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spinel3
押し入れの中のくま。8
(くまくん、体、洗ってほしい)
「あらう……?」
(その先っぽ。
くちばしみたいなところ、押してみて)
「こうかな?」
とろっとした
ボディーシャンプーの塊が、
お風呂の床に落ちた。
―あぁ。
(今度はね、もう一つの手で受け止めて)
「こうかな?」
(そうそう。上手。
そして、その手を私の背中に置いて撫でてみて)
(いたっ)
あの日の傷が
ボディシャンプーに染みて、
痛い。
「ごめん。だいじょうぶ?」
くまくんは、
不安そうに
手を止めた。
(大丈夫だよ。続けて)
「これ、いい匂いだね」
くまくんは、
人間の鼻を
くんくんさせる。
(くまくん、両手で大きく撫でて)
「こうかな?」
野生のくまの汚れは、
どうやら
泡立ちにくいらしい。
(ちょっとだけ、シャワーかけて。
そのあと、もう一回お願い)
「うん」
やっと、
ボディシャンプーが
本領を
発揮しはじめた。
「うわー、すごい。
白い泡がたくさん出たよ」
(その調子。頭もお願い)
「うん。
たのしいね。頭はこうかな?」
(いたっ。目に入ったよー)
「ごめん。うわーん」
くまくんは
泣き出してしまって、
とっさに
涙をぬぐったようだった。
「あっ。痛い。
なにも見えない。
たすけて」
――残念だけど、
私も
何も見えない。
助けてあげられないよ……
(うわーん)
「うわーん」
