メジャーに奪われた。だから傑作になった。——Beck『Mutations』
1998年3月19日から4月3日、ハリウッド。Ocean Way Studiosに2週間でこのアルバムは録られた。
Beckは自費で制作し、インディーレーベルBong Loadからリリースするつもりだった。しかしGeffenのエグゼクティブが完成したアルバムを聴き、契約条項を行使して無断でDGC Recordsから発売した。
Beckの同意も報酬もなかった。
翌1999年、訴訟になった。
それでも翌年、グラミー賞Best Alternative Music Albumを受賞した。
Beckというミュージシャン
本名Beck Hansen、1970年ロサンゼルス生まれ。 祖父はFluxusアーティスト、父はストリングアレンジャー——その血筋がそのまま音楽になった。
1996年の『Odelay』でグラミーを獲得し、世界的スターとなった。 その直後に作ったのが本作だった。期待されたものを作らない——それがBeckの一貫した姿勢だ。
『Mutations』という一枚
1998年11月3日リリース。DGC Records。全12曲。
プロデュース:Beck Hansen & Nigel Godrich。録音:Ocean Way Studios、ハリウッド。メンバー:Roger Manning Jr.(キーボード・オルガン・ピアノ・シンセサイザー)、Justin Meldal-Johnsen(ベース)、Joey Waronker(ドラムス・パーカッション)、David Ralicke(トロンボーン)。ストリングアレンジ:David Campbell(Beck実父)。 タンブーラ、シタール、クイカなどのエキゾチックな楽器も使用。全曲Beck作曲。
——メジャーに奪われた。だから傑作になった。
『Odelay』のサンプル主体のヒップホップ的手法から離れ、アコースティックとサイケデリックフォークの静謐な世界へ。
「Tropicalia」のボサノヴァの匂い、「Nobody’s Fault But My Own」の重く沈むブルース、「Cold Brains」の夢遊病的な美しさ——Moogキーボード、アコースティックギター、弦楽アレンジが溶け合い 、前作とは全く異なるプロダクションスタイルが生まれた。
「Dead Melodies」のタイトルが示す通り、このアルバムは生きているのに死んでいるような音楽だ。隠しトラックまで含めた49分が、静かに、深く沈んでいく。
どんな夜に聴いてほしいか
何かに抵抗している夜に。
期待されたものを作らなかった男の音楽は、期待に応えることに疲れた夜に沁みる。
Beckはメジャーに奪われた作品で、グラミーを獲った。皮肉でも悲劇でもなく、ただそういうことが起きた——その淡々とした事実が、このアルバムの静かな強さと重なる。
TRACKLIST
1 Cold Brains
2 Nobody’s Fault but My Own
3 Lazy Flies
4 Canceled Check
5 We Live Again
6 Tropicalia
7 Dead Melodies
8 Bottle of Blues
9 O Maria
10 Sing It Again
11 Static
12 Diamond Bollocks(隠しトラック)
メジャーに奪われた。だから傑作になった。
幻音社
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