「THE:BLUELINE」 第3話

「ぼさっとしてないで、早く仕事終わらせるよ」
「うわっ!」
 
 初タイムスリップに驚きと戸惑いと感動を覚えてボーッとしていると、突然俺の横に未香さんが現れた。
 
「仕事を終わらせるってったって、俺達何すりゃ良いんだ?」
 
 未香さんはポケットからスマホを取り出すと、俺に1枚の写真を見せた。6歳くらいの少女が、まさに今、俺の目の前にある家の庭で、元気に遊んでいる姿だった。
 
「10分後、この子は小学校に行く途中で飲酒運転していたトラックとの事故で死ぬ。それを防ぐのが私達の仕事」
「なぁーんだ簡単じゃん。その子の側でずっと見張って、危ない場面が来たら助ける。それですむ話っしょ」
 
 未香さんは、呆れたようにため息を吐いて行った。
 
「バカなの?」
「!?」
 
 え、実は毒舌系女子? 確かに店長に対してかなりきついことを・・・・・・。 睨み付けてくるわけでもなく、嫌みを言っている感じもしないから、悪気があるようには見えないが、常にポーカーフェイスできついこと言ってこられると流石に辛い。
 
「そんなことして、ストーカーに間違われて通報とかされたらどうするの? 後々めんどうになるに決まってるでしょ」
 
 何か、薄々思ってたけど。夢の中の彼女に抱いた天使みたいな俺の幻想と、現実とのギャップが・・・・・・関わりずれー。
 
「じゃあどうすんだよ」
「普通に、事故現場でその子が来るまで待つだけ」
「やっぱ簡単じゃーん」
 
 ちょっとおちょくってみたが、彼女の表情は微動だにしない。
 
「問題は、その子を救った後・・・・・・昨日慧人を襲った怪物が、私達を襲ってくる」
 
 昨日俺を襲った怪物って・・・・・・あの変なビーム打ってくるやばい奴か。俺の胴体と首をさよならさせた、俺の仇。
 
「ま、マジかよ」
 
 やばい、震えが・・・・・・。
 
「大丈夫、貴方は絶対に死なないから」
「いや、そういう問題?」
 
 あの時は一瞬すぎて自分が死んだ事にすら気づいてなかったけど、今改めて振り返ると、正気を保てなくなるくらいトラウマもんなんだけど。
 まぁ、なんで死んだ俺が生きてんだとか色々と聞きたい事はあるけども・・・・・・。
 
「流石に・・・・・・また死ぬのは恐いな」
 
 つい、弱音を吐いた。
 
「私が守る。だから、安心して」
 
 何か、くるな・・・・・・今の台詞。

 女の子に守られる・・・・・・か、悪くはない。けどやっぱり、守られてばっかじゃ俺も情けない。
 
「頑張るかー、俺も。あんたの役に立てる様に・・・・・・」
 
 俺達はそのまま、ヤクザおっさんの娘が亡くなった事故現場へと向かった。しばらく二人で待っていると、その子は現れた。
 ランドセルを背負って、眠たそうに目をこすりながら歩いている。
 未香さんはおっさんの娘のところまで駆け寄った。
 
「ごめんね、この道は危ないから、他の道を通ってくれないかな」
 
 未香さんは、表情は一切変えずに優しい物腰で言った。
 
「でも、知らない人の言うこと聞いちゃいけないって、お母さんが・・・・・・」
 
 うわ、それ言われるとちょっとめんどうだな。どうするんだ? 未香さん・・・・・・と、彼女の顔を見ると。
 何故だろう、何も喋ってないし表情はあまり変わってないのに、めっちゃこっちに来いって言ってるのが伝わってくる。
 俺もその場に駆け寄ると、未香さんは俺に耳打ちした。
 
「私、こういうのちょっと苦手だから任せた・・・・・・」
「いや任せたって、ええ? 丸投げ?」
「大丈夫、少しでも長く話して、トラックが交差点を過ぎるまでの時間を稼げば良いだけだから」
 
