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立夏。

五月五日。こどもの日。
私はこの日を、三十年以上前から
「友達の誕生日」として上書きしている。

覚えやすい日だから、
忘れない。
友達だった時間はそう長くないのに、
気が付けば、
かけがえのない親友となっていた。

Hちゃん、誕生日おめでとう。
Hちゃんが亡くなって、もう三年が経ちました。

大学生だった私たちは、
いつも一緒につるんで、
他愛ないおしゃべりに興じていた。

物書きになりたい夢を持って上京した私は、
何物にもなれないまま、
夫と結婚するために、田舎に戻ってしまった。

誰にも内緒でと、
Hちゃんが書いていた小説を
読ませてもらったよね。

その才能に、私が嫉妬した時も、
「幸せな人に小説は書けないよ」
そう言って、
慰めてくれた。

別々の道を歩いていたけど、
時々、一緒に旅行したし、
彼女の住んでいるところにも行った。

彼女が、一度目の乳がんを発症した時、
私も人生の暗闇を彷徨っていた。

お互いに、支えあって、
その時期を乗り切った。

もうすぐ寛解という時期に
再発したと知った時は、
彼女自身、幸せな再婚をして何年も経ってなかったから、
どうして、今?と
神を恨んだろうと思う。

彼女は、つらい治療にずっと耐えていた。

私は、二十五歳の時に、
長く生きれないかもしれないと医者に言われていたから、
その弱音をずっと彼女に吐きつづけていたのだけど、
彼女が、痛いとか、つらいとか
マイナスな発言をすることは、
私の前では一度もなかった。

彼女の癌が全身に広がって
脳にまで転移した時、
ちょうど、コロナの時期で、
介護施設に勤めていた私は
随分迷ったけれど、
彼女の通院のタイミングで、
付き添いと称して、
彼女に会った。

久しぶりに会った彼女は、
リンパの腫れがすすんでいて、
別人のような体型になっていた。

それでも、
彼女の意思のある瞳は
以前と変わることなく、
むしろ、強く優しくなっていた。

方向音痴の私を
最後の最後まで心配し、
バランスがとりにくい体で
気遣ってくれていた。

片手がやっと使える状態だったと思うけど、
彼女とのラインが途切れることはなかった。

だけど、
その日もらったラインは、
彼女の書いたメッセージではなかった。

彼女のご主人からで、
「そろそろと言われています」と。

私が、彼女に会いに行けたのは、
それから二日くらい経ってからだったけれど、
彼女は、熱にうなされていて、
間にあわないかもしれない。

と、ご主人から何度もラインが届いた。

私は、それでも、
彼女に会いたい一心で、
彼女のご自宅に向かった。

途中で道に迷ったけれど、
彼女のお父様が迎えに来てくれて、
私が到着した時に、
彼女はまだ生きていてくれた。

私が来るのを待っていてくれた。
もう、意識はなかったけれど。

私もそのころ、それほど体調もよくなかったし、
したいこともなかったから、
彼女に、
寂しかったら、私を連れて行ってくれてもいいよ。
そう言った。

だけど、実際はそうはならなかった。

ご主人には、
飼っていた猫を連れて行くと言い残し、
実際にその猫を連れて行ったそうだ。

彼女が旅立った時、
私は、浅草のホテルで夫と一緒にいた。

夫が朝起きてすぐ、
どこも開いてないのに、
夜中に何度も風が吹いた。

と首を傾げていた。

私は、ハッとして、
跳び起きてスマホに向かった。

多分夫が風を感じたその時間、
Hちゃんは、私と最後のお別れをしに来てくれていた。

私は、疲れていて、
それに気が付くことはなかった。
にぶすぎて笑えた。涙がこぼれた。

彼女は、私の夫と唯一話せる女友達で、
私をよろしくと、
夫に託していったのだと思う。

彼女が逝ったのは二〇二三年の三月だった。

桜が咲いたら、私に会いに来るよ。
そう言ったままの別れになった。

二〇二五年の三月、
私は再び、彼女が住んでいた土地に
足を運んでいた。

彼女の三回忌があって、
私は茨城の地に向かったのだ。

能登半島地震からそれほど経っていなかったけど、
母も一人暮らしを始められていたし、
二〇二五年の追悼セレモニーを母と二人で参加して、
それから、少しずつ時間が動き始めていた。

三回忌に参加した時、
ご主人に新しいパートナーがいるという話を伺った。
私はとても複雑な気持ちになったけれど、
彼女は最後まで、
ご主人のことを心配していたから、
きっと、そのことも全て許すのだろうと思った。

三回忌から帰って来た翌月、
私はあんなにもがいても書けなかった小説が
ふっと書けるようになった。

今から思えば、
小説と呼べるような代物ではなかったかもしれないけど、
そこが私の原点になった。

多分、Hちゃんは、今、私の側にいる。

私が自分の才能を信じて進めるのは、
私ひとりの力ではないと、
どこかでわかっているからだと思う。



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