自然に揺れている場所があった。

イルカ?クジラ?

時々、何かが水面から顔を出す。
だけど、跳ねない。生き物というより、漂流物のようにも見えた。
大きな木材かもしれない。

ふと、流された家を想像した。

私はしばらく、その場所から目を離せなかった。

仕事へ向かう途中だった。いつもの駐車場に車を停める。
遅番の日は、ここで少し時間を潰す。

海を見ながら気持ちを切り替えないと、介護施設の空気に入っていけない日がある。

利用者さんの体調。職員同士の空気。看取り。家族対応。

疲れていないつもりでも、心のどこかが擦り減っている。

だから、私は、ときどきここで海を見る。
その日の海は、いつもと違った。

気づけば、車を降りていた。

横断歩道もない国道を渡り、防波堤へ向かう。
近づくにつれて、視界がおかしくなっていった。

波ではない。

景色そのものが、渦を巻いている。
空も。水平線も。遠くの岩場も。
ぐるぐると回転し、中心へ吸い込まれていく。

えっ……?

足がふらついた。
息を呑んだ瞬間、視界が大きく歪む。
引きずり込まれる。

次の瞬間、私の身体は宙に浮いていた。
渦の中で景色が砕ける。
世界の輪郭が、ばらばらになる。

そのまま、私の意識は途切れた。

気がつくと、私は畳の上に寝かされていた。
やわらかい陽射しが障子越しに差し込んでいる。

知らない天井だった。

ここ、どこ……。

ゆっくり身体を起こす。
頭は少しぼんやりするけれど、自分が誰なのかはわかった。

結城渚。
三十歳。
介護職。

そこまでは、はっきりしていた。

視線を横に向けると、大きな犬がこちらを見ていた。

黒く、細く、足が長い。
短毛の大型犬。

犬は静かに立ち上がると、
ワン、と一度だけ鳴いた。

「スズ、どうしたの?」

襖が開いた。

入ってきたのは、中学生くらいの女の子だった。


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