 稼げば良いだけって・・・・・・初対面の小学生女子と一体何話して時間稼げば良いんだよ。
 
「あー、えっと君名前は?」
「名前も教えちゃ駄目って言われた」
 
 やばい、俺がどんどん不審者になっていく。
 
「そっかー、じゃあ教えてくれなくても良いよ。別にお兄さん達は君をどこかへ連れて行こうなんて考えてないから・・・・・・ね?」
 
 ヤクザおっさんの娘はきょとんとした顔で俺を見た後、純粋無垢な眩しい笑顔を俺達に向けて言った。
 
「そっか! 変な人じゃなくって良かったー!」
 
 何て・・・・・・純粋で、素直な可愛い子なんだ! 非常に将来が心配だ、悪い意味で。
 
「変な男に将来騙されないと良いけど」
 
 未香さんが呟いた。
 
「おいおい」
 
 何てしょうも無い会話をしているうちに、この子の命を奪うはずだった飲酒運転トラックはあっけなく交差点を通り過ぎていった。

「え? これで終わり?」
「取りあえずは」

 ホッと胸をなで下ろし、純粋な少女を交差点の向こうへとエスコートする。
 
「もう大丈夫だよ、この道通って」
「本当? ありがとう・・・・・ございます!!」
 
 未香さんと俺は、口を揃えて言った。
 
「お礼言えて偉い」
 
 ヤクザおっさんの娘は無事交差点の向こうへとたどり着き、そのまま学校へと向かっていった。
 
「良かったー、助けられ・・・・・・」
「!?」
 
 突然、世界が止まった。辺りに見える物の色が、俺達を除いて反転する。
 
「来る、パラドックスが」
「パラ・・・・・・何?」
「未来から来た、時間に起こった異変を正す、歴史の管理者。昨日貴方が言ってた化け物」
 
 未香さんが拳を握りしめると、右手の時計から青く光り始めた。
 
「貴方も早く戦う準備をして」
「準備って、それどうやってするんだよ!!」
 
 青い光はまるで血管を通るように体全体にゆっくりと広がっていく中、未香さんは光る青い瞳で俺を見つめて言った。
 
「想像するの・・・・・・それだけ」
「想像って、ぇぇ? ど、どう想像すれば」
 
 次の瞬間、キーーーーーーーッという音が当たり全体に鳴り響いた。
 来る!! 身構え、音のする上空を見上げると、体の内からマグマが湧き上がるように真っ赤に光った人間型の化け物、パラドックスが現れる。
 
 今度のパラドックスは、耳元まで裂けた口を大きく開き、横断歩道を渡りきったヤクザおっさんの少女へと向けた。
 
「やべぇ!!」
 
 未香さんは体をフワッと浮き上がらせると、ものすごい勢いでパラドックスの方へと突進していった。
 
 エネルギーを口にため込んだパラドックスが、今まさにビームを放とうとしたその時。
 
「させない!!」
 
 未香さんは全身に広がった青い光を両手に収縮させ、パラドックスの口元に向けて手をかざした。
 
 キーーーーーーーー・・・・・・・。
 
 その瞬間、パラドックスの口元周辺の空間が歪んだ。そのせいか、パラドックスがビームの前に放つ不気味な音が聞こえなくなった。
 
 パラドックスがビームを放つも、そのビームは未香さんが歪めた空間の中に押し込められてしまう。
 
「今回は普通にそっちを狙うって事ね」
 
 何とかビームを阻止しきった未香さんは、再び腕から青いラインを全身に張り巡らせると、パラドックスの方へ再び向かっていき、頭に跳び蹴りを一発かました。
 
 ドシン!!
 
 辺り全体に響き渡る程の大きな音が、その蹴りの威力を物語っていた。だが、パラドックスの頭はびくともしない。
 首を90度に回転させ、直ぐさま未香さんに向けて小さなビームを放つ。
 
「!?」
 
 美香さんは手元に小さな空間の歪みを作ると、放たれるビームを起用に手元に当てて防いだ。だけど・・・・・・。
 
「あんなの、一発でも当たったら・・・・・・」
 
 さっきから何回も青いラインが全身を張り巡るイメージをしているのに、全然でねぇ。
 そもそも想像するって言ったって、全身に青いラインを張り巡らせたことなんて人生で一度もない。当たり前だけど。
 
「くそ、そうすれば!!」
 
 次の瞬間、パラドックスの左手が口の形に変形した。
 
「は? 何それ!!」
 
 驚いた様子で美香さんが叫ぶ。何とか左手に攻撃を加えようとする美香さんは、苦し紛れに右手に出していた空間の歪みをパラドックスの左手に投げつける。右手でそれを防いだパラドックスだったが、その右手は歪んだ空間に潰されて手首からひきちぎられた。
 
 変形した左手の口にエネルギーが収縮され、キーーーーーーッという音が鳴り響く。
 
 やばい、間に合わない!!
 
 その瞬間、世界がスローモーションに見えた。パラドックスも、美香さんの動きも、俺の動きも、全てゆっくりに動く。
 
 だが、ゆっくりに見えたところで、間に合わない事に変わりは無い。
 
「(くそ!! あんな化け物に、殺させてたまるかよ!!)」
 
 時間の進みを正すだか何だか知らねぇけど、そんなの知るか!!
 お前ら化け物だから分かんねぇんだろ。周りから人が消えていく気持ちが。
 ヤクザのおっさんが味わった苦痛が!!
 
「もう、意味分かんねえ理由で、絶対に、俺の知ってる人を消させねぇ!!」
 
 その瞬間、スローモーションになった世界で、俺の体だけが、早く動いた。全身には青い光のラインが張り巡らされ、体の内から力が湧き上がってくる。
 
 全速力で走り、ヤクザのおっさんの娘を抱きかかえ、間一髪でビームを避ける事が出来た。
 
「ふー、危ねぇじゃんかよ」
 
 ビームを打つまでのスピードは遅くなっても、ビームの速度は変わらないらしい。全くどうなってんだか。昨日から不思議な事ばっかりだ。
 
 全身に張り巡らされた青いラインを確認し、湧き上がる力の快感に思わず拳を握りしめる。
 
「ぶっ飛ばしてやる!!」
 
 俺はその場で思いっきり飛び上がり、パラドックスの頭めがけて拳を向けた。
 
「おらああああ!!」
 
 俺の拳がパラドックスの頭にヒットすると、その衝撃でパラドックス首は、遙か彼方に吹っ飛んだ。
 遺された体は、青い光となってゆっくりと消滅していく。
 
 スローモーションになった世界が元に戻り、美香さんは消滅したパラドックスの青い光を見て、ホッとした表情で呟いた。
 
「これでまた、ブルーラインに一歩近づく・・・・・・」